労働問題1033 退職勧奨が紛争に発展しやすいケースとは

この記事の要点

話がついたと思っても退職届・退職合意書を取らずに終わらせると後で「解雇された」と主張される

出社しなくなったから退職したものと思っていたら、後から「不当解雇だ、給与を払い続けろ」という内容証明が届くケースが実際にある。退職の事実は必ず書面で確定させる

面談は常に録音されている前提で臨む。「もう来なくていい」は解雇と評価されるリスクがある

発言の真意が違っても、言葉そのものが問題になる時代。感情的な表現や断定的な言い方は避け、録音されていても問題のない言葉遣いで臨むことが基本

注意指導・懲戒処分の積み重ねなしにいきなり退職勧奨をすると、断られた時に手詰まりになる

準備なしで断られると解雇もできず、高額の解決金を払わなければ合意が取れない状況に陥る。職場環境の悪化が続き、無理な退職勧奨がパワーハラスメントと認定されるリスクも生じる

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本ページの基となる解説動画

本ページの解説内容は、以下の藤田進太郎弁護士による解説動画を素材として、当事務所が文章化しています。動画でより詳しく確認されたい場合はあわせてご視聴ください。


01退職勧奨はうまくいったはずが、後からトラブルになるケースがある

 退職勧奨は、話し合いによる合意退職を目指す手続です。多くの場合、しっかりと進めれば大きな問題なく解決できます。しかし、進め方を誤ると、うまくいったと思っていた案件が後から深刻なトラブルに発展することがあります。

 実際の相談事例に多く見られるのは、次の3つのケースです。いずれも「対応の内容」よりも「手続き上の不備」や「言葉の使い方」が原因になっているという点が共通しています。

ケース①退職届・退職合意書を取らずに終わらせた

 退職勧奨で最も多いトラブルの一つが、「退職に関する話し合いがついたと思っていたのに、書面を何も取っていなかった」というケースです。

「出社しなくなった」は退職の確認にならない

 社員が出社しなくなったため「辞めるつもりなのだろう」と思い、退職の処理を進めようとしていたところ、後日突然、内容証明郵便が届いて「解雇されたが不当解雇だ、在職中なので給与を払い続けろ」という請求を受けた、という事案が実際に起きています。

 連絡が取れなかったのに突然このような主張が届く、という展開に経営者は驚きます。しかし、退職届も退職合意書も取っていない以上、「退職した」という事実を立証することが難しい客観的状況にあります。

「解雇していない」と言っても、退職の立証が難しくなる

 「解雇通知書は出していない、解雇していない」と反論することはできます。しかし、「解雇していない」が認められたとしても、「では退職したのか」という点を立証できなければ、在籍中ということになります。

 在籍中となれば、出社していない期間の給与を支払い続けなければならなくなるリスクが生じます。「もう出てこいというわけにもいかない」という状況で給与だけ払い続けることになれば、会社の損失は非常に大きくなります。

対策:話がついたと感じた時点で必ず書面を取る
退職について合意ができた場合は、退職合意書を取り交わすか、少なくとも退職届を提出させることが必要です。書面化が難しい場合でも、メールやLINEなど「いつ、何日付で退職する」ということが形として残るものを確保してください。清算条項(「以後、甲乙間に一切の債権債務が存在しないことを確認する」)を入れた退職合意書を作成することで、後の追加請求も防ぐことができます。

ケース②面談での言葉が「解雇」や「不法行為」と評価される

 退職勧奨の面談における発言が、後に深刻なトラブルの原因になることがあります。特に問題になりやすいのは、感情的・断定的な表現と、「解雇」の意思表示と受け取られかねない言葉です。

「もう来なくていい」が解雇と評価されることがある

 たとえば「もう来なくていい」「出勤しなくていい」という言葉は、発言した側にそのつもりがなくても、解雇の意思表示と評価されることがあります。「そんな意味じゃないことくらい分かるはず」という感覚は、残念ながら法的な判断では通用しないことがほとんどです。

 本当は「がっかりした」「期待を裏切られた」という気持ちを伝えたかっただけだとしても、発した言葉そのものが問われます。真意が違っても、言葉が一人歩きしてしまう時代になっています。

 「もう来なくていい」が解雇と評価された場合、解雇の準備ができていない状況でなされた解雇ですから、多くの場合、解雇無効となります。そうなると、出社していない期間の賃金を支払い続けなければならなくなるリスクが生じます。

面談は常に録音されている前提で臨む

 スマートフォンで手軽に録音できる現代では、退職勧奨の面談が無断録音されているケースは珍しくありません。ポケットに入れたスマートフォンで録音していれば、会社側は気づくことすらできません。

 「録音されているかもしれないとは思わなかった」という感覚での発言が、後に決定的な証拠として使われることがあります。録音されたとしても問題のない言葉遣いで臨むことを、面談の大前提としてください。

対策:具体的な事実に基づいた冷静な言葉を選ぶ
感情や評価ではなく、「いつ・どこで・何があったか」という具体的な事実を丁寧に伝えることが、退職勧奨の面談における言葉遣いの基本です。「がっかりした」「信頼を裏切られた」という気持ちを伝えたい場合も、まず具体的な事実を述べてから、それに対する自分の感想として添えるにとどめることをお勧めします。評価的・侮辱的な言葉を一方的にぶつける行為こそ、パワーハラスメントとして問題になりやすいです。

ケース③注意指導・懲戒処分なしにいきなり退職勧奨をして断られた

 退職勧奨で最も深刻な失敗パターンの一つが、事前の注意指導・懲戒処分を十分に行わないまま退職勧奨を行い、断られてしまうケースです。

断られた後に解雇できない状況に陥る

 注意指導・懲戒処分の積み重ねなしに退職勧奨を行い、断られてしまった場合、次の手段として解雇を検討しようとしても、解雇が有効になる根拠が乏しいという状況になります。

 相手の立場からすると、断っても解雇される可能性が低ければ、退職勧奨を断ることにリスクがありません。そのため、まとまる話もまとまらなくなり、まとめようとすれば高額の解決金を払わなければならない状況に追い込まれます。

無理な退職勧奨がパワーハラスメントに発展するリスク

 準備が不足したまま「どうしても辞めさせたい」という焦りが生じると、度を超えた退職勧奨に踏み込んでしまうことがあります。そうなると、退職強要やパワーハラスメントとして不法行為認定されるリスクが高まります。

 また、問題のある社員が職場に残り続けることで、周りの社員の負担が増え、職場環境が悪化し続けるという状況にも陥ります。問題のある社員を追い出そうとして会社が法的責任を問われ、かつ職場環境も悪化するという二重の損失になりかねません。

注意指導・懲戒処分の積み重ねがある場合は話がまとまりやすい

 逆に、日頃の注意指導・懲戒処分をしっかり積み重ねてきた場合は、退職勧奨の場で「いつ・どこで・何があったか」という具体的な事実を説明できます。相手もその事実を踏まえた上で話し合いに臨むことになるため、納得感が得られやすくなります。

 さらに、断られた場合も「有効な解雇になりうる状況」が整っていれば、相手は断ることのリスクを現実的に考えるようになります。その結果、適正な水準の解決金で合意が成立しやすくなります。

対策:退職勧奨の前に注意指導・懲戒処分を積み重ねておく
問題のある言動があった際には、その都度書面で注意指導を行い、改善がなければ懲戒処分を実施します。これを着実に続けることで、退職勧奨の場での説明に説得力が生まれ、断られた場合の選択肢も広がります。退職勧奨を「きっかけが生まれた時に急いでやるもの」と考えず、日頃の対応の積み重ねの中から進めるものとして位置づけることが重要です。

まとめ

  1. 話がついたら必ず退職届または退職合意書を取る。出社しなくなっただけでは退職の事実にならない。清算条項入りの退職合意書が最も確実
  2. 面談は常に録音されている前提で臨む。「もう来なくていい」などの言葉は解雇と評価されることがある。具体的な事実に基づいた冷静な言葉を選ぶ
  3. 注意指導・懲戒処分を積み重ねてから退職勧奨に臨む。準備なしで断られると手詰まりになり、解決金が高騰するか、無理な対応がパワーハラスメントになるリスクがある
SUPERVISOR弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 退職について話し合いをして、本人が「分かりました」と言ったのに退職届を取っていません。後から問題になりますか。

A. 問題になりえます。口頭での合意だけでは、後から「退職したつもりはなかった」「解雇されたと思った」という主張を許す余地が残ります。「分かりました」という言葉だけでは退職の合意の証明としては不十分なことが多いです。まだ書面を取っていない場合は、できるだけ早く退職届の提出か退職合意書の締結を求めてください。状況によっては弁護士への相談をお勧めします。

Q2. 退職勧奨の面談で「もう来なくていい」と言ってしまいました。どうなりますか。

A. 解雇の意思表示と評価されるリスクがあります。ただし、全ての状況で必ずそう評価されるわけではなく、前後の文脈や状況によります。もしこの発言をした後に相手から「解雇された」という主張がなされた場合や、そうなりそうな状況にある場合は、早急に弁護士にご相談ください。今後の対応(発言の補足説明の機会を設けるか、それとも別の対応をするか)についてアドバイスが得られます。

Q3. 注意指導や懲戒処分を一度もしないまま退職勧奨をしてしまい、断られました。今からできることはありますか。

A. 今からでも注意指導・懲戒処分を積み重ねることは有効です。断られた後も問題のある言動が続くのであれば、その都度書面で注意指導し、改善がなければ懲戒処分を実施することで、次の局面に向けた準備が整ってきます。ただし、断られた直後の対応はトラブルになりやすいため、次のステップについては弁護士に相談しながら進めることを強くお勧めします。

Q4. 退職について合意できたので退職合意書を作ろうとしたら、相手が署名を拒否しました。どうすればよいですか。

A. 退職合意書への署名拒否は、「本当は退職に合意していなかったのではないか」という状況を示している可能性があります。この場合、まず退職の合意が本当に成立していたのかを慎重に確認する必要があります。署名を強要することは退職強要のリスクがありますので、このような状況になった場合は弁護士にご相談ください。

最終更新日:2026年5月8日

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