労働問題111 退職勧奨の「やり過ぎ」となる境界線とは。違法な退職強要を避ける実務指針。

この記事の要点

退職勧奨は「事実行為」であり原則自由に行えるが、社会通念上相当な範囲を逸脱すると違法(不法行為)となる

「提案」が「強要」に変わる瞬間を見極めることが極めて重要です

執拗な繰り返し・長時間の面談・威圧的言動・人格否定的発言は違法となる境界線を越える

裁判実務では面談の回数・期間・頻度・時間・発言内容が重要な判断要素となります

違法と判断された場合、慰謝料請求・退職無効・バックペイというリスクが生じる

退職届が提出されていても、強迫・錯誤によるものと認定されれば退職自体が無効となります

適法範囲を維持するには①社員の意思の尊重、②環境への配慮、③客観的な説明の3点が実務指針となる

退職勧奨を検討する際は事前に会社側弁護士に相談し、面談の進め方・発言内容・記録方法を確認することが重要です

01退職勧奨が「原則自由」である理由——事実行為としての性質

 退職勧奨は、解雇のように法的効果を直接生じさせる行為ではなく、一般に「事実行為」と理解されています。会社が社員に対して「退職を検討してもらえないか」と提案する行為それ自体は、雇用契約を直ちに終了させるものではなく、話し合いのきっかけとなる働きかけにすぎません。このため、退職勧奨は解雇とは異なり最初から厳格な法的要件が課されるわけではありません。会社経営者が経営上の判断や職場運営の観点から特定の社員に対して退職という選択肢を提示することは、企業活動の一環として原則自由に行うことができると考えられています。

 もっとも、この「自由」は無制限ではありません。退職勧奨はあくまで社員の任意の判断を前提とする行為であり、社員の自由な意思決定を妨げるような態様で行われれば違法と評価される可能性があります。会社側専門弁護士としては、「提案」が「強要」に変わる瞬間を見極めることが極めて重要です。

02「やり過ぎ」となる境界線——不法行為の成否

 退職勧奨が違法となる境界線の判断において最も重要な要素は執拗性・時間・言動の3点です。

① 執拗な繰り返し

 社員が退職の意思を明確に否定しているにもかかわらず短期間に繰り返し面談を求めたり、長期間にわたって執拗に説得を続けたりする場合、心理的な圧力を与える行為として違法と判断される可能性があります。裁判実務では面談の回数・期間・頻度が重要な判断要素となります。

② 面談の時間・状況

 長時間に及ぶ面談によって退席を事実上困難にしたり、深夜まで話し合いを続けたりするような対応は社員の自由な判断を妨げる事情として問題視されます。

③ 言動の内容

 「辞めなければ懲戒解雇にする」といった根拠のない威圧的な発言や、人格を否定するような発言が含まれる場合には、退職勧奨ではなくハラスメントや退職強要と評価される可能性があります。

経営者が絶対にしてはならない対応

「退職勧奨は自由にできるから何度でも面談すればいい」
危険です。執拗な繰り返しは退職強要として不法行為に該当するリスクがあります。

「辞めなければ解雇するぞと言えば辞めるだろう」
絶対にしてはなりません。根拠のない解雇示唆・威圧的言動は、慰謝料請求・退職無効・バックペイというリスクを招きます。

03違法と判断された場合の損害賠償リスク

 退職勧奨が社会通念上相当な範囲を逸脱したと判断された場合、退職強要として不法行為(民法709条)に該当する可能性があります。最も典型的なのは精神的苦痛に対する慰謝料の支払いであり、裁判例では数十万円から数百万円程度の慰謝料が認められるケースもあります。

 さらに注意すべきなのは、退職勧奨の結果として退職届が提出されていた場合でも、その退職が強迫や錯誤によるものと認定されれば退職自体の効力が否定される可能性がある点です。退職が無効と判断された場合、労働契約は継続していたものと扱われ、会社はバックペイの支払いを求められることがあります。

04適法な範囲を維持するための実務指針

 退職勧奨を適法な範囲で進めるための実務指針は3点です。

① 社員の意思の尊重

 社員が退職の意思がないことを明確に示した場合にはその意思を尊重し、面談を継続することに慎重になる必要があります。十分な考慮時間を与え即断を迫らないことが重要です。

② 環境への配慮

 面談は社員が安心して話し合いに臨める環境で行うことが重要です。密室に追い込んだり第三者の目が届かない状況を作ったりすることは避けなければなりません。面談の日時・場所・参加者・時間を記録しておくことも重要です。

③ 客観的な説明

 退職を提案する理由については客観的な事実に基づいて説明することが必要です。威圧的・感情的な言動を避け、解雇を示唆するような発言は絶対に行わないようにしなければなりません。退職勧奨を検討する際は、使用者側弁護士・会社側弁護士に事前に相談し、面談の進め方・発言内容・記録方法を確認することを強くお勧めします。

05まとめ——会社側弁護士が示す適法な退職勧奨の要点

 退職勧奨は「事実行為」であり原則として誰に対してもいつでも自由に行えます。解雇のような厳格な有効要件は課されていません。ただし、社会通念上相当な範囲を逸脱した態様(執拗な繰り返し・長時間拘束・威圧的言動・人格否定的発言等)で行われた場合、退職強要として不法行為(民法709条)に該当し慰謝料請求・退職無効・バックペイというリスクが生じます。

 適法範囲を維持するための実務指針は、①社員の意思の尊重、②環境への配慮、③客観的な説明の3点です。退職勧奨を検討する際は事前に会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨の適法な進め方・面談記録の方法・違法となるリスクの確認でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 退職勧奨は誰に対してもいつでも自由に行えますか。

A. 原則自由に行えますが、社会通念上相当な範囲を逸脱した態様(執拗な繰り返し・長時間拘束・威圧的言動等)は違法(不法行為)となります。退職勧奨自体は企業活動の一環として認められますが、方法・態様に制限があります。

Q2. 退職勧奨は何回まで行えますか。

A. 法律上の上限回数はありませんが、社員が退職の意思がないことを明確に示した後も繰り返す執拗な面談は退職強要として不法行為に該当するリスクがあります。一般的には1〜3回程度が目安とされますが、面談の状況・発言内容・間隔によっても評価が異なります。

Q3. 退職勧奨が違法と判断された場合のリスクは何ですか。

A. 退職強要として不法行為(民法709条)に該当し慰謝料請求のリスクがあります。また退職勧奨の結果として提出された退職届も、強迫・錯誤によるものと認定されれば退職無効となり、バックペイの支払いを求められる可能性があります。

Q4. 適法な退職勧奨を進めるためにはどうすればよいですか。

A. ①社員の意思の尊重(考慮時間を与え即断を迫らない)、②環境への配慮(密室に追い込まず面談記録を保全)、③客観的な説明(威圧的言動・解雇示唆を避ける)の3点を守ることが重要です。事前に会社側弁護士に相談して進め方を確認することをお勧めします。

最終更新日:2026年5月10日

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