労働問題97 精神疾患を発症した社員について私傷病に関する休職制度を適用せず、直ちに普通解雇してはいけないでしょうか。

この記事の要点

休職制度があるにもかかわらず精神疾患社員をいきなり解雇することは、専門医による「回復の見込みが乏しい」旨の診断がない限り、解雇権濫用として無効となるリスクが高いです。

精神疾患を発症した社員への正しい対応は、まず就業規則の私傷病休職制度を適用して休職させることです。休職期間満了まで待って、その上で復職可否を判断するという手順が必要です。

休職制度があるのに即解雇=原則として解雇権濫用・無効のリスク

私傷病休職制度があるにもかかわらず適用せず即解雇することは、専門医による「回復見込みなし」の診断がない限り解雇権濫用(労契法16条)として無効となるリスクが高いです。


例外:専門医が「休職させても回復の見込みが客観的に乏しい」と診断した場合

この診断・意見がある場合には即解雇が許容される可能性がありますが、それでも弁護士との慎重な検討が必要です。


正しい手順:休職命令→回復状況確認→休職期間満了→復職可否判断

就業規則の休職制度に基づき、適正な手順を踏んだ上で休職期間満了による退職または解雇を検討することが必要です。

1. 精神疾患社員の即解雇は原則として解雇権濫用になる

休職制度があるのに適用しない解雇は無効リスクが高い

 私傷病に関する休職制度があるにもかかわらず、精神疾患を発症したため債務の本旨に従った労務提供ができないことを理由としていきなり普通解雇するのは、休職させても回復の見込みが客観的に乏しいといった内容の専門医の診断または意見があるような場合でない限り、解雇権を濫用したものとして解雇が無効(労契法16条)と判断されるリスクが高いものと思われますので、お勧めできません。

 就業規則に私傷病休職制度を設けることは、「業務外の傷病によって労務提供ができない場合でも、一定期間は労働契約を維持し、回復を待つ」という会社の姿勢を示すものです。この制度があるにもかかわらず、精神疾患発症を理由にいきなり解雇することは、制度の趣旨に反し、解雇の相当性が否定されるリスクがあります。

✕ よくある経営者の誤解・危険な判断

「精神疾患で仕事ができなくなったのだから、解雇は当然だ」→ 原則として誤りです。
私傷病休職制度がある場合は、まず休職制度を適用することが必要です。制度を適用せずに即解雇することは、回復の見込みがない旨の専門医の診断がない限り解雇権濫用として無効となるリスクが高いです。

「精神疾患は完治しないのだから、休職させても意味がない——すぐに解雇すべきだ」→ 危険な判断です。
「回復の見込みが客観的に乏しい」ことは、会社の主観的判断ではなく専門医の診断・意見に基づく必要があります。会社が独断で判断して即解雇することは重大なリスクを伴います。

2. 正しい対応手順——休職制度の適正な運用

就業規則の休職制度に基づく段階的対応

 精神疾患を発症した社員への適正な対応手順は次のとおりです。

 ①休職命令の発令:就業規則の私傷病休職制度に基づき、休職命令を発令します。休職期間・休職中の賃金・休職期間満了後の扱いについて書面で明確にします。

 ②休職期間中の状況確認:主治医・産業医の意見を踏まえて回復状況を定期的に確認します。復職を急がせたり、不用意に接触したりしないよう注意が必要です。

 ③休職期間満了時の復職可否判断:就業規則所定の休職期間満了時点で、主治医・産業医の意見に基づき復職可能かどうかを判断します。

 ④休職期間満了による退職・解雇の検討:休職期間満了時に復職不可能と判断された場合、就業規則の定めに従って、休職期間満了による退職または解雇を検討します。

業務起因性がある場合は特に慎重に

 精神疾患の発症に業務上の原因(過重労働・ハラスメント等)が関与している可能性がある場合は、さらに慎重な対応が必要です。業務上の疾病の療養のための休業期間中は解雇が禁止されています(労基法19条)。精神疾患の業務起因性が疑われる場合は、早急に弁護士に相談することが重要です。

 精神疾患社員への対応方針・休職制度の運用・復職可否判断・解雇の有効性評価について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

3. まとめ

 私傷病に関する休職制度があるにもかかわらず、精神疾患を発症した社員をいきなり普通解雇することは、休職させても回復の見込みが客観的に乏しいといった内容の専門医の診断または意見がある場合でない限り、解雇権濫用として無効(労契法16条)と判断されるリスクが高く、お勧めできません。正しい対応は、①休職命令の発令、②休職期間中の状況確認(主治医・産業医の関与)、③休職期間満了時の復職可否判断、④休職期間満了による退職・解雇の検討、という手順を踏むことです。業務起因性が疑われる場合は特に慎重な対応が必要です。精神疾患社員への対応は早めに弁護士に相談することをお勧めします。

さらに詳しく知りたい方はこちら

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05

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