労働審判中に会社更生手続が開始した場合の取扱い【会社側弁護士が解説】
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会社更生手続は、経営危機に陥った大企業が事業を継続しながら再建を図るための法的手続きです。この手続中に係属している労働審判手続がどのように扱われるかは、実務上、重要な論点の一つです。
破産と異なり、会社更生では事業の継続が前提となるため、労働者への対応も破産の場合と異なります。賃金債権の種類によって手続きの進み方が変わるため、管財人・会社双方が正確に把握しておく必要があります。
本記事では、会社側専門弁護士の視点から、労働審判手続中に会社更生手続が開始した場合の法的処理を具体的に解説します。
01原則:労働審判手続は中断されない
会社更生手続が開始した場合も、係属中の労働審判手続は原則として中断されません。会社更生法に基づく管財人(更生管財人)が手続を承継し、管財人が当事者の地位に就くことになります。
これは、労働審判が迅速な紛争解決を目指す手続きであること、また会社更生においては事業の継続が前提とされているため、すべての手続を一律に停止する必要がないためです。
ただし、請求の内容が「共益債権」に当たる賃金か「優先的更生債権」に当たる賃金かによって、その後の手続の進め方が大きく異なります。
02共益債権となる賃金債権の場合
共益債権に当たる賃金債権(会社更生法第130条)は、更生計画によらず随時弁済することができます。これは、会社の事業継続のために必要な費用として優先的に弁済される債権です。
共益債権に当たる賃金については、会社更生手続開始後も労働審判手続の審理が進められます。更生管財人が当事者として対応し、審理・調停・審判の各段階を経ることになります。
この場合、更生管財人は速やかに弁護士に審判対応を依頼し、期日への出席、主張・立証の継続を行う必要があります。共益債権部分について不利な審判が確定すると、更生財団からの弁済義務が生じるため、慎重な対応が求められます。
03優先的更生債権となる賃金債権の場合
優先的更生債権に当たる賃金債権は、更生計画の定めによって弁済されるため、更生計画の認可前に他の手続で弁済を受けることは認められません(会社更生法第47条等)。
この場合、労働審判委員会は、申立てを不適法として却下するか、少額債権として裁判所の許可に基づき調停を行うことを検討することになります。労働者側としては、更生債権の届出を行って更生手続内での弁済を求める流れとなります。
会社(管財人)の側では、請求の内容が優先的更生債権に当たるかどうかを精査した上で、裁判所への報告と適切な手続き選択を行うことが重要です。
04会社・管財人が取るべき実務対応
会社更生手続開始後に労働審判手続が続行する場合、更生管財人はいくつかの点に注意が必要です。まず、労働者の請求が共益債権か優先的更生債権かを区分し、それぞれの取扱いを整理することです。次に、共益債権部分については、審判期日に適切に対応し、不要な認定を避けることです。さらに、優先的更生債権部分については、更生手続内での届出・弁済に移行するよう調整することです。
会社更生は通常、大規模企業を対象としていますが、労働者との間に係属中の労働審判があれば、その対応を放置することは許されません。更生管財人は、会社更生と労働審判の両手続を適切に管理できる弁護士と早期に連携することが不可欠です。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
05よくある質問(FAQ)
Q1. 会社更生手続中に、労働者から新たに労働審判を申し立てられることはありますか?
可能ではあります。ただし、更生手続開始後の賃金請求は、共益債権か優先的更生債権かによって手続が異なります。新たに申立てがなされた場合は、更生管財人が速やかに弁護士に相談し、適切な対応方針を定める必要があります。
Q2. 共益債権と優先的更生債権はどこで区分されますか?
大まかには、更生手続開始後に発生した賃金が共益債権、開始前の賃金が優先的更生債権となります。ただし詳細は会社更生法の規定によるため、具体的な事案については弁護士にご相談ください。
Q3. 労働審判で和解が成立した場合、更生計画との関係はどうなりますか?
共益債権部分の和解は、更生計画によらずに弁済できるため、更生計画の認可前に支払うことも可能です。優先的更生債権部分については、更生計画に反する和解は問題となり得るため、更生管財人・裁判所と十分に協議する必要があります。
Q4. 会社更生手続と民事再生手続では、労働審判の扱いは異なりますか?
基本的な考え方は共通していますが、民事再生では従業員への賃金が再生債権ではなく共益債権として保護されるケースが多く、詳細は手続の種類・規模・認可内容によって変わります。具体的な事案では弁護士への相談をお勧めします。
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最終更新日:2026年5月10日