労働問題476 退職間近で業務の引継ぎをしてもらわなければ困る社員が退職日までの全ての所定労働日について年休取得申請をしてきた場合、年休取得を拒んで業務の引継ぎをさせることはできますか。

この記事の結論
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退職日までの全日年休取得を拒絶することは原則としてできない

退職後に年休を与えることはできないため、退職日までの全労働日の年休取得を申請された場合、よほど信義則に反するような事情がない限り、時季変更権の行使ができず、拒絶することはできないと考えられます。

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時季変更権は「他の時季に与える」ものであり、権利自体を奪えない

時季変更権は年休の時期をずらすものであり、年休を取得する権利自体を奪うことはできません。退職日を超えて時季変更することは制度上不可能です。

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引継ぎを確保するには話し合いによる合意が必要

引継ぎを確保するためには、年休の買い上げの合意や、退職日を先に延ばす合意をするなど、話し合いによって解決するほかありません。

01年休取得に使用者の承認は不要

 年休取得に使用者の承認は不要です。労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して時季指定をしたときは、適法な時季変更権の行使がない限り、年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅します。

 したがって、「年休を使わせない」「年休の取得を認めない」という対応は、法律上、原則としてできません。

02時季変更権の限界

 使用者が社員の年休取得を拒むことができるというためには、時季変更権(労基法39条5項)を行使できる場面でなければなりません。

 時季変更権とは、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」(労基法39条5項)というものです。あくまで年休の「時季」を変更するものであり、年休を取得する権利自体を奪うことはできません。

 つまり、時季変更権は「今日ではなく別の日に取ってほしい」と言えるだけであり、「年休は取らせない」とは言えないのです。

03退職日までの全日年休取得と時季変更権

 退職後に年休を与えることはできません。このため、退職日までの全労働日の年休取得を申請された場合、時季変更権を行使して「別の日に取ってほしい」と言おうにも、変更先となる日が存在しません。

 昭和49年1月11日基収5554号も、「年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えないものと解する。」としています。

 したがって、よほど信義則に反するような事情がない限り、使用者は時季変更権の行使ができず、退職日までの年休取得を拒絶することはできないものと考えられます。

04引継ぎを確保するための現実的な対応

 引継ぎをしてもらわなければ業務に支障が生じることもあり得ますが、法的にはやむを得ないケースがほとんどと思われます。退職する社員とよく話し合って、以下のような方法により引継ぎを確保するよう説得するほかありません。

引継ぎを確保するための方法

① 年休の買い上げの合意
残りの年休の一部を買い上げることで、引継ぎに必要な日数だけ出勤してもらう方法です。法律上、年休の買い上げは原則として認められていませんが、退職時に消化しきれない年休の買い上げは例外的に許容されます。

② 退職日を先に延ばす合意
退職日自体を後ろにずらすことで、引継ぎ期間と年休消化期間の両方を確保する方法です。本人の合意が前提となります。

 いずれの方法も、退職する社員との合意が前提です。一方的に引継ぎを命じて年休取得を拒絶することは法的に困難であることを理解したうえで、合意による解決を目指すことが現実的な対応です。

経営上のポイント 退職日までの全日年休取得を申請された場合、法的に拒絶することは原則としてできません。引継ぎを確保するためには、年休の買い上げや退職日の延期について話し合い、合意を得ることが現実的な対応です。日頃から引継ぎ体制を整備しておくことが最も重要な予防策です。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 就業規則に「退職時は引継ぎを行うこと」と定めている場合、引継ぎを強制できますか。

A. 就業規則に引継ぎ義務の規定があっても、年次有給休暇を取得する権利は労働基準法に基づく権利であり、就業規則の規定より優先されます。引継ぎ義務を理由に年休取得を拒絶することは原則としてできません。ただし、引継ぎ義務を果たさなかったことが退職金の減額事由等に該当する可能性はあり得ますので、弁護士と相談のうえ対応を検討してください。

Q2. 退職時の年休買い上げは法律上認められるのですか。

A. 年次有給休暇の買い上げは原則として認められていませんが、退職時に消化しきれない年休の買い上げについては例外的に許容されると解されています。買い上げの金額や条件は当事者間の合意によって定めます。本人が合意しなければ買い上げを強制することはできません。

Q3. 引継ぎなしで退職されることを防ぐために、普段からできることはありますか。

A. 最も重要なのは、特定の社員にしか分からない業務を作らないことです。業務マニュアルの整備、複数人でのタスク共有、定期的な業務棚卸しなどにより、一人が突然いなくなっても業務が回る体制を整えておくことが、最も現実的な予防策です。

最終更新日:2026年2月25日

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