労働問題338 残業の事前許可制を採用すれば、不必要な残業時間の抑制、想定外の残業代(割増賃金)請求対策になりますか。

この記事の要点

残業の事前許可制は、就業規則等に定めるだけでなく、実際に事前許可なく残業することを許さない運用がなされているのであれば、不必要な残業の抑制や残業代請求対策として機能する

「制度があること」だけでなく「実際に機能していること」が必要条件です

就業規則に定めて周知させても、実際には事前許可なく残業しているのを上司が知りつつ放置している職場では、黙示の残業命令(337番参照)により残業代の支払を余儀なくされる

「就業規則に書いた」「周知した」という事実だけでは機能しません

事前許可なく残業している社員を見つけたら、直ちに残業を止めさせて帰らせるか、許可申請するよう促すことが必要

発見した際の上司の即座の対応が事前許可制の実効性を左右します

就業規則を整備しても実態が伴わなければ、不必要な残業時間の抑制にも残業代請求対策にもならない——「制度の整備」と「日々の運用の実態」の両方が必要

制度と実態の乖離が最も危険な状態です

01残業の事前許可制が有効に機能する条件——「制度の整備」だけでは不十分

 残業の事前許可制とは、残業する場合には上司に申告してその決裁を受けなければならない旨を就業規則等に定め、実際に運用する制度です。この制度が有効に機能する条件は、以下の2点の両方を満たすことです。

要件 内容 要件を満たさない場合の帰結
制度 残業する場合には上司の事前許可を要する旨を就業規則等に定め、社員に周知させていること 制度がなければ「無許可残業は禁止」という規範が存在しない
実態 実際に事前許可なく残業することを許さない運用が日々なされていること(上司が発見した場合は即座に止めさせる等) 黙示の残業命令(337番)により残業代の支払義務が生じる

 「制度」と「実態」の両方が備わって初めて、残業の事前許可制は不必要な残業の抑制や残業代請求対策として有効に機能します。

02就業規則への規定・周知だけでは機能しない——実態が伴わない場合の帰結

 就業規則に残業の事前許可制を定めて周知させたとしても、実際には事前許可なく残業しているのを上司が知りつつ放置しているような職場の場合は、以下の2つの問題が生じます。

実態が伴わない場合に生じる2つの問題

問題①「不必要な残業時間の抑制にならない」:就業規則に「事前許可が必要」と書いてあっても、実際には許可なく残業している実態が放置されていれば、不必要な残業は減りません。制度は紙の上だけのものとなります。

問題②「黙示の残業命令で残業代の支払を余儀なくされる」:事前許可なく残業しているのを上司が知りながら放置した場合、337番で解説した「黙示の残業命令」が認定され、残業代の支払義務が生じます。「就業規則に事前許可制があるのに無許可で残業した」という事実は、放置という上司の行為によって黙示の承認と評価されます。

03事前許可なく残業している社員を発見した場合の対応

 残業の事前許可なく残業している社員を見つけたら、直ちに残業を止めさせて帰らせるか、許可申請するよう促すようにしてください。

 具体的には以下のような対応が求められます。

事前許可なく残業している社員への具体的な対応
・「事前許可を取っていない残業はできない。今すぐ帰りなさい」と明確に業務命令を出す
・業務上残業が必要だと社員が主張する場合は、その場で許可申請を行わせ、必要性を確認した上で許可するかどうかを決める
・繰り返し無許可残業を行う社員については、就業規則に基づく懲戒処分(けん責・減給等)を検討する
・「事前許可なく残業していた事実を発見し、即座に帰宅を命じた」という記録を残しておく

04就業規則を整備するだけでは不十分——実態を伴った運用が必要な理由

 就業規則を整備しても、実態が伴わなければ、不必要な残業時間の抑制にも想定外の残業代(割増賃金)請求対策にもなりません。この原則は、残業の事前許可制に限らず、労働時間管理全般に当てはまります。

 326番・327番で解説したとおり、就業規則の規定は法律の強行的効力(労契法13条)の前には無力であり、実態として「管理監督者の要件を満たしていない」「事前許可なく残業しているのを放置している」という状況であれば、就業規則の条項は機能しません。重要なのは「就業規則を整備したこと」ではなく「就業規則に沿った実態が伴っていること」です。

05まとめ

 残業の事前許可制は、就業規則等に定めるだけでなく、実際に事前許可なく残業することを許さない運用がなされているのであれば、不必要な残業の抑制や残業代(割増賃金)請求対策として機能します。しかし、実際には事前許可なく残業しているのを上司が知りつつ放置している職場では、黙示の残業命令(337番参照)により残業代の支払を余儀なくされ、制度の効果が無にきされます。事前許可なく残業している社員を見つけたら直ちに残業を止めさせて帰らせるか、許可申請するよう促すことが必要です。就業規則を整備しても実態が伴わなければ意味がありません。具体的な対応については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業時間の管理・残業の事前許可制の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 残業の事前許可制を採用すれば不必要な残業を抑制できますか。

A. 就業規則等に定めるだけでなく、実際に事前許可なく残業することを許さない運用が日々なされているのであれば、不必要な残業の抑制や残業代請求対策として機能します。しかし、制度を定めても実際には事前許可なく残業しているのを放置している職場では、黙示の残業命令により残業代の支払を余儀なくされます。

Q2. 事前許可なく残業している社員を発見した場合の対応を教えてください。

A. 直ちに残業を止めさせて帰らせるか、許可申請するよう促すことが必要です。具体的には「事前許可を取っていない残業はできない。今すぐ帰りなさい」と明確に業務命令を出します。繰り返し無許可残業を行う社員については就業規則に基づく懲戒処分も検討します。発見・対応の記録を残すことも重要です。

Q3. 就業規則に事前許可制を定めているのに無許可で残業している社員の残業代は支払わなくてよいですか。

A. 上司が無許可残業を認識しながら放置していた場合は、黙示の残業命令が認定されて残業代の支払義務が生じます。就業規則に事前許可制の規定があること自体は、放置という行為を正当化しません。無許可残業を発見した時点で即座に止めさせるか、許可申請をさせる行動が必要です。

Q4. 残業の事前許可制が有効に機能するための2つの条件は何ですか。

A. ①残業する場合には上司の事前許可を要する旨を就業規則等に定め社員に周知させていること(制度の整備)、②実際に事前許可なく残業することを許さない運用が日々なされていること(実態を伴った運用)——の2点です。どちらか一方が欠けても事前許可制は有効に機能しません。

最終更新日:2026年5月10日



労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲