労働問題382 ベースアップを凍結することはできますか。
|
✓
|
ベースアップは、労使交渉により特段の決定がなされない限り行う必要はない。定期昇給とは異なり、特別の合意がなければ実施義務は発生しない 「凍結する」のではなく「特段の決定がなければそもそも義務はない」という性質のものです |
|
✓
|
ただし、就業規則・労働協約にベースアップ実施の義務が明記されている場合や、長年の慣行として定着している場合には、別途の検討が必要 「ベースアップをしてきた慣行があるから義務になる」とは一概に言えませんが、状況によっては問題となる場合があります |
|
✓
|
労働組合がある場合、ベースアップの実施・不実施は団体交渉事項となる。「義務はない」という法的立場と、団体交渉の誠実応答義務は別問題 団体交渉において「検討もしない」という姿勢は不当労働行為のリスクがあります |
目次
01ベースアップとは何か。定期昇給との違い
ベースアップ(ベア)とは、賃金の基準となる賃金表や基本給そのものの水準を引き上げることをいいます。これは、毎年一定時期に個々の労働者の号俸・格付けを進める「定期昇給(定昇)」とは性質が異なります。
02特段の決定がなければ実施義務はない
ベースアップは、労使交渉により特段の決定がなされない限り行う必要はありません。つまり、ベースアップの実施は、労使の合意(労働協約・就業規則変更・個別合意等)によって初めて義務となるものです。何も決定しなければ、現状維持が原則です。
したがって、「ベースアップを凍結する」という問い方は厳密には正確ではありません。特段の決定がなければそもそも義務がないからです。「凍結」ではなく「今年のベースアップは実施しない」という判断が、法的には正確な表現です。
この点が定期昇給(381番参照)との最大の違いです。定期昇給は就業規則に義務規定があれば実施する法的義務が生じますが、ベースアップは労使交渉による合意がなければ実施義務は生じません。
03義務が生じ得るケース。就業規則・協約・慣行の問題
ただし、例外的にベースアップの実施が義務となるケースがあります。
第一に、就業規則や労働協約にベースアップ実施を義務付ける規定が明記されている場合です。この場合は、381番と同様の問題(労働協約変更または就業規則変更の必要性)が生じます。
第二に、長年にわたりベースアップを継続してきた場合の慣行の問題です。慣行として継続的に行われてきた賃金改定が「労働契約の内容となっている」と評価される場合には、それを突然廃止することで不利益変更と評価される可能性があります。ただし、「毎年ベースアップをしてきた」という事実だけで直ちに義務が生じるとは言えず、その規模・継続期間・労使の認識等を総合して判断されます。
自社がこれらのケースに当てはまるかどうかについて不明な場合は、使用者側弁護士に確認することをお勧めします。
04労働組合がある場合の団体交渉上の注意点
労働組合が存在する場合、ベースアップの実施・不実施は義務的団体交渉事項に該当します。「法的に義務はない」という立場と、「団体交渉に誠実に応じる義務」は別問題です。
組合がベースアップを求めて団体交渉を申し入れてきた場合、会社には誠実に交渉する義務があります。「そもそも義務はない」「検討するつもりはない」という姿勢で交渉を拒絶したり、形式だけの応答を繰り返したりすれば、不当労働行為(労組法7条2号の不誠実団体交渉)と評価されるリスクがあります。
したがって、労働組合との関係では、「ベースアップは義務ではないから交渉に応じない」ではなく、「義務はないが誠実に交渉の場を設け、経営状況や判断理由を説明する」という姿勢が求められます。
05まとめ
ベースアップは、労使交渉により特段の決定がなされない限り行う必要はありません。定期昇給(381番)と異なり、就業規則に義務規定がある場合を除き、実施義務は生じません。ただし、就業規則・労働協約への義務記載や長年の慣行がある場合は別途検討が必要です。また、労働組合が存在する場合はベースアップが団体交渉事項となるため、義務はなくても誠実な交渉姿勢が求められます。自社の状況に疑問がある場合は使用者側弁護士にご相談ください。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
ベースアップ・定期昇給・賃金制度の見直しに関してお悩みの会社経営者の方はご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。
Q&Aよくある質問
Q1. 10年以上毎年ベースアップを行ってきました。今年は実施しないことにしても問題ありませんか。
A. 長年の慣行が「労働契約の内容として確立している」と評価される場合には、一方的な廃止が問題となる可能性があります。ただし、毎年実施してきた事実だけで直ちに義務となるわけではなく、規模・継続期間・労使双方の認識等を総合的に考慮して判断されます。不明な場合は使用者側弁護士に確認することをお勧めします。
Q2. 組合からベースアップを求める団体交渉の申し入れがありました。拒否できますか。
A. 団体交渉の申し入れ自体を拒否することは不当労働行為(労組法7条2号)に当たる可能性があります。ベースアップの実施義務がなくても、交渉には誠実に応じる義務があります。「実施しない」という結論であっても、その理由(経営状況・財務データ等)を誠実に説明した上で交渉することが必要です。交渉の進め方については使用者側弁護士にご相談ください。
関連ページ(賃金変更シリーズ)
最終更新日:2026年5月31日