労働問題437 労働審判期日に会社は誰が出頭すべきか|会社経営者が誤ると致命的になる人選のポイント

1. 労働審判期日は「事実確認の場」である

 労働審判期日は、単なる形式的な出頭日ではありません。会社経営者にとっては、事実関係を直接確認される場であり、暫定心証が実質的に固まる重要局面です。

 労働審判では、申立書と答弁書を前提に、労働審判委員会が双方に対して具体的な事実関係を質問します。特に、解雇理由の経緯、指導内容、労働時間管理の実態など、書面に記載された内容の裏付けを確認されることが一般的です。

 この場面で重要なのは、「誰が説明できるか」です。書面を作成しただけの担当者ではなく、問題となっている事実を実際に体験した人物でなければ、具体的かつ説得的な説明は困難です。

 労働審判は迅速手続であり、通常訴訟のように詳細な証人尋問が行われるわけではありません。だからこそ、期日に出頭した人物の説明が、事実認定に強く影響します。曖昧な回答や伝聞的説明は、そのまま会社側の不利な心証につながります。

 会社経営者として理解すべきなのは、期日は「弁護士が説明する場」ではないということです。もちろん代理人が法的整理は行いますが、事実そのものについては、会社側の出頭者が説明することになります。

 労働審判期日は、企業としての事実管理能力と判断過程の合理性が問われる場です。適切な人物が出頭していなければ、それだけで防御力は大きく低下します。

 したがって、人選は単なる形式ではなく、戦略そのものです。まずは「期日は事実確認の場である」という前提を正しく理解することが、適切な対応の出発点となります。

2. 直接体験者が出頭すべき理由

 労働審判期日において最も重要なのは、問題となっている事実を直接体験した人物が出頭することです。会社経営者としては、「役職が上の者を出せばよい」という発想は誤りであると理解する必要があります。

 労働審判委員会は、書面に記載された事実が実際にどのような経緯で生じたのかを具体的に確認します。その際、現場でのやり取りや判断過程について質問が及ぶことが一般的です。直接関与していない人物では、詳細な経緯を即答できません。

 仮に、問題行為を目撃した上司ではなく、後日報告を受けただけの役員が出頭した場合、説明はすべて伝聞になります。

 「○○からそう聞いています」という回答は、事実認定上の説得力が大きく低下します。労働審判は迅速手続であるため、伝聞的説明が続けば、そのまま不利な心証が形成されかねません。

 また、直接体験者であれば、質問に対して具体的かつ自然な説明が可能です。時系列、発言内容、当時の判断理由などを臨場感をもって説明できるかどうかは、心証に大きく影響します。

 会社経営者として重要なのは、「肩書き」よりも「事実への関与度」を優先することです。現場で指導を行った人物、労働時間管理を実際に担当していた人物など、争点の中心にいた者を出頭させるべきです。

 労働審判では、期日の印象がその後の和解水準や審判内容に直結します。直接体験者が出頭していないというだけで、防御力は大きく低下します。

 人選は形式ではなく、証拠価値に直結する戦略判断です。直接体験者を出頭させることが、会社側の主張を実効的に支える基本対応となります。

3. 伝聞証言しかできない場合の不利益

 問題となる事実を直接体験していない人物しか出頭できない場合、説明はすべて「伝聞」になります。会社経営者としては、この点が事実認定に与える影響を正確に理解しておく必要があります。

 例えば、解雇理由となった問題行為について、実際に注意指導を行った上司ではなく、その報告を受けた役員のみが出頭した場合、回答は次のようになります。

 「上司からそのように報告を受けています。」

 この説明は、二次情報にすぎません。

 労働審判は迅速手続ではありますが、事実認定はあくまで証拠に基づいて行われます。直接体験者の具体的説明と、伝聞に基づく説明とでは、説得力に大きな差があります。伝聞しかない場合、申立人本人の具体的主張の方が重視される可能性すらあります。

 また、伝聞説明では、細部についての質問に対応できません。

  • その発言はどのような状況でなされたのか
  • その際の周囲の反応はどうだったのか
  • なぜその時点でその判断をしたのか

といった踏み込んだ質問に対し、具体的に答えられなければ、「本当にあったのか」という疑念が生じます。

 さらに、伝聞中心の説明は、会社の事実管理体制への疑問にもつながります。重要な判断について、責任ある立場の者が直接把握していないという印象は、心証上マイナスです。

 会社経営者として理解すべきなのは、「出頭している」という形式だけでは足りないということです。誰が、どのレベルの具体性で説明できるかが問題です。

 伝聞証言しかできない体制は、防御力を著しく低下させます。期日の人選を誤れば、それだけで事実認定上の不利を招く可能性がある。この現実を踏まえた準備が不可欠です。

4. 解雇事案で出頭すべき人物の具体例

 解雇事案においては、「誰がどの場面で関与したのか」によって出頭者を決める必要があります。会社経営者としては、肩書きや形式ではなく、解雇プロセスへの実質的関与度を基準に判断すべきです。

 第一に、問題行為を直接確認し、指導を行った上司です。

 問題行為の具体的内容、注意指導の経緯、改善の有無などは、現場責任者でなければ具体的に説明できません。ここが曖昧であれば、解雇の合理性は大きく揺らぎます。

 第二に、最終的な解雇判断に関与した人物です。

 なぜその時点で解雇に踏み切ったのか、他の選択肢は検討したのか、配置転換や再指導の可能性はあったのか――こうした判断過程は、意思決定者でなければ説明できません。

 第三に、人事制度や就業規則の運用を把握している者です。

 懲戒規定の適用根拠や手続の流れについて質問が出ることもあります。制度運用を理解していない人物では、的確な説明が困難です。

 実務上よくある誤りは、「会社経営者のみが出頭する」あるいは「人事担当者のみが出頭する」という形です。会社経営者が最終判断者であっても、現場の具体的事情を十分に把握していなければ、伝聞説明にとどまります。一方、現場上司だけでは、最終判断の合理性を説明しきれない場合があります。

 理想的には、①現場で直接関与した者と、②最終判断に関与した者の双方が出頭できる体制が望ましいといえます。

 会社経営者として重要なのは、「解雇の結論」ではなく「解雇に至るプロセス」が問われているという認識です。そのプロセスを段階ごとに説明できる人選を行うことが、事実認定上の不利益を避ける鍵となります。

5. 残業代請求事件で出頭すべき人物の具体例

 残業代請求事件では、「実際の労働時間管理の実態」と「賃金制度の運用状況」が中心的争点になります。したがって、会社経営者としては、制度と運用の双方を説明できる人物を出頭させる必要があります。

 第一に、労働時間管理を実際に担当していた人物です。

 タイムカードやIC打刻の管理方法、自己申告制の運用状況、残業申請の手続など、実務レベルでの運用を説明できなければなりません。制度が存在するだけでは足りず、「どう運用していたか」が問われます。

 第二に、申立人の業務実態を把握していた直属上司です。

 業務量の実情、残業の必要性、業務命令の有無などは、現場責任者でなければ具体的に説明できません。「忙しかったはずはない」といった抽象的説明では説得力がありません。

 第三に、賃金制度の設計に関与した人物です。

 固定残業代制度や手当の趣旨が争点となる場合、その制度設計の意図や説明状況を説明できる人物が必要です。雇用契約書や賃金規程の内容について即答できる体制が求められます。

 よくある誤りは、「経理担当者だけを出頭させる」「会社経営者だけで対応する」といった形です。経理担当者は支払実績は説明できても、業務実態までは把握していないことが多く、会社経営者は制度全体は説明できても日々の運用詳細までは把握していない場合があります。

 労働審判では、制度の合理性だけでなく、実際の運用の適切性が重視されます。制度と現場の双方を説明できる体制を整えることが、防御力を高めるポイントです。

 会社経営者としては、「制度を作った」だけでは足りません。「制度が機能していた」と説明できる人選を行うことが、事実認定上の不利益を回避するための重要な戦略となります。

6. 調停判断ができる立場の者が必要な理由

 労働審判は、制度上「審判」ですが、実務上は和解(調停)による解決を強く志向する手続です。第1回期日で具体的な解決金額が提示されることも珍しくありません。したがって、会社経営者として最も重要なのは、「その場で判断できる体制」を整えることです。

 労働審判委員会から解決案が提示された場合、

  • その条件で応じるのか
  • 減額交渉を行うのか
  • 審判まで進めるのか

を即時に判断する必要があります。

 ここで、「いったん会社に持ち帰って検討します」という対応になると、まとまりかけた調停が流れることがあります。迅速解決を前提とする制度において、即断できない姿勢は、委員会に消極的な印象を与えかねません。

 また、判断が遅れることで、紛争が通常訴訟に移行し、長期化・高コスト化するリスクも高まります。解決可能だった案件が、数年単位の訴訟へと発展することも現実に起こり得ます。

 会社経営者にとって重要なのは、「法的に勝てるか」だけではなく、「どの水準なら経営的に合理的か」という視点です。

 想定敗訴額、弁護士費用、レピュテーションリスク、社内波及効果――これらを踏まえた判断基準を事前に定めておく必要があります。

 理想的には、調停応諾の最終決定権を持つ会社経営者自身が出頭するか、少なくともその場で即断できる権限を与えられた者を同行させるべきです。

 労働審判は短期決戦です。決断力の有無が結果を左右します。調停判断ができる体制を整えていないこと自体が、重大な経営リスクとなるのです。

7. その場で判断できないことのリスク

 労働審判期日において、調停案が提示されたにもかかわらず「会社に持ち帰って検討します」としか答えられない場合、会社経営者にとって重大なリスクが生じます。

 第一に、解決機会の逸失です。

 労働審判は短期決戦であり、第1回期日が最も解決可能性の高い場面です。その場で合意できる案件でも、判断を先送りすれば、当事者間の感情や対立が強まり、条件が悪化することがあります。

 第二に、労働審判委員会の心証への影響です。

 迅速解決を目的とする制度において、即断できない姿勢は消極的と受け取られる可能性があります。「会社側は解決意思が弱い」と評価されれば、次回提示される解決水準が会社に不利に傾くこともあります。

 第三に、通常訴訟への移行リスクです。

 調停が成立しなければ審判が出され、さらに異議申立てがあれば通常訴訟へ移行します。訴訟となれば、時間・費用・社内負担はいずれも大きくなります。本来短期間で収束できたはずの紛争が、長期化する可能性があります。

 第四に、交渉主導権の喪失です。

 その場で具体的な条件提示や修正提案ができなければ、交渉の主導権は委員会や相手方に移ります。経営判断を即時に行えない体制は、それ自体が交渉力の低下につながります。

 会社経営者として重要なのは、期日前に「どの水準なら解決するか」という判断基準を明確にしておくことです。想定敗訴額や紛争継続コストを踏まえ、許容範囲を事前に設定しておくことで、期日当日に迷いなく決断できます。

 労働審判では、決断のスピードが結果を左右します。その場で判断できないことは、単なる手続上の不便ではなく、実質的な不利益を招く経営リスクであると理解すべきです。

8. 同行できない場合の実務対応策

 現実には、会社経営者が期日に出頭できない、あるいは最終決裁権者が同行できない場合もあります。その場合でも、無策のまま期日に臨むことは避けなければなりません。事前準備と即時連絡体制の構築が不可欠です。

 第一に、事前に決裁レンジを明確にしておくことです。

 例えば、「解決金○○万円まではその場で応じる」「○○万円を超える場合は減額交渉を行う」といった具体的な判断枠を設定しておきます。これにより、同行者が即断できる範囲が明確になります。

 第二に、期日中は必ず連絡が取れる体制を確保することです。

 電話に即応できる状態にしておき、必要に応じて短時間で意思決定を行えるようにします。会議中で連絡が取れない、海外出張で対応不能といった状況は避けるべきです。

 第三に、事実説明担当者と決裁担当者の役割を明確に分けることです。

 事実関係を直接体験した人物が説明を担当し、決裁権者が判断を行う。この役割分担を事前に整理しておくことで、期日当日の混乱を防げます。

 第四に、想定問答の準備です。

 労働審判委員会から提示され得る解決水準や質問内容を想定し、あらかじめ社内でシミュレーションを行っておくことが重要です。準備の有無が、当日の判断速度と精度を左右します。

 会社経営者として理解すべきなのは、「出頭できない」こと自体よりも、「判断できない状態で臨む」ことの方が危険だという点です。適切な委任と即時連絡体制があれば、物理的に不在でも実質的な対応は可能です。

 労働審判はスピード勝負です。決裁権者が同行できない場合でも、実質的に即断できる体制を構築することが、企業防衛上の最低限の対応となります。

9. 会社経営者自身が出頭すべき場面とは

 労働審判期日において、常に会社経営者自身が出頭しなければならないわけではありません。しかし、経営判断そのものが争点となっている場合には、会社経営者の出頭が極めて重要になります。

 第一に、解雇や雇止めなど、最終決定を会社経営者が行った事案です。

 「なぜその時点で解雇に踏み切ったのか」「他の選択肢は検討したのか」といった判断過程は、最終決裁者でなければ十分に説明できません。ここが曖昧であれば、恣意的判断との疑念を持たれかねません。

 第二に、経営上の必要性が問題となる整理解雇等の事案です。

 事業状況、経営判断の背景、今後の見通しなどは、会社経営者の説明が最も説得力を持ちます。現場責任者では説明しきれない部分です。

 第三に、高額請求や社会的影響が大きい案件です。

 レピュテーションリスクや他従業員への波及効果を踏まえた経営判断が必要な場合、最終責任者が直接関与している姿勢自体が、労働審判委員会へのメッセージになります。

 また、会社経営者が出頭することは、単なる事実説明のためだけではありません。調停案が提示された際に、即断できる体制を示す意味でも重要です。決裁権者がその場にいることは、交渉上の信頼性を高めます。

 一方で、現場の具体的事実を十分に把握していない場合は、単独出頭は避けるべきです。会社経営者のみでは伝聞説明にとどまり、防御力が低下する可能性があります。

 会社経営者として重要なのは、「出るか出ないか」ではなく、「どの争点に誰が最も適しているか」を基準に判断することです。経営判断の合理性が中心争点である場合には、自ら出頭することが最善の戦略となります。

10. まとめ|人選は戦略であり、結果を左右する

 労働審判期日に誰を出頭させるかは、形式的な問題ではありません。会社経営者にとっては、事実認定と解決水準を左右する戦略判断です。

 期日は「事実確認の場」であり、書面に記載された内容の具体性と信頼性が厳しく問われます。問題となる事実を直接体験した人物が出頭しなければ、伝聞説明にとどまり、証拠価値が低下するおそれがあります。

 解雇事案であれば、現場で指導を行った者と最終判断者の関与が重要です。残業代請求事件であれば、労働時間管理の実態と賃金制度の運用を説明できる人物が必要です。争点に応じた人選が不可欠です。

 また、労働審判は和解的解決を志向する制度であり、その場で調停判断ができる体制を整えることが極めて重要です。即断できなければ、解決機会を逸し、通常訴訟へと長期化するリスクが高まります。

 会社経営者自身が出頭すべき場面もあります。特に経営判断の合理性が問われる事案では、最終決裁者が直接説明することが説得力を持ちます。

 労働審判は短期決戦です。誰が出頭するかによって、防御力は大きく変わります。人選は形式ではなく戦略である――この認識を持ち、争点に最も適した人物を配置することが、企業防衛の核心となります。

 

参考動画

 

労働審判対応について網羅的に知りたい方へ

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・訴訟移行を見据えた対応方針
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更新日2026/2/15

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