労働問題345 時間外・休日・深夜に労働させた場合でも残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払わない旨の就業規則の定めは有効ですか。
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就業規則は労基法に違反してはならない(労基法92条1項)——残業代を支払わない旨の就業規則の定めは、労基法37条に違反するため無効 「就業規則に書けば合法になる」という誤解は法律上通用しません |
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労基法違反の就業規則はその部分に関して無効となり、無効となった部分は労基法が適用される(労契法13条) 「就業規則の定め=合意の根拠」ではなく、就業規則の上位に労基法が存在します |
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就業規則が無効になっても残業代支払義務は消えない——無効となった部分には労基法37条の基準(割増賃金の支払義務)が自動的に適用される 343番・344番で解説した労基法13条の強行的効力と同じ結論です |
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労基法→就業規則→労働契約という上位下位の関係を正しく理解することが、適法な就業規則整備の前提 就業規則で定められる内容には上限(労基法)と下限(就業規則より有利な個別合意)があります |
目次
01就業規則は労基法の下位規範——労基法に違反した定めは無効(労基法92条)
「就業規則に残業代は支払わないと明記すれば問題ない」という誤解を持つ使用者の方がいらっしゃいます。しかし、この考えは法律上の規範の序列を正確に理解していないことから生じる誤りです。
労働法における規範の序列は、法令(労基法等)→労働協約→就業規則→個別労働契約という順序になっています。就業規則は法令の下位に位置するため、就業規則は労基法に違反してはなりません(労基法92条1項)。
残業代(割増賃金)の支払義務は労基法37条で定められた義務です。就業規則でこれに違反する内容(残業代を支払わない旨)を定めることは、法令(労基法)に違反した就業規則の定めとなります。
02就業規則での残業代不払い定めが無効になる仕組み——労基法92条・労契法13条
就業規則が労基法に違反している場合、労基法違反の就業規則はその部分に関しては無効となり(労契法13条)、無効となった部分には労基法が適用されます。
① 就業規則で「残業代は支払わない」と定める
② この定めは労基法37条(残業代支払義務)に違反する→労基法92条1項の適用
③ 労基法違反の就業規則の定めはその部分について無効→労契法13条の適用
④ 無効となった部分(「残業代を支払わない」)には労基法(37条)が適用される
⑤ 結論:就業規則の定めにかかわらず、残業代(割増賃金)の支払義務が生じる
したがって、就業規則で時間外・休日・深夜に労働させた場合であっても労基法37条に定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払わない旨の就業規則の定めは無効となります。
03合意・誓約書・就業規則のいずれも残業代支払義務を免除できない——343〜345番の整理
343番から345番までの3つの記事を通じて、残業代(割増賃金)の支払義務を免除しようとする各種の試みが法律上すべて無効となることが確認されます。
どのような形式で残業代を支払わない旨を定めても、労基法37条の支払義務を排除することはできません。唯一残業代の支払を免れる方法は、330番で解説した適法な枠組みの中での対応(基礎賃金の適正設計・残業時間の抑制・支払済みにする)のみです。
04就業規則で適法に残業代に関する定めを設けるには
就業規則で残業代そのものを「支払わない」と定めることはできませんが、就業規則の中で残業代に関する適法な定めを設けることは可能です。具体的には以下のような定めです。
就業規則で適法に設けられる残業代関連の定め(例)
・残業(時間外・休日・深夜労働)に対しては労基法37条の定める割増率以上の割増賃金を支払う旨の定め
・残業の事前許可制に関する定め(338番参照)
・定額残業代(固定残業代)制度に関する定め——ただし、適法な要件を満たした設計であること(332番参照)
・残業代の計算方法・支払時期に関する定め
・変形労働時間制・裁量労働制等を採用する場合の当該制度に関する定め
05まとめ
就業規則は労基法に違反してはならず(労基法92条1項)、残業代(割増賃金)を支払わない旨の就業規則の定めは、労基法37条(残業代支払義務)に違反するため無効となり(労契法13条)、無効となった部分には労基法が適用されます。就業規則・個別労働契約・誓約書のいずれの形式でも残業代支払義務を免除することはできません(343番〜345番参照)。就業規則の整備については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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Q&Aよくある質問
Q1. 就業規則に「残業代は支払わない」と定めて社員に周知すれば合法になりますか。
A. 合法にはなりません。就業規則は法令(労基法)に違反してはならず(労基法92条1項)、残業代を支払わない旨の定めは労基法37条に違反するため無効となります(労契法13条)。周知させても無効という法的状況は変わりません。無効となった部分には労基法の基準(残業代支払義務)が適用されます。
Q2. 個別労働契約・誓約書・就業規則以外に、残業代支払義務を免除できる方法はありますか。
A. いずれの形式でも残業代支払義務を「免除」する方法はありません。労基法13条・37条・92条の規定は強行法規であり、使用者・労働者のいかなる合意・定めによっても下回ることができません。適法な対応は、残業代支払義務を前提とした上で、①基礎賃金の適正設計による単価抑制・②残業時間の抑制・③発生した残業代を確実に支払済みにするという3方向(331番参照)での取り組みのみです。
Q3. 現在の就業規則に残業代を支払わない旨の定めがある場合、どうすればよいですか。
A. 速やかに就業規則を適法な内容に改定する必要があります。就業規則の変更は労働者に不利益にならない場合は比較的容易ですが(労基法37条どおりに支払う内容への変更は労働者に有利な変更)、その手続きについては使用者側弁護士に相談することをお勧めします。また、過去に残業代を支払っていない期間については、時効(3年)の範囲で未払残業代が発生している可能性があります。
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最終更新日:2026年5月10日