労働問題1014 セクハラ加害者から「逆ハラスメント」と抗議された場合の対処法

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この記事の要点

被害者への配慮を求めること自体は問題ない——ただし伝え方に注意

セクハラの経緯がある以上、被害者の女性に配慮するよう求めることは正当な対応。ただし「気持ち悪くなる」という感情的な言葉をそのまま伝えるのではなく、「一緒にいるだけで辛い・ストレスがかかっている」と言い換えることが必要

半年という時間的背景を考慮する——加害者は「解決済み」と思っている

被害者からすれば我慢し続けてきてもう限界という訴えでも、加害者からすれば半年も前の解決済みの話。この時間的なギャップを頭に入れた上で言葉を選んで話す必要がある

「逆ハラスメントだ」と言うなら理由を説明させる——事実確認が先決

逆ハラスメントと言い出したなら、なぜそう思うのかを説明させる。直近の言動がつきまとい的なものだったのか、全員が集まった場でたまたま同席しただけなのかによって対応が変わる。事実確認なしに踏み込んだ対応はできない

当時のセクハラの重さと会社の対応がリンクしていることが問題の核心

実際に起きたセクハラが重いものなら厳重注意書・懲戒処分が必要だった。口頭注意だけで終わらせると、加害者に「大したことはやっていない」という認識を与えてしまう。当時の対応と事案の重さが整合していれば、その後の配慮要求も説得力を持つ

01この相談の状況——配慮を求めたら「逆ハラスメント」と言い返された

 今回解説する相談は、次のような状況です。セクハラをした男性社員に上長から注意した上で、被害者の女性と担当業務を切り離した。しかし他に職場がないため同じ場に居合わせることがある。セクハラから半年ほど経った頃、被害者の女性から「その男性と一緒にいるだけで気持ち悪くなるので、できるだけ近づかないようにしてほしい」という訴えがあったので、加害者の男性に伝えたところ「逆ハラスメントだ」と抗議された。どう対応すればよいか。

 担当業務の切り離しという工夫もしており、会社としてできることは一定程度やっています。その上で被害者から引き続き訴えが来たという、非常に難しい状況です。しかし丁寧に対応の方針を整理することで、取れる選択肢はあります。

02被害者への配慮を求めること自体は問題ない——ただし伝え方に注意

 セクハラがあったという経緯からすれば、加害者の男性に対して被害者の女性への配慮を求めることは正当な対応です。会議室で面談を行い、配慮するよう伝えること自体は行ってもよいケースがほとんどです。

 ただし、伝え方には注意が必要です。

被害者の感情的な言葉をそのまま伝えない

 「一緒にいるだけで気持ち悪くなる」という被害者の言葉をそのまま加害者に伝えることはお勧めしません。感情の入った言葉をそのまま伝えると、加害者が必要以上に反発しやすくなります。

 言い換えてから伝えてください。「一緒にいるだけで辛い」「同じ場にいるだけでストレスがかかっている状況がある」という形で、事実として伝わる穏やかな表現に変換した上で話すことが大切です。被害者の感情は配慮しつつ、加害者への伝え方は冷静な日本語で行ってください。

03半年という時間的背景を考慮した上で話す

 被害者からの訴えはセクハラから半年後のことです。この時間的な背景を頭に入れた上で話す必要があります。

 被害者の女性からすれば、半年間ずっと我慢してきて、もう限界になったから訴えてきたということです。被害者にとっては現在進行形で続いている苦しさです。

 一方、加害者の男性からすれば、半年前に注意を受けて一応一段落した、解決済みの話だと感じているのが普通です。加害者の目線では「今更なぜまた」という反応になりやすいのです。

 この双方の認識のギャップを踏まえた上で言葉を選ぶことが重要です。半年前のことを改めて蒸し返しているのではなく、現在も被害者の方にとって苦しい状況が続いているということを、加害者が理解できる形で伝えることを意識してください。

04直近の言動の事実確認が先決——つきまといか偶然の同席か

 加害者に配慮を求める面談の前に、直近の実態を確認することが必要です。同じ場にいるとはいえ、具体的にどういう状況なのかによって、対応できる内容が変わります。

直近の状況 対応の方向性
つきまとい的な言動があった
(話しかける・近づく等)
踏み込んだ注意指導・懲戒処分も選択肢に入る。具体的な言動の事実を確認して対応する
全員が集められた場でたまたま同席しただけ 強い注意指導は難しい。「できる限り配慮するよう」伝える程度の対応にとどまらざるを得ない場合がある

 確認すべきことは、同席したといっても本当にどんな対応だったのか、話しかけたのか話しかけなかったのか、話しかけた場合はどんな内容だったのか——という具体的な事実です。事実を確認した上で、どこまで踏み込んで注意指導するかを決めていきます。

 この判断が難しい場合は、弁護士とオンラインで打ち合わせをして「その事実であればこういう対応が適切」というアドバイスを受けながら進めることが有効です。

05「逆ハラスメントだ」への対応——理由を説明させて事実ベースで議論する

 加害者の男性が「逆ハラスメントだ」と言い出した場合、その言葉を受け取ってすぐ引き下がる必要はありません。「なぜそれが逆ハラスメントなのか、具体的に説明してください」と返してください。

 「逆ハラスメント」という評価をぶつけるだけでは議論になりません。具体的にどの言動がどういう理由で問題だと思っているのか、事実ベースで話してもらうことが大事です。その説明の内容を踏まえて、こちらも受け答えしていきます。

 加害者からの具体的な説明が出てくれば、そこから「その状況についてはこういう事情がある」という形で実質的な対話ができます。「逆ハラスメントだ」という評価の言葉だけをぶつけて議論の矛先をずらそうとしているなら、その発言の根拠を具体的に示させることでそのすり替えを防ぐことができます。

 面談は会議室でしっかり行ってください。立ち話的に軽く伝えるのではなく、正式な場として設けることで、加害者も話を軽視しにくくなります。

06問題の核心——当時のセクハラの重さと会社の対応がリンクしているか

 この相談を通じて浮かび上がる最も重要な問題は、半年前のセクハラに対して会社がどのような対応を取ったかと、今回の訴えへの対応の間に整合性が取れているかという点です。

口頭注意だけでは「大したことはやっていない」という認識を与える

 相談には「上長から注意した」とだけ書かれています。厳重注意書を交付したか、懲戒処分を行ったかは明確ではありません。もし口頭での注意だけで終わっていたとすれば、加害者は「会社もそれほど問題視していない」という認識を持ちやすくなります。

 その認識があると、今回の被害者への配慮要求に対しても「そんなに重大なことをやったわけでもないのに、なぜまた追及されるのか」という反発が生まれやすくなります。「逆ハラスメントだ」という主張の背景にも、この認識のずれがある可能性があります。

事案の重さに応じた対応をとることの重要性

 実際に起きたセクハラが重大なものであったなら、それに見合った対応(厳重注意書の交付・懲戒処分)を当時行っておくべきでした。そうしておけば、加害者も「会社はこれを重大な問題と評価した」という認識を持ちます。その上で被害者への配慮を求める場合、説得力が生まれます。

 逆に実際のセクハラが比較的軽いものであったならば、口頭注意で対応したことは正しい判断です。その場合は今回の配慮要求においても、踏み込んだ対応(強い注意や懲戒処分)は難しくなりますが、「できる範囲で配慮するよう」求めることは引き続きできます。

事案の重さと会社対応のリンクが大事
セクハラが重大だった場合:厳重注意書の交付・懲戒処分→加害者も「重大なことをやった」と認識→今回の配慮要求にも一定の説得力が生まれる

セクハラが比較的軽かった場合:口頭注意→加害者も「軽い問題」という認識→今回の配慮要求の踏み込み度は低めにならざるを得ない

07職場が1つしかない場合の限界と現実的な対応

 この相談の難しさの一つは「他に職場がない」という点です。配転させたくても別の事業所がなく、担当業務は切り離したものの同じ職場で顔を合わせることは避けられないという状況です。

 このような場合、会社としてできることには限界があります。解雇できるほど重大なセクハラであれば話は別ですが、実際の案件では解雇できないが放置もできないというグレーゾーンの事案が非常に多くあります。

 そういった状況では、担当業務の切り離し・座席配置の工夫・できる限り接触機会を減らす努力を続けながら、都度の状況変化に応じた対応を取っていくことが社長の仕事です。簡単には解決しませんが、できる範囲でベストを尽くすことが求められます。

 なお、加害者の言動が今後さらにつきまとい的なものになった場合は、改めて具体的な事実に基づいた注意指導・懲戒処分を検討できます。現状の苦しい状況に手を拱いているのではなく、今後の言動を注視しながら、次の問題行動があれば即座に対応できる準備をしておいてください。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。セクハラ・ハラスメント対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. セクハラ加害者に被害者への配慮を求めたところ「逆ハラスメントだ」と言われました。この主張に応じる必要はありますか。

A. 応じる必要はありません。セクハラの経緯がある以上、被害者への配慮を求めることは正当な対応です。「なぜ逆ハラスメントだと思うのか、具体的に説明してください」と返して、事実ベースで議論してください。「逆ハラスメントだ」という評価の言葉だけで議論の矛先をずらそうとしているのであれば、具体的な根拠を示させることでその試みを防ぐことができます。

Q2. 被害者が「一緒にいるだけで気持ち悪くなる」と言っています。この言葉をそのまま加害者に伝えてよいですか。

A. そのままの言葉では伝えないことをお勧めします。感情的な表現をそのまま伝えると加害者が必要以上に反発しやすくなります。「一緒にいるとストレスがかかっている状況がある」「同席することで辛い思いをしている」という形に言い換えて、落ち着いた表現で伝えてください。

Q3. セクハラへの当初の対応は口頭注意だけでした。今から懲戒処分を行うことはできますか。

A. 過去のセクハラ事実に対して今から改めて懲戒処分を行うことは、同一事由に対する二重処罰の問題が生じる場合があり、難しいことが多いです。ただし直近で新たなつきまとい的言動があった場合は、その新たな事実に基づいて懲戒処分を検討できます。まず弁護士に現在の状況を説明した上で、取れる対応の方針を確認してください。

Q4. 他に事業所がなく、配転させられません。どうすればよいですか。

A. 担当業務の切り離し・座席配置の工夫・接触機会を減らす努力を続けながら、都度の状況変化に応じた対応を取っていくことになります。解雇できるほど重大なセクハラであれば解雇を検討しますが、そうでない場合は現実的な範囲でベストを尽くすことが求められます。加害者の今後の言動を注視しながら、つきまとい的な言動があれば即座に具体的な事実に基づいた注意指導・懲戒処分に進めるよう準備しておいてください。

最終更新日:2026年5月10日

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