労働問題401 ④パワハラ・セクハラに関する労災認定の概要を教えて下さい。
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パワハラ・セクハラの被害者が精神疾患を発症している場合、パワハラ・セクハラの心理的負荷が「強」と判断されれば業務起因性が肯定され、労災認定される可能性が高くなる 労災認定の可否は「心理的負荷による精神障害の認定基準」を参考に判断されます |
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労災認定は行政の判断であり、民事上の損害賠償責任とは直接連動しない——ただし労災認定があれば安全配慮義務違反等の民事責任の立証で会社側に不利になりうる(397番参照) 「労災の問題だから民事とは別」という切り離しは危険です |
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労災申請があった場合の会社側の対応は、民事紛争を見据えた総合的な方針のもとで進める必要がある——初動対応を誤ると後の民事リスクが拡大する 使用者側弁護士と連携した早期対応が重要です |
目次
01労災認定の概要——行政判断としての位置づけ
パワハラ・セクハラ紛争の類型④が「労災認定の問題」です(397番参照)。これは、パワハラ・セクハラを原因として精神疾患を発症した従業員が、労働基準監督署に労災(業務災害)の申請を行う場合に生じます。
労災認定は、労働基準監督署による行政上の判断です。「業務上の疾病」と認定されれば、療養補償給付・休業補償給付等の労災給付を受けることができます。民事上の損害賠償請求(398番参照)とは手続が別であり、労災認定があれば直ちに会社の民事責任が認められるわけではありません。しかし、両者は無関係ではなく、労災認定の有無が民事紛争に影響を与える可能性があります。
02心理的負荷による精神障害の認定基準
パワハラ・セクハラに関する労災認定の可否は、行政レベルでは「心理的負荷による精神障害の認定基準」(厚生労働省)を参考に判断されます。
この認定基準では、業務による心理的負荷を「弱」「中」「強」の3段階で評価し、「強」と評価された場合に業務起因性が肯定されやすくなります。パワハラ・セクハラの被害者が精神疾患(うつ病・適応障害等)を発症している場合に、そのパワハラ・セクハラの心理的負荷が「強」と判断されれば、業務起因性が肯定され、労災認定される可能性が高くなります。
業務起因性肯定のための主な要件
①対象疾病の発症:精神障害(うつ病・適応障害等)を発症していること
②業務による心理的負荷:発症前おおむね6ヶ月以内に業務による強い心理的負荷が認められること
③業務以外の要因の否定:業務以外の個人的要因(私生活上の出来事等)が主因でないこと
03「心理的負荷が強」と評価されるパワハラ・セクハラの具体例
認定基準においてパワハラ・セクハラの心理的負荷が「強」と評価されやすい行為の例としては、次のようなものがあります。
身体的な攻撃(暴行・傷害等)・ひどい暴言や人格否定的言動・継続的な無視や隔離・性的な接触や深刻な性的言動等は、心理的負荷が「強」と評価されやすい傾向があります。一方、業務上の指導・注意・叱責であっても、その態様が著しく不相当で継続的なものである場合は「強」と評価される可能性があります。
会社経営者・管理職として重要なのは、日常的な業務指導・注意が「強」の評価となるケースは限定的であることを理解しつつ、著しく不適切な言動(暴言・人格否定等)が「強」と評価されやすいことを認識しておくことです(392番・395番参照)。
04労災認定と民事責任の関係
労災認定がなされた場合、会社の民事責任(安全配慮義務違反・使用者責任等)が自動的に認められるわけではありません。民事責任の有無は、民事訴訟・労働審判において別途判断されます。
ただし、労災認定があれば「業務上の疾患である」という行政の判断が示されることになり、民事訴訟・労働審判において、会社側の安全配慮義務違反等を主張する際の証拠として影響する可能性があります。逆に労災認定がなされなかった場合でも、民事訴訟で業務起因性・会社責任が認められることはあります。
「労災の問題は行政だから民事と関係ない」という発想は危険です。労災申請があった段階で、民事紛争も見据えた総合的な対応方針を検討することが重要です。
05会社側として取るべき対応
労災申請があった場合の会社側の対応ポイント
①労基署の調査への誠実対応:調査に対して事実関係を適正に説明する。不誠実な対応は後の民事紛争で不利になりうる
②事実関係の文書化:指導内容・方法・経緯・ハラスメント申告への対応を文書で整理・保管する
③解雇・不利益取扱いの禁止を確認:労災申請中・認定後の当該従業員への解雇等は労基法上制限がある場合がある(399番参照)
④使用者側弁護士への早期相談:労災申請があった段階で、民事紛争を見据えた対応方針を使用者側弁護士と協議して決定する
06まとめ
パワハラ・セクハラの被害者が精神疾患を発症している場合、そのパワハラ・セクハラの心理的負荷が「強」と判断されれば業務起因性が肯定され、労災認定される可能性が高くなります。労災認定の可否は「心理的負荷による精神障害の認定基準」を参考に判断されます。労災認定と民事責任は別の問題ですが、労災認定は民事紛争に影響しうるため、労災申請があった段階で民事紛争も見据えた対応方針を使用者側弁護士と協議して決定することが重要です。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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Q&Aよくある質問
Q1. 元従業員から労災申請があったと労基署から連絡がありました。会社として調査に協力する義務がありますか。
A. 労基署の調査には誠実に対応することが基本です。事実関係を適正に説明し、関係書類の提出等に応じてください。不誠実な対応は後の民事紛争において不利に働く可能性があります。調査への対応方針については、事前に使用者側弁護士と協議して決定することをお勧めします。
Q2. 業務上の通常の指導が労災認定につながるリスクはありますか。
A. 業務上必要で方法が相当な指導・注意が心理的負荷「強」と評価されるケースは限定的です。しかし、暴言・人格否定的言動・継続的な無視等の著しく不相当な言動がある場合は「強」と評価されるリスがあります。適正な業務指導を続けつつ、言動の内容・方法・記録管理に注意することが重要です(392番・395番参照)。
最終更新日:2026年5月31日