労働問題1036  突然出社しなくなり連絡が取れない社員

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この記事の要点

当たり前のことを当たり前にやること——これが後の法的対応の土台になる

当日から毎日・複数の手段で連絡を取る努力を継続し、その記録を残す。この「当たり前のこと」が、後の法的紛争でも「会社として誠実に対応した」という事実として機能する

一定の段階で自宅訪問・身元保証人への連絡を検討する

特に長年勤めた正社員が突然来なくなった場合は、自宅を訪問して安否確認することも必要。身元保証人・ご両親への連絡は、心配しているというスタンスで行うと協力を得やすい

長期間連絡が取れない場合の最も実務的な対応——就業規則への当然退職事由の規定

「社員が会社と音信不通または行方不明となり、欠勤が1か月以上(休日含む)に及んだ時は退職とする」という当然退職事由を就業規則に定め周知させておくことで、通知なしに退職の効力が生じる

解雇で正式に終了させる場合は「意思表示の到達」という難しい問題がある

解雇は相手に到達して初めて効力が生じる意思表示。行方不明の相手に確実に届けるためには、裁判所の公示による意思表示という制度を使うことが法的に確実な方法だが手間もかかる

01なぜこのケースは難しいのか

 突然出社しなくなり連絡が取れない、というケースは、欠勤問題の中でも対応の難易度が特に高いものです。

 連絡が取れる場合は、本人の意向を確認しながら対応することができます。何を要求しているのか、退職するつもりなのか、体調が悪いのか——本人と話せれば、判断しやすくなります。しかし連絡が取れない場合は、本人の意向を確認できないまま対応を迫られます。その結果、どの判断も「本人が何を考えているか分からない」という不確実性の中でしなければなりません。これが難しさの本質です。

 また、法的な面でも難易度が上がります。解雇という手段を使うとしても、解雇は「意思表示」ですから、相手に到達して初めて効力が生じます。行方不明の相手に解雇通知を届けること自体が、大きな技術的課題になります。

 こうした難しさがある事案だからこそ、まず「当たり前のことを当たり前にやる」という土台が何より重要です。

02初動——当日から毎日・複数の手段で連絡を取る

 まず何よりも大事なのは、連絡を取る努力を継続的に行うという当たり前のことを当たり前にやることです。「そんな当たり前のことを弁護士に説明してもらう意味があるのか」と思われるかもしれませんが、当たり前のことをしっかりやっているということの価値は本当に高いのです。

 後のトラブルになるかどうか、あるいは裁判も含めて会社の責任が問われるような場面でどのような評価がなされるかを考えた時に、「当たり前のことを当たり前にやっていた」という事実が、すべての土台になります。この「当たり前」ができていない場合に、応用部分の法的な対応をいくら学んでも、うまくいかないことが多いのです。

当日の早い段階から連絡を試みる

 就業時刻に出社すべき社員が出社していない時点で、早めに連絡を取ることが大事です。労働契約とは、給料を払って所定の労働日・労働時間に働いてもらう契約ですから、就業時間に出社しないという時点で問題が発生しているわけです。管理職、あるいは究極的には社長が「どうして出社していないのか」と問い合わせをするのはマネジメントの基本です。

 就業が例えば9時の会社であれば、できたら10時ごろまでには電話の1本は入れるべきです。電話・メール・LINE・Slack・メッセンジャーなど、普段会社で行っている連絡手段で問い合わせをしてください。

毎日継続する——1回で終わりにしてはいけない

 1回連絡を試みて繋がらなかったからといって放置してはいけません。翌日も欠勤が続けば翌日も連絡する。可能であれば1日に複数回試みることをお勧めします。朝だけでなく、その日のうちに何回か連絡を取る努力をしてください。

 「連絡するのは管理職の仕事だ」と管理職に任せっぱなしにしていると、管理職もだんだん嫌になってサボり始めることがあります。連絡を取っているかどうか、社長が毎日確認するようにしてください。

 この対応を毎日継続することが、後の法的な紛争においても「会社として誠実に対応した」という事実として機能します。「いくら法律契約論を学んでいても、普通これぐらいやるでしょうということをやっていないと、結果が悪くなるのは避けられない」——これが実務を見てきた弁護士の実感です。

連絡の記録を残す

 何月何日に、誰が、どの手段で(電話・メール・LINE等)、どのような内容で連絡を試みたかを記録に残してください。記録が後の証拠になります。

 なお、出社すべき社員が来ているかどうか把握できるマネジメント体制——誰が出社していて、誰が出社していないかを就業時刻の時点で確認できる仕組み——が前提として必要です。これ自体もマネジメントの一環です。

03数日経っても連絡が取れない場合——自宅訪問・身元保証人への連絡

自宅訪問——安否確認の意味も含めて

 何日も連絡の努力を続けても全く応答がない場合は、どこかのタイミングで自宅を訪問することを検討してください。最近の状況からすると、精神的に落ち込んでいる(うつ状態・適応障害など)ケースで連絡がうまく取れないことが多いです。何かの事件に巻き込まれている可能性もあります。

 特に長年勤めている正社員が突然来なくなったということは、よっぽどのことです。自宅に行って安否を確認するぐらいのことはやるべきです。

 タイミングは個別の事情を考慮して決めます。直前の出来事・本人の言動・それまでの経緯が大きな判断材料になります。「もうこんな会社やめてやる」と言って出ていったのなら、やめるつもりで出ていったのかもしれないということで話し合いを進める方向になります。何の兆候もなくいきなり来なくなった場合は、原因が全く分からないため、より早い段階で確認しに行くことが必要性が高くなります。

 自宅との距離が遠い・会社の規模的に自宅訪問が難しいという場合は、状況に応じて判断してください。また、どんな会社を作りたいのか、どういう職場でありたいのかという社長の方針も反映されます。

身元保証人・ご両親への連絡

 自宅訪問が難しい場合や、電話レベルでも連絡が何日も取れない段階で、身元保証人や家族への連絡を行うことも有効です。

 「最近出社してこないし連絡も取れなくて心配しています」というスタンスで連絡を取ることが大事です。「困っています」よりも「心配しています」を前面に出してください。協力的な行動を取ってもらえることが多いです。

 ご両親であれば、自分のまだ若い子供が健康に元気で働けているかについて強い関心を持っています。本人がやめるつもりで来なくなっている場合でも、両親を通じて退職手続きが進むこともあります。20代などの若い社員であれば、両親と相談して働き続けるかやめるかを決める方も実際にいます。

 ただし、本人がすでに「やめます」と明らかに退職の意思を示していた状況で、わざわざ身元保証人や家族に問い合わせるのはやり過ぎと取られることもあります。その微妙なさじ加減は弁護士に相談しながら判断してください。

04長期間連絡が取れない場合——労働契約の終了をどう処理するか

 2か月、3か月と連絡が取れない場合、さすがにそのまま続けるわけにはいきません。雇用の問題もありますし、社会保険料の負担も続きます。どこかで労働契約を終了させなければなりません。

 有期契約の社員であれば、期間満了で退職扱いにすることが比較的処理しやすいです。問題は無期契約の社員(正社員)です。以下のような選択肢があります。

方法 法的評価と実務的な位置づけ
①就業規則の当然退職事由
(最も推奨)
「社員が音信不通または行方不明となり欠勤が1か月以上に及んだ時は退職とする」と定めておけば、通知なしに退職の効力が生じる。中小企業でも実行可能で、コンプライアンス上も問題が起きにくい
②家族・身元保証人との協議による退職処理 法的効力は怪しい(本人の意思表示ではない)が、実務的にはトラブルが少なく多くの中小企業で行われている。弁護士として積極的に勧めるわけにはいかないが、現実の処理として多く見られる
③解雇+公示による意思表示
(コンプライアンス重視)
法的に最も確実な方法。簡易裁判所の手続を経ることで、解雇通知が相手に届いたとみなされる。手間とコストがかかるため大企業向きだが、コンプライアンスを徹底したい会社に適する

 なお、「出社しないこと自体を退職の意思表示(辞職)と評価できるか」というと、直前に「もうやめてやる」というセリフがなければ難しいのが実情です。また、身元保証人や家族が「退職でいいです」と言っても、契約の当事者は本人ですから、法的には退職の効力が生じているとは言いにくいです。これらの点を踏まえた上で、自社に合った方法を選ぶことが重要です。

05就業規則への当然退職事由の規定——最も実務的な方法

 コンプライアンス上も問題が起きにくく、中小企業でも実行可能な最も現実的な方法は、就業規則への当然退職事由の規定です。

就業規則への規定例(参考) 「社員が会社と音信不通または行方不明となり、欠勤が1か月(欠勤期間中の休日を含む)以上に及んだ時は、退職とする。」

 解雇は意思表示なので相手に到達しなければ効力が生じませんが、当然退職事由については、通知しなくても条件を満たした時点で退職の効力が生じます。定年退職が定年に達した日に通知なしで退職の効力が生じるのと同じ考え方です。

 期間としては、1か月(30日)程度を設けることが合理性の観点から望ましいです。さすがに5日や10日では短すぎて合理性が認められない可能性が高いですが、1か月程度であれば大抵のケースで合理性があると言えます。

 この規定が機能するためには、就業規則にこの規定を設けておくことと、社員に周知させておくことの両方が必要です。今まだこういった規定がない会社で、過去に突然連絡が取れなくなった社員の対応で苦労した経験のある社長は、ぜひ就業規則に入れておくことをお勧めします。

 当然退職事由の規定を活用する場合も、連絡の努力を継続していたという事実の積み重ねが前提になります。「連絡を取る努力を尽くしたが取れなかった」という実態が、この規定の合理的な適用を支えます。

06解雇で正式に終了させる場合——公示による意思表示

 コンプライアンスを重視して法的に確実な形で労働契約を終了させたいという会社には、解雇の方法があります。ただしこの場合も、「意思表示の到達」という難しい問題があります。

解雇通知の到達という問題

 解雇は意思表示ですから、相手に到達して初めて効力が生じます。本人が自宅にいてポストに解雇通知が届けば問題ありません(本人が実際に見ていなくても、本人の支配領域に入れば到達と言えます)。

 しかし、本人が本当に行方不明で、そこに住んでいる形跡もないという場合は、郵便受けに入れただけでは解雇通知が届いたとは言いにくいです。メールで通知して返信があれば大体大丈夫ですが、既読確認ができない場合は到達の証明が難しくなります。

公示による意思表示——最も確実な法的手段

 調査などを尽くしても連絡が取れない場合の最も確実な法的手段は、裁判所の手続として「公示による意思表示」があります。この手続をしっかり取ると、公示から2週間が経過した時点でその意思表示が相手方に到達したとみなす制度です。

 ただし、この手続を使う前提として「本人の居場所が分からないことについて会社に過失がないこと」が求められます。「事前の調査をしっかりやってもダメだった、だから公示による意思表示を使う」という流れを守ることが必要です。弁護士に依頼してやってもらうのが確実です。

 手間もコストもかかりますが、コンプライアンス上確実に労働契約を終了させたいという会社はこの方法を検討してください。

07社宅に入居している場合の明け渡し対応

 突然出社しなくなった社員が社宅に入居している場合、労働契約の終了とは別に、社宅の明け渡しという問題が生じます。これは実際にはかなり多いケースです。

 借り上げ社宅の場合は家賃が会社の負担のまま続くことになり、本人の私物も残されたままになることがあります。

社宅利用契約と労働契約の関係

 社宅の利用は労働契約に付随するものですから、労働契約が終了すれば社宅の利用契約も終了することになります。そのため、まず労働契約の終了を確定させることが先決です。

私物が残されている場合の対応

 本人の家具・私物が残されているケースがあります。法的手段としては、社宅の明け渡し請求訴訟を提起して強制執行するという流れになりますが、相手が争ってこなくてもそれなりに時間がかかり、弁護士費用も発生します。その間も借り上げ社宅であれば家賃負担が続くことになります。

 現実的な対応として多いのは、ご両親・身元保証人などと相談しながら対応することです。ご両親などが「立ち入ってもいいですよ」と言ってくれるのであれば、一緒に立ち入って私物の処理を行うというやり方も実際には行われています。法的根拠は怪しい面がありますが、実際にはトラブルが起きないことがほとんどです。

 また、社宅利用規程に「一定の場合は会社が社宅に立ち入って私物を保管・処分することができる」という規定を設けておき周知させておくという方法もあります。個別の事情によって合理性が判断されますので、こういった規定を整備したい場合は弁護士に相談してください。

 いずれにせよ、社宅の問題は法的難易度が高く判断が難しいケースが多いです。できる限り早い段階でご両親・身元保証人と連絡を取り、協力を得ながら進めることが現実的な対応になります。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。欠勤・遅刻問題でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 突然出社しなくなった社員を、すぐに退職扱いにしてもよいですか。

A. 避けてください。出社しないこと自体を退職の意思表示と評価することは法的に難しく、後から「解雇された」「退職したつもりはない」と主張されるリスクがあります。まず連絡の努力を積み重ね、就業規則に当然退職事由の規定がある場合はその要件(音信不通で1か月以上の欠勤など)が満たされてから退職処理を行うことが基本です。

Q2. 家族が「退職でいいです」と言っています。それで退職処理してよいですか。

A. 法的には家族の同意で退職の効力が生じるとは言えません。契約の当事者は本人ですから、家族が「退職でいいです」と言っても本人の退職の意思表示とはなりません。ただし実務的には、中小企業でこのような形で退職処理しているケースは多く、後にトラブルになることも少ないのが実情です。法的効力の面でリスクを取るかどうかは、会社の方針と個別事情を踏まえて判断してください。

Q3. 就業規則に当然退職事由の規定がありません。今から追加できますか。

A. 就業規則の変更は可能です。変更した就業規則を社員に周知させた上で、変更後の規定が適用されます。ただし、変更前にすでに音信不通になっている社員には遡って適用することはできませんので、今後のための準備として早めに整備しておくことをお勧めします。規定の具体的な内容は弁護士に相談した上で作成することをお勧めします。

Q4. 社宅に私物が残されていますが、どのくらい待てばよいですか。

A. 期間の目安は状況によりますが、労働契約が終了してもなお残されている場合は、まず内容証明郵便で「〇日までに引き取りに来ない場合は処分する」という通知を送ることが一つの方法です。ただし法的には慎重に進める必要があります。実務的にはご両親・身元保証人と相談しながら処理するケースが多いです。判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。

最終更新日:2026年5月10日

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