労働問題329 管理職にも残業代(時間外・休日割増賃金)を支払う場合の賃金原資は、どこから調達すればよろしいでしょうか。
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管理職にも残業代を支払う場合の賃金原資は、基本給や諸手当、場合によっては賞与を抑制することによって調達できる 人件費総額を増やさずに残業代を適正に支払う賃金制度を構築することが可能です |
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具体例:残業代込みで月35万円が適正な管理職の場合——「基本給25万円・管理職手当10万円で管理監督者扱い」ではなく、「基本給25万円・管理職手当5万円+残業代(月5万円程度見込み)を時間数に応じて支給」という制度設計 管理職手当を10万円から5万円に引き下げることで残業代の原資を捻出します |
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この制度設計のメリットは、①残業代請求リスクの解消、②労働時間把握による過重労働防止、③残業時間が多いほど本人の受取額も増えるという透明性の確保 管理職が自発的に労働時間の効率化に取り組む動機づけにもなります |
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残業代が全く発生しない月は受取額が少なく、残業が多い月は受取額が多くなるため、賃金原資の合計は概ね適正な範囲に収まる設計が可能 残業が見込まれる繁忙月・閑散月のバランスを考慮した設計が重要です |
目次
01賃金原資の調達方法——基本給・諸手当・賞与の抑制
328番でお勧めしたとおり、大部分の管理職については管理監督者としては取り扱わずに残業代(時間外・休日割増賃金)を満額支給することが管理職からの残業代請求リスクを予防する有効な方法です。しかし「残業代を支払うと人件費が増えてしまう」という懸念を持つ経営者の方も多いと思います。
管理職にも残業代(時間外・休日割増賃金)を支払う場合の賃金原資は、基本給や諸手当、場合によっては賞与を抑制することによって調達することができます。つまり、「残業代を支払うから人件費総額が増える」のではなく、「残業代として支払う分の原資を基本給・諸手当・賞与から捻出することで、人件費総額は概ね同水準に維持できる」という考え方です。
02具体的な賃金制度設計例——月35万円の管理職のケース
具体的な賃金制度設計例を以下に示します。適正な対価が残業代込みで月額35万円の管理職のケースで考えます。
管理職手当の引き下げによる原資の捻出
このケースでは、管理職手当を10万円から5万円に引き下げることで月5万円の原資を確保し、その原資から残業代(時間外・休日割増賃金)を支給する制度を構築しています。管理職手当の水準は実際の残業が見込まれる時間数(発生する残業代)に合わせて調整する必要があります。
月5万円の残業代というのはあくまで目安の例であり、実際の残業時間数に基づいて適正な金額を見積もることが重要です。月の残業が多い月は残業代がかかりますが、残業が少ない月は残業代も少なくなるため、年間の人件費合計は想定の範囲内に収まる設計を行います。
03この制度設計のメリットと注意点
メリット
①残業代請求リスクの根本的な解消:残業代を適正に支払うことで、管理職から「過去の残業代を支払え」と請求されるリスがなくなります
②労働時間把握による過重労働防止:残業代を支払うためには管理職の労働時間を把握する必要があるため、過重労働の実態把握と防止につながります
③透明性の確保・管理職本人の納得感:「残業した分だけ受取額が増える」という透明性のある仕組みとなり、管理職本人の納得感が向上します
④労働時間効率化のインセンティブ:固定の管理職手当より残業代の方が低い時間単価になるため、管理職が自発的に効率的な働き方を模索する動機づけになります
注意点
・管理職の労働時間を適正に把握・記録する仕組みを整備する必要がある
・残業が実際に発生する場合は、適正な割増率(時間外:25%以上、法定休日:35%以上)で計算する必要がある
・管理職手当の引き下げは賃金の不利益変更に当たる可能性があるため、賃金制度の変更に際しては適切な手続きが必要(04節参照)
04賃金制度変更の際の注意点
現在「管理監督者として扱い残業代不支給・管理職手当10万円」という制度を運用している場合に、「管理監督者扱いをやめて残業代を支払う・管理職手当5万円」という制度に変更する際には、管理職手当の引き下げが不利益変更に当たる可能性があります。
賃金(固定の管理職手当)の引き下げは不利益変更として、労働者の個別の同意が必要となるのが原則です(労契法8条・9条)。制度変更に際しては、管理職本人との個別交渉・同意取得を行うか、就業規則の変更手続きを踏みながら、使用者側弁護士・会社側弁護士のサポートの下で適切に進めることをお勧めします。
05まとめ
管理職にも残業代(時間外・休日割増賃金)を支払う場合の賃金原資は、基本給・諸手当(管理職手当等)・賞与を抑制することで調達できます。適正な対価が残業代込みで月35万円の管理職については、「基本給25万円・管理職手当10万円で管理監督者扱い(残業代不支給)」ではなく、「基本給25万円・管理職手当5万円(固定)+残業代(時間外・休日労働時間数に応じて支給)」という制度を構築することで、残業代請求リスクを解消しながら人件費総額を概ね同水準に維持することができます。賃金制度の変更に際しては不利益変更の問題もあるため、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。管理職の賃金制度設計・残業代トラブルの予防・就業規則の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。
Q&Aよくある質問
Q1. 管理職に残業代を支払うと人件費が増えてしまいますか。
A. 適切な賃金制度の設計により、人件費総額を増やさずに残業代を支払う制度を構築することが可能です。基本給・管理職手当等の固定部分を調整して残業代の原資を捻出します。例えば月35万円が適正な管理職であれば、管理職手当を10万円→5万円に引き下げて残業代の原資を確保し、実際の残業時間数に応じて残業代を支給することで、合計の支給額は概ね35万円前後に収まります。
Q2. 管理職手当を引き下げることは問題ありますか。
A. 固定の管理職手当の引き下げは賃金の不利益変更に当たる可能性があります。現在の制度から変更する場合は、管理職本人との個別交渉・同意取得を行うか、就業規則の変更手続きを踏みながら適切に進める必要があります。変更前には使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。なお、「管理職手当は引き下げるが、その代わりに残業代を支払うようになる」という変更は、全体として管理職にとって不利益か有利かの評価が複雑になるため、特に慎重な対応が必要です。
Q3. 残業が多い月と少ない月で管理職の受取額に差が出ますが問題ですか。
A. 月によって残業代の金額が変動するため受取額に差が出ますが、これは適正な賃金制度の特性であり法律上の問題はありません。むしろ残業した分だけ受取額が増えるという透明性のある仕組みとして、管理職本人の納得感にもつながります。ただし、残業が極端に少ない月に受取額が著しく低くなる場合は、固定部分(基本給・管理職手当)の水準の見直しを検討することも一案です。
Q4. 管理職の残業時間を把握する必要がありますか。
A. 管理職に残業代を支払うためには、管理職の実際の労働時間(残業時間)を適正に把握・記録する仕組みを整備することが必要です。タイムカード・勤怠管理システム等で始業・終業時刻を記録し、時間外労働時間を正確に計算した上で残業代を算出します。なお、管理職の労働時間把握は過重労働防止(健康管理)の観点からも重要であり、令和元年の労基法改正(働き方改革)により管理監督者も含め全社員の労働時間把握が使用者の義務とされています。
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最終更新日:2026年5月10日