労働問題438 労働審判の第1回期日に担当者が出頭できない場合の対応


この記事の結論
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出頭できない事情を答弁書で明示する

何も説明しないまま担当者を欠席させることは避けてください。なぜ出頭できないのか、次回期日には出頭できるのかを答弁書に具体的に記載し、誠実な姿勢を示すことが重要です。

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客観証拠で書面を補強し、書面で主張を完結させる

口頭説明が不十分になる分、メール・指導書面・勤怠記録などの客観資料を体系的に整理し、答弁書の中でその意味を明確に示します。「期日で説明する」のではなく「書面で完結させる」という発想が重要です。

3

退職者がキーマンの場合は現実的な選択肢を考える

協力が得られない退職者に依拠していた事案では、事実認定上の不利が生じやすくなります。その場合は、早期和解による解決も含め、経営的観点からの判断が求められます。

参考動画

01第1回期日に直接体験者が出頭できないことのリスク

 労働審判において、第1回期日は実質的な山場です。その場で暫定心証が形成され、解決の方向性がほぼ定まることも少なくありません。そのため、紛争の実情を最もよく知っている担当社員が出頭できないことは、会社経営者にとって軽視できない問題です(426番参照)。

 労働審判委員会は、書面の記載内容を前提にしつつ、期日において具体的な事実関係を確認します。解雇事案であれば問題行為の状況や指導経緯、残業代請求事件であれば労働時間管理の実態など、現場での具体的なやり取りが問われます。直接体験者が不在であれば、説明はどうしても伝聞にとどまり、説得力が弱まります。

 伝聞的な説明が続くと、「本当にそのような事実があったのか」という疑念を持たれかねません。迅速手続である労働審判では、詳細な証人尋問の機会は通常ありません。そのため、期日の印象がそのまま事実認定に影響することがあります。

 また、担当社員が出頭できない理由が十分に説明されていない場合、「会社側は準備が不十分ではないか」と受け取られる可能性もあります。出頭できないという事実そのものよりも、その影響をどう管理するかが重要です。出頭不能が判明した時点で、代替手段や進行調整を戦略的に検討しなければなりません。

02第2回期日に出頭可能な場合の実務対応

 紛争の実情をよく知っている担当社員が第1回期日には出頭できないものの、第2回期日であれば出頭可能である場合には、その事情を早期に明示し、労働審判委員会と進行調整を図ることが重要です。

 まず重要なのは、何も説明しないまま第1回期日に臨まないことです。担当社員が出頭できない事情があるのであれば、その理由と、第2回期日には出頭可能である見込みを、答弁書の中で具体的に記載しておくべきです。これにより、会社側が誠実に対応しようとしている姿勢を示すことができます。

 労働審判は迅速手続ですが、合理的な理由があれば進行に一定の配慮がなされることもあります。直接体験者の出頭が事実解明にとって重要であると委員会が認識すれば、第1回期日は主として争点整理や和解方向の確認にとどめ、第2回期日に事実確認を行うという進行も考えられます。

 単に「出頭できない」と述べるだけでは不十分であり、いつ、誰が、どのように対応するのかまで示す必要があります。また、第1回期日に出頭する他の社員には、可能な限り事実関係を共有し、想定問答を準備しておくことも重要です。完全な直接体験者でなくとも、一定の具体性をもって説明できるようにしておくことで、不利な印象を抑えることができます。

03答弁書で事情説明を行う重要性

 紛争の実情をよく知る担当社員が第1回期日に出頭できない場合、その事情を答弁書で明確に説明しておくことが重要です。期日当日に口頭で述べれば足りるという考えは適切ではありません。

 労働審判では、申立書と答弁書の内容を前提に暫定心証が形成されます。担当社員が出頭できないという重要事情も、書面段階で共有されていなければ、委員会の理解を得にくくなります。何も触れられていない場合、「なぜ当事者が来ていないのか」という疑問が先に立ち、準備不足との印象を与えかねません。

 答弁書には、単に「出頭できない」と書くのではなく、その理由と今後の見通しを具体的に記載すべきです。例えば、出張や療養などやむを得ない事情であること、第2回期日には出頭可能である見込みであることなどを明示します。これにより、会社側が事実解明に協力する姿勢を示すことができます。

 さらに重要なのは、担当社員が出頭できなくても、書面と客観証拠で会社の主張が理解できるようにしておくことです。出頭不能を補うだけの書面の充実度があれば、心証への悪影響は限定的に抑えられます。答弁書は単なる反論文書ではなく、進行全体を設計するための戦略文書でもあります。担当社員の不在という不利な事情がある場合こそ、書面で先手を打つことが重要です。

04労働審判委員会との進行調整の方法

 担当社員が第1回期日に出頭できない場合、一方的に事情を伝えるのではなく、進行を協議する姿勢を示すことが重要です。労働審判は迅速手続ですが、合理的な事情があれば進行方法について一定の調整がなされる余地はあります。

 まず、答弁書において出頭不能の理由と第2回期日での出頭可能性を明示したうえで、期日において代理人を通じて改めて説明します。その際、「次回に説明します」と述べるだけでなく、「第2回期日に当該社員が出頭し、問題行為の経緯や指導内容について直接説明する予定である」と具体的に伝えることが重要です。

 一方で、進行調整を求める以上、第2回期日に確実に出頭させる責任が会社側に生じます。出頭予定と説明しながら実現できなければ、信頼を大きく損ないます。スケジュール確保は確実に行う必要があります。

 また、第1回期日では可能な範囲で事実関係を整理し、争点を明確化しておくことも重要です。進行を後ろ倒しにするのではなく、「第1回期日でできること」と「第2回期日に行うべきこと」を区別して対応する姿勢が求められます。誠実に事情を開示し、具体的な対応計画を提示することが、進行調整を可能にする前提条件となります。

05担当社員が退職している場合の対応

 紛争の実情を最もよく知っている担当社員が既に退職しており、第2回期日にも出頭が見込めない場合、会社経営者としては現実を直視し、残された証拠と体制の中で最善を尽くす戦略に切り替える必要があります。

 退職者に任意で出頭を依頼する余地はありますが、強制することはできません。仮に協力が得られない場合、会社側はその人物の口頭説明に依拠することはできなくなります。この場合に決定的に重要になるのが、書面や客観証拠の整備状況です。

退職者がキーマンの場合に整理すべき証拠

解雇事案:注意指導書面、メールのやり取り、評価資料、業務日報などがどこまで残っているかが鍵となります。
残業代請求事件:勤怠記録、賃金台帳、業務指示メールなどの客観資料が中心になります。口頭説明がなくても、書面だけで会社の主張がほぼ再現できる状態にしておくことが防御の核心です。

 一方、客観証拠がほとんど存在せず、退職者の記憶に依拠していたような事案では、事実認定上不利になる可能性が高まります。その場合、労働審判委員会から提示される解決水準も、本来より会社に不利な内容となることが現実的に想定されます。経営的観点から、早期和解による解決も視野に入れる必要があります。

 退職者が出頭できないという事態は珍しくありません。だからこそ、日頃から記録を残し、判断過程を文書化しておくことが、最終的な企業防衛につながります。

06客観証拠で補強する戦略の重要性

 紛争の実情を知る担当社員が出頭できない場合において、会社経営者が最も重視すべきなのは、客観証拠でどこまで主張を補強できるかという点です。口頭説明に頼れない以上、書面と記録がすべてを左右します。

 労働審判では迅速性が重視されるため、詳細な証人尋問を通じて事実を掘り下げる機会は通常限られています。その結果、メール、議事録、指導書面、勤怠記録、評価資料などの客観資料の有無と内容が、事実認定の中心となります。担当社員が出頭できなくても、これらの資料が体系的に整っていれば、防御力は大きく低下しません。

 例えば解雇事案であれば、注意指導の履歴が文書として残っているかどうかが重要です。単なる「口頭で注意した」という説明では弱くても、日付入りの指導書面や改善指示メールがあれば、客観性は格段に高まります。残業代請求事件でも、勤怠記録や業務指示の記録が整備されていれば、会社側の労働時間認識を具体的に示すことができます。

 重要なのは、証拠を単に提出するだけでなく、書面の中でその意味を明確に位置付けることです。どの証拠がどの事実を裏付けるのかを論理的に整理し、答弁書内に落とし込むことで、担当社員不在の弱点を補うことができます(434番参照)。

 会社経営者としては、期日対応を個人依存にしない体制を構築することが本質的なリスク管理です。人が来られなくても戦える状態を作っておくことが、真の企業防衛といえます。

07証拠が乏しい場合に想定される不利益

 担当社員が出頭できず、かつ客観証拠も十分に整っていない場合、会社経営者としては相応のリスクを踏まえた対応が必要です。

証拠が乏しい場合に想定される3つの不利益

① 事実認定における不利:申立人側が具体的に事実を主張し一定の資料を提示しているのに対し、会社側が抽象的な説明や不十分な証拠しか提示できない場合、心証は申立人側に傾きやすくなります。労働審判では、厳格な証明度というよりも、全体の合理性と具体性が重視される傾向があります。
② 調停水準への影響:証拠が弱いと評価された場合、労働審判委員会が提示する解決金額は、会社側にとって高めに設定される可能性があります。本来であれば大幅に減額できたはずの案件でも、防御資料が乏しいことで交渉余地が縮小します。
③ 通常訴訟への移行後の影響:異議申立てにより通常訴訟に移行することになっても、新たに有力な証拠が出てこない限り、流れを変えるのは容易ではありません。初期段階の弱さは、後々まで影響します。

 証拠が乏しい状況では、「勝つか負けるか」ではなく、「どの水準で収束させるか」という視点に切り替えることが重要です。防御力の限界を冷静に見極め、経営的合理性に基づいた判断を行うことが求められます。

08書面主義を徹底することでリスクを抑える

 担当社員が出頭できない場合こそ、会社経営者として徹底すべきなのが書面の充実です。労働審判は口頭でのやり取りも重要ですが、実際には申立書と答弁書を中心に心証が形成されます。書面の完成度が高ければ、出頭者の不足という弱点を一定程度補うことが可能です。

 具体的には、事実経過を抽象的に述べるのではなく、日時・場所・行為内容を明確にした叙述に仕上げます。そして、対応する客観証拠を丁寧に引用し、その意味を明示します。単に証拠番号を挙げるだけでは足りません。証拠のどの部分がどの事実を裏付けるのかまで書き込むことが重要です。

 また、想定される反論に対しても、あらかじめ書面上で整理しておくことが有効です。担当社員がその場で補足説明できない以上、質疑応答を先取りする形で答弁書を構成する必要があります。「期日で説明する」のではなく、「書面で完結させる」という発想に転換することが重要です。

 さらに、文章の構造を明確にすることも重要です。結論を先に示し、その理由を具体的事実と証拠で補強する構成を徹底すれば、読み手の理解は格段に高まります。書面自体が説得文書として機能する状態を目指します。担当社員の不在は確かに不利な事情ですが、書面と証拠が整っていれば、労働審判委員会に会社の主張を十分に理解してもらうことは可能です。

09事前準備でダメージを最小化する方法

 紛争の実情を知る担当社員が第1回期日に出頭できない場合でも、事前準備を徹底すれば、影響は相当程度抑えることができます。「出頭できない」という事実を変えられない以上、準備の質で補うという発想が重要です。

出頭不能に備えた3つの事前準備

① 担当社員からの詳細ヒアリングを期日前に完了させる:問題行為の具体的状況、指導の経緯、当時の判断理由などを、できる限り具体的に聴取し書面化しておきます。可能であれば陳述書の形で整理しておくことも有効です。これにより、期日に出頭できなくても、当該社員の認識を間接的に示すことができます。
② 想定問答の準備をしておく:労働審判委員会からどのような質問が出るかを予測し、出頭予定者がどの範囲まで回答できるかを整理しておきます。答えられない部分については、「第2回期日に担当社員が出頭して説明予定である」など、明確な対応方針を準備しておくことが重要です。
③ 証拠の整理と位置付けを徹底する:どの証拠がどの事実を裏付けるのかを一覧化し、答弁書の記載と対応させておきます。期日で口頭補足ができなくても、書面と証拠で主張が完結する状態を作ることが理想です。

 「担当社員が来られないから不利になる」のではなく、「準備不足だから不利になる」という点が本質です。出頭不能は不利要素ですが、準備次第で影響は大きく変わります。

10まとめ 出頭できなくても戦える体制を整える

 紛争の実情をよく知る担当社員が第1回期日に出頭できないという事態は、会社経営者にとって不安材料です。しかし、それ自体が直ちに決定的な不利を意味するわけではありません。重要なのは、出頭不能という事実をどう管理し、どう補うかです。

 第2回期日に出頭可能であれば、その事情を答弁書で明示し、労働審判委員会と進行調整を行うことが有効です。一方、退職などにより出頭が見込めない場合には、書面と客観証拠で主張を補強する戦略に切り替える必要があります。

 証拠が充実していれば、口頭説明がなくても会社の主張は十分に理解され得ます。逆に、証拠が乏しければ、本来よりも不利な調停水準が提示される可能性があります。ここで差を生むのは、日頃からの記録管理と、期日前の徹底した準備です。

 会社経営者としては、「人が来られないこと」を嘆くのではなく、「人が来なくても説明できる状態を作れているか」を問うことが重要です。企業防衛の本質は、個人依存からの脱却にあります。

経営上のポイント 労働審判では証拠と書面の質が結果を左右します。キーマン不在というピンチを、精緻な書面作成と戦略的な進行調整で乗り切ることができます。使用者側弁護士と早期に連携し、準備を進めてください。アドバイスします。

労働審判対応について網羅的に知りたい方へ

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労働審判の会社側対応を網羅的に解説

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. 担当社員が急病で出頭できなくなりました。期日直前でも進行調整を求めることができますか。

A. 可能性はありますが、期日直前の連絡は進行上の問題が大きく、認められないことも多いです。急病など真にやむを得ない事情であれば、代理人弁護士を通じてできるだけ早く裁判所に事情を伝えることが先決です。また、その社員からの事前ヒアリングをもとに答弁書を充実させておくことで、出頭できない影響を最小限に抑えることが重要です。

Q2. 退職した担当者に協力を求めることはできますか。

A. 任意での協力を求めることは可能ですが、強制する手段はありません。退職後の関係性や状況によっては協力が得られないこともあります。協力が得られない場合を想定して、在職中の記録(指導書面、メール、日報など)をできる限り収集・整理し、書面で対応できる状態を作ることが重要です。

Q3. 担当者が出頭できない場合でも、陳述書を提出することはできますか。

A. 陳述書を提出することは可能であり、担当者の認識や事実経緯を間接的に示す手段として有効です。ただし、陳述書はあくまで補充資料であり、答弁書の内容が核心的な主張の柱となります。陳述書に頼りすぎず、まず答弁書を充実させることを優先してください(434番参照)。

最終更新日:2026年2月25日

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