労働問題392 パワハラの定義を教えて下さい。

この記事の要点

「パワハラ」の参考定義として広く用いられるのは、円卓会議ワーキング・グループ報告(平成24年1月30日):①職場内の優位性を背景に、②業務の適正な範囲を超えて、③精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為

3つの要素すべてを満たさなければパワハラとは評価されないのが原則です

「優位性」は上司・部下関係に限らない。先輩・後輩、専門知識・経験、多数・少数という関係も含まれる

「自分はパワハラをする立場にない」という認識が誤りである場合があります

「業務の適正な範囲を超えているかどうか」が会社経営者・管理職にとっての最重要判断ポイント。業務上の指導・注意が直ちにパワハラにはならない

「パワハラと言われたから指導をやめる」という対応は誤りです

01「パワハラ」と定義。円卓会議ワーキング・グループ報告

 「パワハラ」(パワーハラスメント)の参考定義として広く用いられているのは、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」(平成24年1月30日)です。同報告書は、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」としています。

 この定義は、次の3つの要素から構成されています。

パワハラの定義の3要素

要素①(優位性):職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景とした行為であること
要素②(業務範囲超過):業務の適正な範囲を超えた行為であること
要素③(苦痛・環境悪化):精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為であること

 3つの要素すべてを満たさなければパワハラとは評価されないのが原則です。会社経営者・管理職が「パワハラと言われた」という事実だけで直ちに法的責任を負うわけではありません。

02要件①:職場内の優位性を背景とした行為

 「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性」には、上司・部下という職位上の関係が典型例ですが、それだけに限りません。先輩・後輩関係、業務上の専門知識・経験の差、人数の多数・少数(同僚からの集団的な嫌がらせ等)なども、「職場内の優位性」に含まれます。

 会社経営者・管理職として注意すべきは、「自分は上司だからパワハラをする立場にある」という発想ではなく、「自分の立場が相手に対して優位性を持ちうるかどうか」という観点から状況を検討することです。また、「部下からの上司へのパワハラ」も定義上あり得ることを認識しておく必要があります。

03要件②:業務の適正な範囲を超えた行為

 3つの要素の中で、会社経営者・管理職にとって最も重要な判断ポイントが「業務の適正な範囲を超えた行為か否か」です。業務上の指導・注意・叱責・命令・評価が、直ちにパワハラになるわけではありません。

 「業務の適正な範囲」かどうかは、業務上の必要性・相当性・目的・方法等を総合考慮して判断されます。業務上の必要性が認められ、指導の方法が社会通念上相当と認められる範囲内であれば、精神的苦痛を伴ったとしても「業務の適正な範囲を超えた」とは評価されません。

「パワハラと言われたから指導をやめる」という対応の危険性 従業員から「パワハラだ」と言われた事実だけで業務上必要な指導・注意をやめてしまうことは、適切な労務管理ができなくなるという観点から問題があります。重要なのは、業務上の必要性があるかどうか・方法が相当かどうかという実質的な判断です。「相手がパワハラと思えばパワハラ」という発想は誤りです(394番参照)。

04要件③:精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為

 「精神的・身体的苦痛を与える」には、暴言・侮辱・脅迫・人格否定的言動・無視・孤立化等が典型例となります。「職場環境を悪化させる」には、特定の従業員への過大・過小な業務配分、隔離、プライバシーの侵害等が含まれます。

 この要件は、客観的に見て苦痛を与えるような行為かどうかを問うものです。単に相手が「傷ついた」と感じているという主観的な事情だけでは足りず、社会通念上、精神的苦痛や職場環境悪化と評価できる行為があることが必要です。

05会社経営者・管理職にとっての実務的な注意点

 パワハラの定義を正確に理解することは、会社経営者・管理職にとって次の2つの意味を持ちます。

 第一に、必要な業務指導をためらわないための根拠として。業務上必要で方法が相当な指導・注意は、たとえ相手が「パワハラだ」と主張しても、3要素(特に要件②)を満たさない限りパワハラとは評価されません。適正な範囲での業務指導を萎縮させないためにも、定義の正確な理解が必要です。

 第二に、真にパワハラに当たる行為を識別し防止するための基準として。業務上の必要性がない・方法が不相当という場合は、パワハラと評価されるリスクがあります。感情的な叱責・人格否定的言動・業務と無関係な侮辱等は避けるべきです。

06まとめ

 パワハラの参考定義は、円卓会議ワーキング・グループ報告(平成24年1月30日)が示す「職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」です。3つの要素すべてを満たさなければパワハラとは評価されません。特に「業務の適正な範囲を超えているかどうか」が最重要の判断ポイントであり、業務上必要で方法が相当な指導・注意は、相手がパワハラと感じたとしても直ちにパワハラとはなりません。パワハラに関するトラブルへの対処については使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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Q&Aよくある質問

Q1. 「相手がパワハラだと思えばパワハラ」という主張は正しいですか。

A. 正しくありません。パワハラの定義は3つの要素(優位性・業務範囲超過・苦痛または環境悪化)すべてを満たすことが必要です。特に「業務の適正な範囲を超えているかどうか」は客観的に判断されます。相手の主観的な感情だけでパワハラが成立するわけではありません(394番参照)。

Q2. 業務指導の際に部下が泣いてしまいました。これはパワハラになりますか。

A. 泣いたという事実だけでパワハラにはなりません。業務上の必要性があり、指導の方法が社会通念上相当な範囲内であれば、相手が感情的になったとしても「業務の適正な範囲を超えた」とは評価されません。重要なのは、指導の内容・方法・目的が適切であったかどうかです。

最終更新日:2026年5月31日

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