労働問題434 労働審判の答弁書を作成する上での注意点を教えて下さい。

 労働審判手続の当事者は、裁判所(労働審判委員会)に対し、主張書面だけでなく、自己の主張を基礎づける証拠の写しも提出するのが通常ですが、東京地裁の運用では、労働審判委員には、申立書、答弁書等の主張書面のみが事前に送付され、証拠の写しについては送付されない扱いとなっています。労働審判員は、他の担当事件のために裁判所に来た際などに、証拠を閲覧し、詳細な手控えを取ったりして対応しているようですが、自宅で証拠と照らし合わせながら主張書面を検討することはできません。また、労働審判官(裁判官)も、限られた時間の中で大量の事件を処理していますので、答弁書を読んだだけで言いたいことが明確に伝わるようにしておかないと、真意が伝わらない恐れがあります。答弁書作成に当たっては、答弁書が労働審判委員会を「説得」する手段であり、労働審判委員会に会社の主張を理解してもらえずに不当な結論が出てしまった場合は、労働審判委員会が悪いのではなく、労働審判委員会を説得できなかった自分たちに問題があったと受け止めるスタンスが重要となります。
 労働審判委員会は、申立書、答弁書の記載内容から、事前に暫定的な心証を形成して第1回期日に臨んでいます。また、第1回期日は、時間が限られている上、緊張して言いたいことが思ったほど言えないリスクがあります。したがって、労働審判手続において相手方とされた使用者側としては、重要な証拠内容は答弁書に引用するなどして、答弁書の記載のみからでも、主張内容が明確に伝わるようにしておくべきことになります。
 陳述書を答弁書と別途提出するのは当事者の自由ですが、重要ポイントについては、答弁書に盛り込んでおくことが必要となります。答弁書の記述で言いたいことが伝わるのであれば、答弁書と同じような内容の陳述書を別途提出する必要はありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 

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