労働問題333 残業時間を抑制するための基本的発想を教えて下さい。

この記事の要点

部下に残業させるかどうかを決めるのは上司の責任であり、上司の管理能力が問われる問題

「残業はやむを得ない」ではなく「残業させるかどうかは上司が決める」という発想の転換が重要です

その日のうちに終わらせる必要がない仕事については、翌日以降の所定労働時間内にさせる対応が必要

「今日中に終わらせなくてよい仕事は今日やらなくてよい」という明確な業務命令を出すことが重要です

残業時間の抑制は、未払残業代リスクの削減(331番②)だけでなく、社員の健康管理・生産性向上・離職防止という観点からも重要

残業抑制は「コスト削減」と「社員の働きやすさ」を両立する経営課題です

口頭で注意しても帰宅しない社員への対応については334番で、仕事の合間のおしゃべり・居眠り等の時間を労働時間から差し引けるかについては335番で解説している

残業抑制の実践的な場面での対応は334番・335番を合わせて参照ください

01残業時間抑制の基本——「残業させるかどうかは上司が決める」という発想

 331番で解説したとおり、未払残業代請求対策の一つとして残業時間を抑制するというアプローチがあります。残業時間を抑制するための基本的発想として、まず重要な認識の転換があります。

 部下に残業させて残業代(割増賃金)を支払うのか、残業させずに帰すのかを決めるのは上司の責任であり、上司の管理能力が問われる問題です。「業務量が多くて残業はやむを得ない」という受け身の発想ではなく、「残業させるかどうかは上司が判断して決める」という能動的な発想へと転換することが、残業時間抑制の出発点となります。

発想の転換——「残業は上司が認める例外」という考え方
× 誤った発想:「業務量が多くて仕方なく残業している→残業代は払わざるを得ない」
○ 正しい発想:「残業させるかどうかは上司が判断する→不必要な残業は上司が止める責任がある」

残業は「業務上の緊急の必要性がある場合に上司が認める例外」という発想に立つことで、残業時間の管理が使用者側のコントロール下に置かれます。

02今日中に終わらせる必要がない仕事は翌日以降の所定労働時間内に

 残業時間を抑制するための具体的な対応として、その日のうちに終わらせる必要がないような仕事については、翌日以降の所定労働時間内にさせるといった対応が必要となります。

 上司は、日々の業務の進捗状況を把握し、どの業務が今日中に完了させる必要があるか(今日の終業時刻までに完了すべき業務)と、どの業務が翌日以降に回してよいか(翌日以降の所定労働時間内に対応してよい業務)を明確に判断し、部下に対して業務指示を与える必要があります。「今日は○○だけ終わらせて帰りなさい。△△は明日やりなさい」という明確な業務指示が残業時間抑制の実践です。

03残業時間抑制が重要な理由——コスト削減以上の意義

 残業時間の抑制は、331番で解説した未払残業代リスクの削減(残業代の「量」を減らすアプローチ)という観点に加えて、以下の観点からも重要です。

残業時間抑制の意義(残業代コスト削減以外)

社員の健康管理:長時間労働は過重労働による健康障害のリスクを高めます。使用者は社員の安全配慮義務(労契法5条)を負っており、過重労働による健康障害が発生した場合は損害賠償責任を問われる可能性があります
生産性の向上:残業が当然視される職場では、社員が「残業すれば許される」という意識となり、勤務時間中の集中力・生産性が低下する傾向があります。残業を抑制することで、所定労働時間内の業務効率が向上することがあります
優秀な人材の確保・離職防止:長時間労働の職場は優秀な人材が敬遠する傾向があります。残業時間の抑制はワークライフバランスの観点から人材確保・離職防止にも貢献します

04上司に必要な管理能力——残業を当然視しない姿勢

 残業時間を抑制するためには、各チームの上司(管理職)が以下のような管理能力を発揮することが求められます。

上司(管理職)に求められる残業管理の実践

・日々の業務量と進捗を把握し、今日中に完了すべき業務と翌日以降に回せる業務を明確に指示する
・終業時刻に近づいたら、部下の業務状況を確認し、不必要な残業を抑制する業務命令を出す
・残業を認める場合は、業務上の必要性を確認してから認める(残業の事前許可制の活用)
・口頭での注意にもかかわらず帰宅しない社員については、334番で解説した物理的な対応を取る

05まとめ

 残業時間を抑制するための基本的発想は、「部下に残業させるかどうかを決めるのは上司の責任であり、上司の管理能力が問われる問題」という認識です。その日のうちに終わらせる必要がない仕事については、翌日以降の所定労働時間内にさせるという対応が必要です。残業時間の抑制は未払残業代リスクの削減だけでなく、社員の健康管理・生産性向上・人材確保という観点からも重要な経営課題です。口頭注意にもかかわらず帰宅しない社員への対応については334番、おしゃべり・居眠り等の時間の取り扱いについては335番をご参照ください。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業時間の管理・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 残業時間を抑制するための基本的発想は何ですか。

A. 「部下に残業させるかどうかを決めるのは上司の責任であり、上司の管理能力が問われる問題」という認識です。「業務量が多くて残業はやむを得ない」という受け身の発想から、「残業させるかどうかは上司が判断して決める」という能動的な発想へと転換することが基本です。その日のうちに終わらせる必要がない仕事については、翌日以降の所定労働時間内にさせる対応が必要です。

Q2. 業務量が多くて残業しなければ仕事が終わらない場合はどうすればよいですか。

A. 業務上真に必要な残業は認めることが必要ですが、その場合も残業の事前許可制を採用して必要性を確認することが重要です。恒常的に残業が必要な状態が続く場合は、業務プロセスの改善・人員体制の見直し・業務量の適切な配分等の根本的な解決策を検討する必要があります。

Q3. 上司が残業を認めなければ、認めなかった残業時間分の残業代は支払わなくてよいですか。

A. 必ずしもそうとは言い切れません。上司が残業を認めなかった(事前許可を与えなかった)としても、①上司がその残業を認識・黙認していた場合、②業務量・職場の実態から残業が必要であることが明らかだった場合等は、残業代の支払義務が生じることがあります。事前許可のない残業を厳格に管理・対応するためには、334番で解説した物理的な対応も必要です。

Q4. 残業抑制を上司の評価項目に含めることはできますか。

A. 可能です。「部下の残業時間管理・残業抑制」を管理職の評価項目として明示し、残業時間の多い部署の管理職の評価を下げる等の対応は、残業抑制の文化を醸成する上で有効な方法です。残業抑制を上司の責任として位置づけることで、組織全体の意識改革につながります。

最終更新日:2026年5月10日



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