労働問題389 民法536条2項の適用を排除し平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨の労働協約が締結された場合には、当該労働組合の組合員については、平均賃金の60%の休業手当を支払えば足りますか。
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民法536条2項は任意規定であり、特約(労働協約・就業規則・個別合意)で排除することができる。労基法26条(強行規定)とは異なる 388番で解説した「排除できない休業手当(労基法26条)」と「排除できる賃金請求権(民法536条2項)」の区別が重要です |
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民法536条2項の適用を排除し60%の休業手当のみを支払う旨の労働協約が締結された場合、当該労働組合の組合員については、平均賃金の60%の休業手当を支払えば足りる ただし就業規則・個別合意による排除については390番で解説するとおり慎重な対応が必要です |
目次
01本記事の前提。労基法26条と民法536条2項の二層構造
387・388番では、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に平均賃金の60%以上の休業手当(労基法26条)を支払う義務があること、かつその義務は労働協約・就業規則・個別合意によっても排除できないことを解説しました。
しかし、「休業中に支払うべき金銭」は労基法26条の休業手当だけではありません。民法536条2項が適用される場合、使用者は休業中も全額の賃金を支払う義務を負う可能性があります。つまり、60%の休業手当だけでは不足し、100%(または雇用契約上の賃金全額)の支払義務が生じる場面があります。
この点が、389〜391番で扱う問題の核心です。
休業中の賃金に関する二層構造
第1層(労基法26条):強行規定。使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務がある。この義務は労働協約・就業規則・個別合意により排除できない(388番参照)
第2層(民法536条2項):任意規定。使用者(債権者)の帰責事由による労務の受領拒絶がある場合、労働者は反対給付(賃金全額)を請求できる。この請求権は特約(労働協約・就業規則・個別合意)により排除することが可能
02民法536条2項とは何か
民法536条2項は、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」と定めています。労働関係に当てはめると、「使用者の帰責事由によって労働者が労務を提供できなくなった(使用者が受領を拒絶した)場合、労働者は賃金全額の請求権を失わない」という意味になります。
つまり、会社が業績悪化等を理由として従業員を休業させた場合、その休業が「使用者の帰責事由による労務受領の拒絶」と評価されれば、労働者は休業中も賃金全額(100%)を請求できる可能性があります。これが60%の休業手当だけでは足りない理由です。
03民法536条2項は任意規定。特約で排除できる
労基法26条が強行規定(388番参照)であるのとは異なり、民法536条2項は任意規定です。任意規定とは、当事者間の特約(合意)によってその適用を排除することができる規定をいいます。
したがって、会社と労働組合との間で「民法536条2項の適用を排除し、休業中は平均賃金の60%の休業手当のみを支払う」旨の特約を設けることは法的に可能です。この特約が有効に成立している場合、労働者は民法536条2項に基づく賃金全額の請求権を行使することができなくなります。
04労働協約による排除が有効な理由
民法536条2項の適用を排除する特約の手段として最も確実性が高いのが労働協約です。労働協約は、労働組合と使用者(または使用者団体)との間の書面による合意であり(労組法14条)、規範的効力(労組法16条)によって組合員の労働契約に優先して適用されます(369番参照)。
そのため、民法536条2項の適用を排除し60%の休業手当のみを支払う旨の内容が、適法に締結された労働協約に定められた場合、当該労働組合の組合員については、その定めが効力を持ちます。結果として、組合員については平均賃金の60%の休業手当を支払えば足りることになります。
ただし、390番で解説するとおり、就業規則や個別合意による排除については裁判所が慎重に判断する傾向があり、異なる問題が生じます。また、少数組合の組合員や非組合員については労働協約の効力が及ばないため、別途の問題が生じます(391番参照)。
05まとめ。組合員に対しては60%で足りる
民法536条2項は任意規定であり特約で排除することができるため、民法536条2項の適用を排除し平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨の労働協約が締結された場合、当該労働組合の組合員については、平均賃金の60%の休業手当を支払えば足ります。ただし、就業規則や個別合意による排除については裁判所が慎重に判断する傾向があります(390番参照)。少数組合員・非組合員に対しては、労働協約の効力が及ばないため、60%超の賃金が請求され得る問題が残ります(391番参照)。具体的な設計については使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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Q&Aよくある質問
Q1. 「労基法26条の休業手当(60%以上)は排除できないが、民法536条2項は特約で排除できる」という整理で正しいですか。
A. 正しいです。労基法26条は強行規定(388番参照)であり、60%という下限は労働協約・就業規則・個別合意のいずれによっても引き下げることができません。これに対し、民法536条2項は任意規定であり、特約(労働協約等)によって適用を排除することが可能です。
Q2. 民法536条2項が適用されれば、休業中も賃金100%を請求できるということですか。
A. 民法536条2項が適用される場合(使用者の帰責事由による労務受領拒絶がある場合)、労働者は反対給付(賃金)の請求権を失わないため、原則として賃金全額(100%相当)を請求できる可能性があります。特約で排除していない場合、60%の休業手当では不足し、差額を追加請求されるリスクがあります。
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最終更新日:2026年5月31日