労働問題1013 ハラスメントの申告事実を後から追加してくる社員の対処法

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この記事の要点

被害者の処罰感情は考慮要素の一つ。処分の重さは会社が自主的に決定する

被害者がより重い処分を求めてきた場合、その処罰感情はしっかり考慮しなければならない。しかし懲戒処分の重さは客観的に合理的なものでなければならず、被害者の要望をそのまま反映させるわけにはいかない。会社が自分の責任で判断し、丁寧に説明して理解を求めることが大事

追加申告への対応は個別判断。一概に正解はない

処分決定後に追加申告が来た場合、すでに決定した処分をそのまま行った上で別途調査する方法と、追加事実も含めて一緒に調査・処分する方法の両方がありえる。どちらが適切かは個別の事情による

密接に関連する事実は一緒に解決することが望ましい

処分の理由となった事実と密接に関連する追加事実を後から別処分にすると、加害者側から「二重処罰ではないか」という反論が生じやすい。関連する事実は一挙に解決する方が処理として妥当なことが多い

繰り返しの追加申告を防ぐ工夫が必要

何度も追加申告が来ると会社は振り回されてしまう。「今回の申告時点における過去の事実は今回全部申告してほしい。今回申告していない過去の事実は受け付けない」という形で申告のルールを設けることが一案として考えられる

01この相談の構図。処分決定後に新事実を追加申告してきた

 今回解説する相談は次のような状況です。ハラスメントの申告があったので事実調査を進め、懲戒処分の内容を決定して申告者(被害者)に説明した。しかし申告者は処分の重さに納得せず、より重い処分を要求するとともに、それまで申告していなかった新しい事実を追加で申告してきた。どのように対処すればよいか。

 この相談には二つの問題が含まれています。一つは「被害者が処分の重さに納得せず、より重い処分を求めている」という問題です。もう一つは「追加で新しい事実を申告してきた」という問題です。それぞれについて順を追って解説します。

02被害者の処罰感情は考慮するが、そのまま反映させない

 まず「被害者がより重い処分を要求してきた」という問題からです。

 被害者の処罰感情、つまり「どこまで処罰してほしいか」という気持ちは、懲戒処分の重さを決める際に考慮すべき事情の一つです。被害を受けた方がどう感じているかは、処分の重さを検討する上での重要な材料の一つとして、しっかり考慮しなければなりません。

 しかし、懲戒処分の重さは客観的に合理的なものでなければなりません。その合理的な範囲は、被害者の処罰感情だけで決まるものではなく、行為の内容・重大性・他の事情を総合的に考慮して判断されます。被害者の要望をそのまま反映させて処分を決めることはできないのです。

 懲戒処分の重さは、会社が自主的に、会社の責任で決定するものです。処罰感情という一事情をしっかり考慮した上で、会社として判断し、その判断を行動に移してください。

03被害者が納得しない場合、丁寧に説明して理解を求める

 客観的に合理的な処分の重さを判断した上でも、被害者が「軽すぎる、もっと重くしてほしい」と言い続けることがあります。その場合の対応は、丁寧な説明と理解を求める努力です。

 どうしてこういった重さになったのかを丁寧に説明してください。被害者の処罰感情はしっかり受け止めた上で、会社がこのような判断をした理由を誠実に伝えることが大事です。結果として理解が得られないこともあるかもしれませんが、そうなったとしても仕方がないという場合があります。最善を尽くして説明したのであれば、会社としての対応としては適切です。

やってはいけないこと

被害者がうるさく言ってくるからという理由で、客観的な合理性の範囲を超えた重い処分を行うことは避けてください。懲戒権の濫用として処分が無効と判断されるリスクが高まります。被害者からのクレームで動揺せず、客観的な合理性に基づいた判断を貫くことが重要です。

04追加申告された事実への対応。別調査か一緒に解決か

 次に「追加で新しい事実を申告してきた」という問題です。処分の決定後に新しい申告事実が出てきたとき、どのように対応すべきでしょうか。

 この問いに対する一般的な正解はありません。個別の事情によって判断が変わります。

 考えられる対応の方向性は大きく二つあります。

対応の方向性 内容と考え方
決定した処分を実行しつつ、追加事実は別途調査する すでに確定した事実に対する処分はそのまま行い、新しく出てきた事実については改めて調査して別の処分を検討する。処分の確定を先送りにしないという意味でシンプル
追加事実も含めて一緒に調査・処分する 関連する事実は一挙に解決する方がすっきりする。類似・関連した事実を後から別処分にすると「二重処罰ではないか」という問題が生じやすい。特に密接に関連する事実の場合、一緒に解決することが処理として妥当なことが多い

 どちらが適切かは、追加申告された事実の内容、もともとの処分の根拠となった事実との関連性の強さ、会社の方針などによって変わります。マニュアル的に決まる問題ではなく、個別の事情を考慮して判断してください。

05密接に関連する事実は一緒に解決することが望ましい理由

 追加申告された事実が、もともとの処分の根拠となった事実と密接に関連するものである場合は、できる限り一緒に解決することが望ましいといえます。その理由を二つ説明します。

理由① 処理として妥当

 同じ時期・同じ関係性の中で起きた類似の出来事は、まとめて評価する方が全体像を正確に把握できます。ばらばらに処理すると、処分の重さの整合性を保つことが難しくなります。類似・関連する事実をまとめて一つの判断として処理することは、処理の妥当性という観点から合理的です。

理由② 二重処罰の問題を避けられる

 密接に関連する事実について処分を二度行うと、加害者側から「これは二重処罰ではないか」という反論が出やすくなります。処分を受けた後に「この前の処分と密接に関連する事実なのに、また処分された」という納得感の欠如が生じ、法的な争いのきっかけになることもあります。関連する事実は一緒に解決することで、こうした問題を回避できます。

 ただし、追加申告された事実がもともとの事実と全く別物であれば、別途処分することに問題はありません。二つの事実の関連性の強さをよく確認した上で判断してください。

06繰り返しの追加申告を防ぐための工夫

 今回のような追加申告が、2回・3回・4回と繰り返されると、会社は対応に振り回されてしまいます。申告を受け付けるたびに調査をし直すことは現実的ではありませんし、会社の秩序としても好ましくありません。こういった繰り返しを防ぐための工夫を、事前に設けることが重要です。

一案として考えられる対応

 例えば、追加申告を受け付ける際に次のように説明する方法があります。「今回は追加での申告を受け付けます。ただし今回の申告時点で申告していない過去の事実については、今後は受け付けません。今回の申告で過去の出来事を全部出し切ってください。将来的に新たに起きた出来事については、もちろん別途申告を受け付けます」という形です。

 この方法によって、申告者に「今回が最後のチャンス」という認識を持ってもらい、過去の事実を全て出してもらうことができます。申告者にとっても「言い残した」という状況が残らないため、後から「実はこんな事実もあった」という繰り返しを防ぎやすくなります。

 ただしこの方法が有効かどうか、他にもっとよい方法がないかは、申告者の状況・事案の内容・会社の方針によって変わります。一般論として一律に正解を示すことはできません。個別の事情を弁護士に説明した上で、自社の状況に合った対応策を考えてもらうことをお勧めします。

この問題全体を通じた大切な視点 懲戒処分の重さを誰が決めるか。被害者の意向を考慮した上で、最終的に判断するのは会社です。クレームを受けて動揺せず、客観的な合理性に基づいた判断を自分の責任で下すこと。それが経営者の役割です。判断が難しい場合は弁護士に相談しながら、最終的には社長が自分の判断として決定してください。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。ハラスメントの申告対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 被害者が「処分が軽すぎる」と言って納得してくれません。どこまで対応すればよいですか。

A. 被害者の処罰感情はしっかり考慮した上で、客観的に合理的な重さの処分を行ってください。被害者が求める重さが客観的な合理性の範囲を超えている場合は、その判断を貫き、なぜその重さになったのかを丁寧に説明して理解を求めることが会社の対応です。クレームを受けて合理的な範囲を超えた処分を行うと、今度は加害者から「懲戒権の濫用で処分は無効だ」と争われるリスクが生じます。

Q2. 処分決定後に新しい事実が出てきました。もう一度調査し直す必要がありますか。

A. 追加事実の内容によります。もともとの処分の根拠となった事実と密接に関連するものであれば、一緒に解決する方が望ましいことが多いです。全く別の事実であれば、別途調査して別の処分を検討するという方法もあります。いずれにせよ一概に正解はなく、個別の事情によって判断が変わります。弁護士に具体的な事情を伝えて相談することをお勧めします。

Q3. 何度も新しい事実を追加申告してきます。どうすれば繰り返しを防げますか。

A. 「今回の申告時点における過去の事実は今回全て申告してください。今回申告していない過去の事実は今後受け付けません。将来の新しい出来事については別途受け付けます」という形で申告のルールを説明し、今回を最後の機会として過去分を全部出し切ってもらうという方法が一案として考えられます。ただし相手のリアクションや事案の内容によって最善の方法は変わりますので、弁護士と相談しながら対応策を決めてください。

Q4. 密接に関連する事実を後から別の処分にすると「二重処罰だ」と言われる可能性がありますか。

A. 可能性はあります。特に元の処分の根拠となった事実と密接に関連する事実について重ねて処分を行うと、加害者側から「二重処罰ではないか」という主張が出やすくなります。こうした問題を避けるためにも、関連する事実は一緒に調査・処分することが望ましいといえます。ただし事実の関連性の程度によって判断が変わるため、弁護士にご相談ください。

最終更新日:2026年5月10日

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