労働問題505 精皆勤手当は、残業代(労基法37条の割増賃金)の時間単価を計算する際には考慮されることが多いのに、最低賃金の時間単価を計算する際には考慮されないのはどうしてですか。
精皆勤手当は、最低賃金の時間単価を計算する際には考慮されません。これに対し、残業代(労基法37条の割増賃金)を計算する際には、精皆勤手当を基礎賃金に加えなければならないことが多いのが実情です。会社経営者が、最低賃金の計算でも、残業代の計算でも、会社の負担が重くなる方向で考えなければならない理由について知りたいと考えるのは、もっともなことだと思います。どうしてこのような違いが生じるのでしょうか?この違いは、抽象的に言えば法の趣旨が異なることから生じるものですが、ここでは具体的に条文を示して解説したいと思います。
残業代(労基法37条の割増賃金)を計算する際に精皆勤手当を考慮しなければならないかは、精皆勤手当が除外賃金である「臨時に支払われた賃金」(労基則21条4号)に該当するかどうかによって決まります。
これに対し、最低賃金の時間単価を計算する際に精皆勤手当が考慮されないのは、最低賃金の時間単価を計算する際には精皆勤手当を考慮しないこととした上で最低賃金が決められた結果、「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」(最低賃金法4条3項3号)に該当することになるからです。「臨時に支払われる賃金」(最低賃金法4条3項1号・同法施行規則1条1項)も最低賃金の時間単価を計算する際に考慮されませんが、精皆勤手当が「臨時に支払われる賃金」に該当するかを検討するまでもなく結論が出るのが現状です。
仮に、「臨時に支払われる賃金」(最低賃金法4条3項1号・同法施行規則1条1項)に該当することを理由として、精皆勤手当が最低賃金の時間単価を計算する際に考慮されないこととされているのであれば、精皆勤手当が残業代(労基法37条の割増賃金)を計算する際の除外賃金である「臨時に支払われた賃金」(労基則21条4号)に該当するかという論点と統一的な取扱いがなされていたかもしれません。しかし、全く趣旨の異なる条文が根拠のため、「臨時に支払われる賃金」についての解釈とは関係なく、精皆勤手当は、最低賃金の時間単価を計算する際には考慮されないこととなるのです。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎