労働問題1027 退職勧奨とは?解雇との違いと法的な位置づけを会社側弁護士が解説

この記事の要点

退職勧奨は「合意による退職をお願いする手続」——相手の同意がなければ成立しない

解雇は会社の一方的な意思表示で成立するが、退職勧奨は相手が「はい、辞めます」と同意してはじめて合意退職が成立する。この根本的な違いを理解することが出発点

解雇が難しいからこそ退職勧奨が重視される——日本の解雇規制の現実

解雇には客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要で、ハードルは高い。そのため、話し合いによる合意退職(退職勧奨)を選択する会社が増えている

退職勧奨は「任意」——拒否されれば終了、強制すれば違法になる

退職勧奨を拒否することは社員の権利。度を超えた執拗な勧奨・脅迫的な言動は不法行為になりえる。任意性を守ることが退職勧奨の大前提

「断ったら有効な解雇になる状況」を作ることが退職勧奨を有利にする

退職勧奨の成否は当日の話し方より事前準備で決まる。注意指導・懲戒処分を積み重ねることが、退職勧奨を有利に進める最大の準備

01退職勧奨とは何か

 退職勧奨とは、会社が社員に対して、合意による退職をお願いする手続のことです。

 「辞めていただけませんか」という提案を行い、社員が「はい、分かりました」と同意することで、合意退職が成立します。この合意があってはじめて退職が成立するという点が、退職勧奨の最も重要な性格です。

 退職勧奨に応じるかどうかは、あくまで社員の自由な判断に委ねられています。会社からのお願いに対して断ることも、社員の正当な権利です。

退職勧奨・合意退職・自己都合退職・会社都合退職の関係 退職勧奨によって成立した退職は「合意退職」です。合意退職の場合、雇用保険の手続上は「会社都合退職」として扱うことも、「自己都合退職」として扱うことも、話し合いで決めることができます。一般に退職勧奨による合意退職では会社都合退職扱いとすることが多く、これが退職条件の一つとして提示されることもあります。

02解雇との根本的な違い

 退職勧奨と解雇は、しばしば混同されますが、法的な性格は根本的に異なります。

  退職勧奨(合意退職) 解雇
意思表示の主体 会社が提案し、双方の合意で成立 会社の一方的な意思表示で成立
相手の同意 必要(同意がなければ退職不成立) 不要(一方的に通告できる)
法的な成立要件 双方が合意すれば成立(特別な理由不要) 客観的合理的理由+社会通念上の相当性が必要
後の争いリスク 書面を取り交わせば争われにくい 解雇無効を争われるリスクがある
社員の対応 断ることができる(任意) 従うかどうかではなく有効・無効が争われる

解雇の「客観的合理的な理由」とは

 解雇が有効になるためには、裁判官から見ても「もっともだ」と認められる理由が必要です。たとえば、重大な規律違反・繰り返される問題行動・能力の著しい不足などがこれにあたりますが、いずれも注意指導・懲戒処分の積み重ねなしに一発で認められることは少なく、解雇のハードルは相当高いものとなっています。

 解雇が無効と判断されると、会社は解雇時点に遡って給料を払い続けなければならないリスクが生じます。このため、解雇よりも退職勧奨による合意退職を選択する会社が実務上多くあります。

03なぜ今、退職勧奨が重視されるのか

 日本の労働法制では、解雇に関する規制が厳しく、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方を欠く解雇は無効とされます(労働契約法第16条)。解雇が無効となった場合、その後の給与支払い義務が継続するなど、会社側の負担は非常に大きなものとなります。

 一方、退職勧奨によって合意退職が成立すれば、解雇無効を争われるリスクがなく、お互いの関係を整理することができます。こうした背景から、問題のある社員との関係を整理する手段として、退職勧奨を選択する会社が増えています。

退職勧奨が選ばれる主な理由

  • 解雇より後に法的な争いになりにくい(合意書を取れば双方が合意した証拠になる)
  • 合意が得られれば、解雇の有効性を争われるリスクがない
  • 退職条件の話し合いができるため、双方が納得しやすい形で関係を整理できる
  • 職場環境の悪化を長期間にわたって放置せずに済む

04退職勧奨が違法になるケース

 退職勧奨は、あくまでも合意を求める手続であるため、社員が断った場合はそれを尊重することが基本です。度を超えた方法・態様で退職勧奨を行うと、不法行為として損害賠償請求の対象となることがあります。

違法と評価されやすい退職勧奨のパターン

  • 拒否しているにもかかわらず、執拗に何度も繰り返し求め続ける
  • 「辞めなければ解雇する」「仕事を与えない」など退職を強制するような発言をする
  • 長時間にわたって別室に閉じ込めて退職を迫る
  • 侮辱的・威圧的な言葉で追い詰める
  • 「もう来なくていい」「居場所はない」など、解雇と受け取られかねない発言をする

面談でのやり取りは常に録音されている前提で

 スマートフォンで手軽に録音できる現代では、退職勧奨の面談が無断で録音されているケースが珍しくありません。録音された言葉が後に証拠として使われ、発言の意図とは異なる評価がなされることもあります。

 面談での対話は、具体的な事実に基づいた冷静な説明を心がけ、感情的・威圧的な言葉は使わないようにしてください。「言葉の真意は分かるはずだ」という感覚は、相手に必ずしも伝わりません。録音されていても問題のない言葉遣いで臨むことが基本です。

05合意退職後の書面化——退職届・退職合意書の重要性

 退職について話がついたと感じた場合、必ず書面を取り交わすことが必要です。これを怠ると、後に「退職したつもりはない」「解雇された」と主張され、深刻なトラブルに発展することがあります。

 実際に、出社しなくなったので退職が成立したと思っていたところ、後日内容証明郵便が届いて「不当解雇で無効だ、給与を払い続けろ」という請求がきた、という事案は珍しくありません。

書類の種類 主な特徴・使い方
退職届 本人の退職意思を示す書面。シンプルで取得しやすいが、退職条件(解決金等)の確認は別途必要になる場合がある。最低限これは必ず取ること
退職合意書 退職日・退職理由・解決金・年休の取扱いなどの合意内容を双方が確認する書面。清算条項(「以後、甲乙間に一切の債権債務がないことを確認する」)を入れることで、後の請求を防ぐ効果がある

 解決金の支払いを伴う場合や、後のトラブルを防ぎたい場合は、退職合意書を作成することを強くお勧めします。退職合意書の内容については、弁護士に相談して作成することをお勧めします。

06退職勧奨の成功に向けた事前準備

 退職勧奨の成否は、当日の話し方や段取りよりも、それ以前の準備によって大きく左右されます。

 最も重要な準備は、注意指導・懲戒処分の積み重ねです。日頃の対応の中で、問題のある言動について書面で注意指導し、改善が見られなければ懲戒処分を実施していくことで、「断ったら有効な解雇になりうる状況」が整っていきます。

 この状況が整うことで、相手は退職勧奨を断ることのリスクを現実的に考えるようになり、合意退職に応じやすくなります。また、退職条件をめぐる交渉においても、会社側の立場が安定します。

 退職勧奨を考え始めた時点で弁護士に相談し、どのような準備が必要か、どのような進め方が適切かを一緒に検討することをお勧めします。

まとめ

  1. 退職勧奨は「合意による退職のお願い」——相手の同意があって初めて成立し、断ることは相手の権利
  2. 解雇とは根本的に異なる——解雇は一方的な意思表示、退職勧奨は双方の合意が必要
  3. 解雇が難しいからこそ退職勧奨が重視される——日本の解雇規制の現実から、合意退職を選択する会社が増えている
  4. 度を超えた退職勧奨は違法になりえる——任意性を守ることが大前提、面談での言葉遣いは特に注意
  5. 話がついたら必ず書面を取る——退職届または退職合意書(清算条項入り)を必ず取り交わす
  6. 成功の鍵は当日より事前準備——注意指導・懲戒処分の積み重ねが退職勧奨を有利にする最大の準備

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 退職勧奨は必ず文書で通知しなければなりませんか。

A. 退職勧奨の申し入れ自体は口頭で行うことも可能です。ただし、話し合いがまとまった場合は、必ず退職届または退職合意書という書面を取り交わしてください。書面なしに退職の合意があったとみなすことは、後の「退職したしていない」トラブルの原因になります。

Q2. 退職勧奨を断られた場合、その後解雇はできますか。

A. 退職勧奨を断られた事実があっても、解雇ができなくなるわけではありません。ただし、解雇が有効になるためには、客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。注意指導・懲戒処分を積み重ねておくことが、その後の解雇を有効にするための準備になります。断られた後の対応については弁護士にご相談ください。

Q3. 退職勧奨は何回まで行ってよいですか。

A. 退職勧奨の回数に明確な上限は定められていませんが、社員が拒否の意思を明確に示した後も繰り返すことは、社会通念上の限度を超えたものとして不法行為に評価されるリスクがあります。拒否されたら一旦終了し、次に勧奨を行うタイミングや方法については弁護士と相談しながら判断することをお勧めします。

Q4. 「このままでは解雇になる」と伝えることは問題ですか。

A. 実際に解雇が有効となる見込みがある事案において、その見通しを伝えることは許容される場合があります。ただし、解雇の見込みが低い状況で「解雇する」と断言することや、根拠のない脅し的な言い方は問題になりえます。この点の判断は非常に微妙で事案ごとに異なりますので、具体的な言い回しについては事前に弁護士に確認することをお勧めします。

Q5. 退職合意書の「清算条項」とはどういうものですか。

A. 清算条項とは、「本合意書に定めるほか、甲乙間には一切の債権債務が存在しないことを相互に確認する」といった条項です。この条項があることで、退職合意後に「残業代がある」「ハラスメントの損害賠償がある」といった追加の請求がされにくくなります。退職合意書を作成する際は、弁護士に相談してこの条項を適切に入れてもらうことをお勧めします。

最終更新日:2026年5月8日

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