労働問題337 残業するように指示していないのに残業した時間についてまで労働時間として取り扱い、残業代(割増賃金)を支払う必要がありますか。
|
✓
|
明示の残業命令を出していなくても、部下が残業していることを上司が知りながら放置していた場合は、「黙示の残業命令があった」と認定されるのが通常 「指示していないから支払わなくてよい」という考えは、放置という事実がある限り通用しません |
|
✓
|
「残業していることは知っていたが、何時まで残業したかは分からない」というケースでも、残業しているという事実を上司が認識しつつ放置していることが多い——「残業していた時間帯」について黙示の残業命令が認定されうる 「正確な残業時間を知らなかった」という主張が通るとは限りません |
|
✓
|
部下が残業していることに気付いたら、上司は必ず「①残業を止めさせて帰宅させる」か「②残業代の支払を覚悟の上で仕事を続けさせる」かのどちらかを選択する必要がある 「残業に気付いたが何もしなかった」という選択肢は法律上存在しません |
|
✓
|
黙示の残業命令を防ぐためには、残業の事前許可制の採用と実態を伴った運用が重要——就業規則に定めるだけでなく実際に許可なく残業させない実践が必要(338番参照) 制度の整備と日々の運用の実態の両方が必要です |
目次
01「指示していない残業は支払わなくてよい」が誤りである理由——黙示の残業命令
「残業するように指示していないのに社員が勝手に残業している。指示していないのだから残業代は支払わなくてよい」と考える使用者の方もいらっしゃいます。しかし、この考えは法律上誤っています。
明示の残業命令を出していなくても、部下が残業していることを上司が知りながら放置していた場合は、残業していることが想定することができる時間帯については、黙示の残業命令があったと認定されるのが通常です。
使用者(または管理権を持つ上司)が、明示的に「残業せよ」と命令していなくても、部下が残業していることを知りながらこれを放置・容認した場合に、その残業を事実上承認したと評価されることです。「何も言わなかった=暗黙の了解」として残業命令があったと認定されます。
黙示の残業命令があったと認定された場合、その残業時間に対して割増賃金(残業代)の支払義務が生じます。
02「残業していることは知っていたが何時まで残業したかは不明」というケース
具体的に何時まで残業していたのかは分からなくても、残業していること自体は上司が認識しつつ放置していることが多い印象です。このような場合、部下が「残業していることを上司は知っていた(放置していた)」と主張し、残業していたことが想定できる時間帯(例えば、翌日の朝等)まで黙示の残業命令があったと認定される可能性があります。
「何時まで残業していたか正確には把握していなかった」という主張が常に通るとは限りません。残業していたこと自体を上司が知っていた以上、「残業が想定できる時間帯」については黙示の残業命令があったと評価されうるからです。
03部下の残業に気付いたら上司がすべき2択
部下が残業していることに気付いたら、上司は以下のどちらかを選択する必要があります。
「残業に気付いたが何もしなかった(放置した)」という対応は、黙示の残業命令を認定されるという法的リスクを生じさせます。①②のどちらかを明確に選択し、行動することが求められます。
04黙示の残業命令を防ぐための実践的な対応
黙示の残業命令を防ぎ、想定外の残業代請求リスを避けるためには、以下のような実践的な対応が必要です。
黙示の残業命令を防ぐための実践
・終業時刻後も部下が職場に残っていないか積極的に確認する(放置をしないという意識)
・部下の残業を認識した場合は、直ちに残業を止めるよう明確に業務命令を出す(「今すぐ仕事を止めて帰宅しなさい」という明確な指示)
・残業の事前許可制を就業規則に定め(338番参照)、事前許可のない残業を見つけたら即座に止めさせる実態を徹底する
・上司が帰宅する前に部下の退勤状況を確認し、必要に応じて帰宅を促す
05まとめ
明示の残業命令を出していなくても、部下が残業していることを上司が知りながら放置していた場合は、黙示の残業命令があったと認定されるのが通常であり、残業代(割増賃金)の支払義務が生じます。部下が残業していることに気付いたら、残業を止めさせて帰宅させるか、残業代の支払を覚悟の上で仕事を続けさせるか、どちらかを選択する必要があります。「放置する」という選択肢は法律上存在しません。黙示の残業命令を防ぐためには、残業の事前許可制の採用と実態を伴った運用(338番)が重要です。具体的な対応については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業時間の管理・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。
Q&Aよくある質問
Q1. 残業するよう指示していないのに残業した時間についても残業代を支払う必要がありますか。
A. 部下の残業を上司が知りながら放置していた場合は、黙示の残業命令があったと認定されるのが通常であり、残業代の支払義務が生じます。「指示していないから支払わなくてよい」という主張は、上司が残業を認識して放置していたという事実がある限り通用しません。
Q2. 「黙示の残業命令」とはどういう意味ですか。
A. 使用者(または管理権を持つ上司)が、明示的に「残業せよ」と命令していなくても、部下が残業していることを知りながらこれを放置・容認した場合に、その残業を事実上承認したと評価されることです。「何も言わなかった=暗黙の了解」として残業命令があったと認定されます。黙示の残業命令があったと認定された場合、その残業時間に対して割増賃金の支払義務が生じます。
Q3. 部下が残業していることに気付いたら上司はどうすればよいですか。
A. 直ちに①残業を止めさせて帰宅させるか(334番参照)、②残業代の支払を覚悟の上で業務上必要な残業として認め継続させるか、のどちらかを選択する必要があります。「残業に気付いたが何もしなかった(放置した)」という対応は、黙示の残業命令を認定される法的リスクを生じさせます。
Q4. 上司が職場を離れた後に社員が独自に残業した場合はどうなりますか。
A. 上司が職場を離れた後に社員が独自に残業した場合でも、①上司がその後の残業を容認するような行動・言動をとっていた場合、②業務量等から残業が必要であることが客観的に明らかだった場合等は、残業代の支払義務が生じる可能性があります。残業の事前許可制を採用し(338番)、事前許可のない残業を発見した場合は速やかに止めさせる運用を徹底することが重要です。
関連ページ
最終更新日:2026年5月10日