労働問題506 固定残業代(定額残業代・みなし残業)は、最低賃金額以上の賃金を支払っているかどうかを判断する際に考慮されますか。
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残業代は最低賃金の判断に考慮されない。固定残業代も同様 残業代は最低賃金以上の賃金を支払っているかを判断する際に考慮されません。固定残業代(定額残業代・みなし残業)も残業代ですから、原則として最低賃金の判断には考慮されません。 |
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理論上は残業代の実質を持たない場合に考慮される余地がある 固定残業代が「時間外労働等の対価として支払われたものではない」と評価される場合は、残業代としての実質を持たないため、最低賃金の判断に考慮されうるという理論があります。 |
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実務では、会社自ら固定残業代を「残業代でない」とは言いにくい 会社が固定残業代として取り扱っている賃金を、自ら「残業代ではないから最低賃金の判断に含めるべきだ」と主張することは実務上困難です。考慮されるのは、訴訟等でメインの主張が認められず、固定残業代が残業代でないと評価されてしまった場合に限られます。 |
目次
01残業代は最低賃金の判断に考慮されない原則
最低賃金法4条3項は、最低賃金以上の賃金を支払っているかを判断する際に算入しない賃金を定めています。残業代(時間外割増賃金・休日割増賃金・深夜割増賃金)はここに該当し、最低賃金の判断から除外されます。
これは、割増賃金の性質が「通常の労働時間・日以外の時間に対する特別な対価(割増分)」であり、通常の労働に対する最低賃金の保障とは別個の問題だからです。最低賃金との比較では、通常の労働時間に対して支払われる賃金部分のみを対象とすることが法の趣旨です。
02固定残業代も原則として最低賃金の判断に考慮されない
残業代は最低賃金以上の賃金を支払っているかどうかを判断する際に考慮されません。したがって、固定残業代(定額残業代・みなし残業)は、最低賃金以上の賃金を支払っているかどうかを判断する際には考慮されないことになります。
固定残業代とは、実際の時間外労働時間数にかかわらず、あらかじめ定額の残業代を毎月支払う制度です。支払い方は「定額」であっても、その法的性質は「時間外労働等の対価として支払われる残業代」ですから、最低賃金の計算に含めない、という結論になります。
03例外的に考慮される場合の理論的根拠
理論的には、固定残業代が「労働契約において時間外労働等の対価として支払うこととされているものとはいえない場合」は、残業代としての実質を有しないことになります。残業代でないのであれば、最低賃金以上の賃金を支払っているかどうかを判断する際に考慮されるべきである、という考え方が成り立ちます。
例えば、固定残業代として支給されている手当が、実態として時間外労働の対価ではなく単なる加算給にすぎないと評価される場合には、この理論が適用される余地があります。
04実務上「自ら言いにくい」という問題
しかし、実際には、会社が固定残業代(定額残業代・みなし残業)として取り扱っている賃金について、自分から「時間外労働等の対価として支払われたものではないから残業代ではない、最低賃金以上の賃金を支払っているかを判断する際に考慮すべきだ」とは、言いにくいものです。
なぜなら、固定残業代が「残業代ではない」と主張することは、自ら固定残業代制度の有効性を否定することにつながりかねないからです。固定残業代制度の設計や運用が適法であることを前提に会社を経営してきたにもかかわらず、都合に応じて「これは残業代ではない」と言い方を変えることは、一貫性を欠き、裁判所や相手方にも説得力を持ちません。
会社が固定残業代として取り扱っている賃金が、最低賃金以上の賃金を支払っているかどうかを判断する際に考慮されるのは、訴訟などで会社のメインの主張が認められずに、固定残業代が時間外労働等の対価として支払われたものでないと評価されてしまったような場合に限られると思います。いわば「敗訴した結果として、副次的に認められる可能性がある」という位置づけです。
05会社経営者として押さえるべき実務上のポイント
固定残業代制度を採用している会社は、固定残業代を除いた賃金(基本給等)が最低賃金以上となっているかを確認してください。固定残業代を含めて計算することはできませんので、基本給のみで最低賃金をクリアしている必要があります。
特に、固定残業代の金額が大きく基本給が低い賃金設計になっている場合(例:基本給15万円+固定残業代8万円の合計23万円など)は、基本給15万円が最低賃金以上かどうかを確認してください。所定労働時間数で割った時間単価が最低賃金を下回っていれば、最低賃金違反となります。
また、固定残業代制度が有効に機能するためには、固定残業代が残業代として明確に区分されて支払われ、固定残業代に対応する時間外労働時間数が明示されていることなどの要件を満たす必要があります。固定残業代制度の設計・運用に不安がある場合は、使用者側弁護士に確認することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 当社は基本給15万円+固定残業代(月40時間分)8万円を支給しています。最低賃金の確認はどのようにすればよいですか。
A. 固定残業代8万円は最低賃金の判断に含めませんので、基本給15万円のみで最低賃金を満たしているかを確認します。基本給15万円÷所定労働時間数(例:月160時間)=937.5円/時間となります。この金額が都道府県の最低賃金以上かを確認してください。東京都の最低賃金(2024年10月改定後1,163円)との比較では、937.5円は下回っていますので、賃金の見直しが必要です。精皆勤手当・通勤手当・家族手当も除外されますので、これらを除いた基本給等の合計で計算してください。
Q2. 固定残業代制度を有効にするためには、どのような条件が必要ですか。
A. 固定残業代制度が有効であるためには、主に①固定残業代が通常の賃金部分と明確に区分されて支払われていること(基本給と残業代が判別できること)、②固定残業代に対応する時間外労働の時間数が明示されていること(例:「月40時間分の時間外労働の対価として○円」)、③固定残業代を超える時間外労働が発生した場合は差額を追加で支払う旨が定められていること、などが求められます(最高裁平成29年7月7日・日本ケミカル事件等参照)。これらを満たさない固定残業代は無効とされるリスクがあります。
Q3. 固定残業代が無効とされた場合、残業代はどうなりますか。
A. 固定残業代が無効とされると、支払っていた固定残業代部分は「基本給の一部」として扱われ、実際の時間外労働時間に対する残業代が別途未払いとなります。その場合、固定残業代を含めた賃金総額を基礎として時間外割増賃金を計算し直し、実際の時間外労働に対する残業代との差額を支払わなければなりません。多額の残業代請求につながることがありますので、固定残業代制度の設計は慎重に行ってください。
Q4. 固定残業代が無効とされた場合、その固定残業代を最低賃金の計算に含めることができますか。
A. 理論上は、固定残業代が残業代としての実質を持たないと評価された(=無効とされた)結果として、その部分を最低賃金の判断に含める余地が生じます。しかし、これは本記事で解説したとおり、会社にとっては「固定残業代の無効」という敗訴を前提とした副次的な主張です。固定残業代を残業代として有効に機能させることを目指すべきであり、「どうせ無効なら最低賃金に含めよう」という発想で設計することはお勧めできません。
最終更新日:2026年2月25日