労働問題384 諸手当を廃止したり支給を停止したりすることはできますか。

この記事の要点

賃金規程で定められた諸手当を廃止・停止するためには、賃金規程(就業規則)を変更するか附則に定める必要がある。一方的な廃止・停止は認められない

「今月から住宅手当は出しません」という口頭通告だけでは有効な廃止にはなりません

諸手当の廃止・停止は就業規則の不利益変更であり、変更の合理性(労契法10条)が審査される。賃金に関する変更として高度の必要性が問われる(375番参照)

合意を得て変更できれば合理性のリスクは低減します

手当の種類・廃止の理由・代替措置の有無によって合理性判断の結論が変わる。「廃止した手当の一部を別の手当として新設した」等の代償措置は合理性を高める

手当廃止単体ではなく賃金制度全体の再設計として行うことがリスク低減につながります

01諸手当の法的性質。賃金規程に定められた手当の位置づけ

 住宅手当・家族手当・通勤手当・役職手当・資格手当・皆勤手当など、基本給以外に支給される各種手当は、賃金規程(就業規則の一部)に定められることで、労働契約の内容となります。一旦労働契約の内容となった手当は、使用者が一方的に廃止・停止することはできません。

 会社経営者の中には、「会社が決めた手当だから会社がやめてもいい」と考えるケースがありますが、就業規則に定められた時点でその手当は最低基準(労契法12条)として機能します。これを変更・廃止するためには、就業規則(賃金規程)を正式に変更する手続が必要です。

02廃止・停止するためには就業規則変更が必要

 賃金規程で定められた諸手当を廃止または支給を停止するためには、次のいずれかの方法で就業規則(賃金規程)を変更する必要があります。

就業規則変更の2つの方法

方法①(賃金規程本体の変更):賃金規程の当該手当の規定を削除または変更する。正式な就業規則変更手続(過半数代表者の意見聴取・周知等)が必要
方法②(附則による停止):本体規定は維持しつつ、「○○手当については当分の間支給を停止する」旨の附則を設ける。こちらも正式な就業規則変更手続が必要

「口頭通告」や「メールでの連絡」だけでは有効な廃止にならない

「今月から住宅手当は出しません」という口頭の通告や社内メールの通知だけでは、就業規則(賃金規程)は変更されません。変更手続を経ずに支給を停止した場合、停止した期間の手当全額の未払い賃金支払義務が発生します。

03就業規則の不利益変更として合理性が問われる

 諸手当の廃止・停止は、労働者にとっての賃金の減少を意味するため、就業規則の不利益変更に当たります(労契法10条・373番参照)。特に、賃金に関する不利益変更として、高度の必要性に基づいた合理的な内容が求められます(大曲市農協事件・最高裁昭和63年2月16日・375番参照)。

 就業規則変更による廃止・停止は、社員(または過半数代表者・労働組合)の同意を得て行えば合理性のリスクを大きく低減できます。同意を得られない場合の一方的変更は、変更の必要性・不利益の程度・代償措置の有無・説明協議の状況等が厳格に審査されます(373番参照)。

04合理性判断で考慮される手当の種類と廃止理由

 合理性の判断は、廃止しようとする手当の性質と廃止理由の組み合わせによって異なります。

手当の種類・廃止理由 合理性判断の傾向
支給条件の変化に伴う廃止(例:全員が持ち家になり住宅手当支給条件を満たす者がいなくなった) 支給条件の客観的変化を根拠とする場合は合理性が認められやすい
賃金制度全体の再設計の一環としての廃止(例:各種手当を廃止して基本給に統合) 制度全体で見て不利益が少ない・代償措置がある場合は合理性が認められやすい
単純なコスト削減目的での廃止(代償措置なし) 高度の必要性が要求される。「業績が低下した」だけでは不十分な場合が多い

05代償措置による合理性の確保

 諸手当の廃止・停止を行う場合の合理性を高める方法として、代償措置の整備が有効です。廃止した手当の一部を別の名目の手当として新設したり、基本給に組み込んだりすることで、労働者の不利益を緩和する措置です。

 例えば、住宅手当を廃止する代わりに基本給を一定額引き上げるという対応は、代償措置として合理性判断にプラスに働きます。ただし、「廃止した手当額と同額を基本給に加算する」という場合は実質的な変更がなく、不利益変更の問題が生じにくくなります。一方で、廃止額より低い代償しか用意しない場合は、その差額部分については不利益変更として審査されます。いずれにせよ、代償措置の設計は合理性確保の重要な要素です。

06まとめ

 賃金規程で定められた諸手当を廃止または支給を停止するためには、賃金規程(就業規則)を変更するか附則に定める必要があります。口頭通告や社内メールだけでは有効な廃止にはなりません。これは就業規則の不利益変更の問題であり、合理性(高度の必要性)が問われます(373番・375番参照)。合意を得て変更できればリスクは低減します。代償措置の整備・賃金制度全体の再設計という観点からアプローチすることが、合理性確保の有効な方法です。具体的な手続については使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. 賃金規程に「住宅手当は賃貸居住者に支給する」と定めています。持ち家を購入した社員への支給を停止することはできますか。

A. 支給条件(賃貸居住)を満たさなくなった場合は、賃金規程の定めに従った停止となり、就業規則変更の問題ではなく規程の要件充足の問題です。持ち家購入という事実を確認した上で停止する場合は、原則として可能と考えられます。ただし、支給条件が明確に定められているかどうか・確認方法・停止のタイミングについて規程を整備しておくことが重要です。

Q2. 各種手当を廃止して基本給を上げる(賃金の統合)という方法は有効ですか。

A. 廃止した手当の総額と同額を基本給に加算するという場合は、実質的に賃金総額が変わらないため不利益変更の問題が生じにくくなります。ただし、基本給が上がることで時間外労働の割増単価が上昇し、固定残業代の設計に影響が出ることがある点に注意が必要です。廃止額より少ない金額しか基本給に統合しない場合は、差額部分について不利益変更として審査されます。

最終更新日:2026年5月31日

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