労働問題293 使用者の具体的な指揮監督が及んでいるためにみなし労働時間制の適用が否定される具体例


この記事の要点

昭和63年1月1日基発第1号は、みなし労働時間制の適用が否定される3つの具体例を示している

①グループ内に管理者がいる場合 ②無線・ポケットベル等による随時指示 ③事業場での具体的指示後に業務を行い戻る場合

②の「無線やポケットベル等」は現代のスマートフォン・携帯電話でも同様に解釈される——随時使用者の指示を受けながら労働している場合は適用否定

「業務スマートフォンを持たせているから」だけでなく、実際に随時指示を出しているかどうかが重要です

③の「訪問先・帰社時刻等の具体的指示後の業務」は、外回り営業で訪問先を細かく管理している場合も該当し得る

「訪問先リストを会社が作成して渡している」などの運用はこのパターンに当たる可能性があります

みなし労働時間制の適用が否定されると、実際の労働時間を基準として残業代が計算されるリスがある

自社の運用が適用否定のパターンに当たらないかを確認することが重要です

01みなし労働時間制の適用が否定される場合の概要(昭和63年基発第1号)

 290番・291番で解説したとおり、事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)の適用要件として、②「労働時間を算定し難いとき」という要件があります。「使用者の具体的な指揮監督が及んでいる」場合は、この要件を満たさないため、みなし労働時間制の適用が否定されます。

 昭和63年1月1日基発第1号(以下「基発第1号」といいます)は、事業場外労働のみなし労働時間制について以下のように述べており、適用が否定される具体例を示しています。

昭和63年1月1日基発第1号(抜粋)

事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって、次の場合のように、事業場外で業務に従事する場合にあっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はないものであること。

 基発第1号は具体例として3つのケースを示しており、会社の実務運用が以下のいずれかに当たる場合はみなし労働時間制の適用が否定されるリスがあります。

02具体例①——グループ内に労働時間の管理をする者がいる場合

 「何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合」には、みなし労働時間制の適用はないとされています。

 例えば、複数の営業スタッフが一緒に顧客を回る場合や、複数の作業員が現場に出向く場合で、そのグループのリーダー・班長・管理者が各メンバーの行動・時間を管理している場合がこれに当たります。グループ内に管理者がいれば、使用者はその管理者を通じて間接的に各メンバーの労働時間を管理・把握することができるため、「労働時間を算定し難いとき」の要件を満たさないと判断されます。

具体例①が適用される場面の例
・複数の外回り営業スタッフが同行し、うちの1人がリーダーとして労働時間を管理している
・工事現場に複数の作業員が出向き、現場監督が各作業員の始業・終業・休憩時間を管理している
・取材チームで外出し、チームリーダーが各メンバーの行動・時間を管理している

03具体例②——無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合

 「事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合」には、みなし労働時間制の適用はないとされています。

 基発第1号が作成された昭和63年当時は「無線やポケットベル」が例示されていますが、現代においては、スマートフォン・携帯電話・チャットツール等による随時の連絡・指示が同様に解釈されます。使用者が随時スマートフォン等で業務上の指示を出している場合は、「使用者の具体的な指揮監督が及んでいる」と評価され、みなし労働時間制の適用が否定される可能性があります。

スマートフォン時代における実務上の注意点

スマートフォンを持たせているだけで直ちにみなし労働時間制の適用が否定されるわけではありませんが、使用者が随時連絡・指示を出している場合は具体例②に当たる可能性があります。

適用否定のリスが高い運用:上司から頻繁に電話・メッセージで業務指示を出し、労働者がその都度指示に従って行動している

適用否定のリスが低い運用:スマートフォンを持たせているが、緊急時の連絡手段として使用するのみで、日常的に業務指示を出していない

04具体例③——事業場での具体的指示後に業務を行い事業場に戻る場合

 「事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合」には、みなし労働時間制の適用はないとされています。

 外回り営業の場合、労働者が朝に会社に出勤し、その日の訪問先リスト・帰社時刻・業務内容について詳細な指示を受けた上で外出し、指示どおりに業務を行って帰社する、という運用がこれに当たります。このような場合は、使用者が事前に業務内容を具体的に指示・管理しているため、「労働時間を算定し難いとき」とはいえないと判断されます。

具体例③に当たる可能性がある運用の例
・朝の朝礼でその日の訪問先・順番・目標を細かく指示している
・会社が作成した訪問先リストを渡し、そのとおりに訪問させている
・帰社時刻を具体的に指定し、指定時刻に戻るよう命じている
・業務の始め・終わりに事業場へ立ち寄ることを義務付けている

 ただし、外回り営業に際して朝の簡単な確認・情報共有を行う程度であれば、「訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示」に当たらないケースもあります。指示の具体性・詳細さの程度が重要なポイントです。

05まとめ

 昭和63年1月1日基発第1号は、事業場外で業務に従事する場合であっても使用者の具体的な指揮監督が及んでいるためにみなし労働時間制の適用が否定される具体例として、①グループ内に労働時間の管理をする者がいる場合、②無線・ポケットベル等(現代ではスマートフォン等)によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合、③事業場での具体的指示後に指示どおりに業務を行い事業場に戻る場合——の3つを示しています。

 自社の外回り営業等の運用が上記のいずれかに当たる場合、みなし労働時間制の適用が否定され、実際の労働時間を基準として残業代が計算されるリスがあります。みなし労働時間制の要件確認・就業規則の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。みなし労働時間制の要件確認・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. みなし労働時間制の適用が否定される具体例にはどのようなものがありますか。

A. 昭和63年1月1日基発第1号は、①グループ内に労働時間の管理をする者がいる場合、②無線・ポケットベル等(現代ではスマートフォン等)によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合、③事業場で訪問先・帰社時刻等の具体的指示を受けた後に指示どおりに業務を行い事業場に戻る場合——の3つを挙げています。

Q2. スマートフォンで連絡をしながら外回りをさせている場合は具体例②に当たりますか。

A. スマートフォンを持たせているだけでは直ちに当たりませんが、使用者が随時スマートフォンで業務上の指示を出している場合は、具体例②(無線・ポケットベル等による随時指示)に当たる可能性があります。実際に随時指示を出しているかどうかが重要なポイントです。

Q3. 訪問先や帰社時刻を会社で指定して外回りをさせている場合は具体例③に当たりますか。

A. 訪問先・順番・帰社時刻を具体的に指示した上で外回りをさせ、指示どおりに行動させている場合は、具体例③に当たる可能性があります。一方、朝の簡単な情報共有や業務概要の確認程度では、「当日の業務の具体的指示」に当たらないケースもあります。指示の具体性・詳細さの程度が重要です。

Q4. みなし労働時間制の適用が否定されると残業代はどうなりますか。

A. みなし労働時間制の適用が否定されると、実際の労働時間を基準として残業代が計算されることになります。「みなし労働時間制を採用しているから残業代は不要」という運用を続けていると、後になって実際の労働時間(例えばスマートフォンの通話記録・メール・日報等から立証される時間)を基準とした多額の残業代請求を受けるリスがあります。

最終更新日:2026年5月10日



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