労働問題274 36協定を届け出れば時間外・休日労働を命じることができますか
|
✓
|
36協定の締結・届出がなければ、原則として時間外・休日労働を命じることができない 36協定の締結・届出は時間外・休日労働をさせるための「必要条件」です(271番・272番参照) |
|
✓
|
しかし、36協定の締結・届出だけで直ちに時間外・休日労働を命じることができるわけではなく、労働契約上の根拠も必要 36協定は「刑事罰を免れるための要件」であり、「残業命令権の根拠」そのものではありません |
|
✓
|
就業規則や労働条件通知書に時間外・休日労働を命じることがある旨規定されているのが通常 これらが「労働契約上の根拠」となり、使用者が具体的な残業命令を発する権限の源泉となります |
|
✓
|
最近では残業代を稼ぎたい労働者が多く、残業命令権限の有無が問題となる事案はあまり多くない ただし、就業規則への記載がない場合などは問題が生じる可能性があります |
目次
0136協定の締結・届出と時間外・休日労働命令の関係
36協定の締結・届出がなされていない場合には、原則として時間外・休日労働(残業)を命じることができません。これは271番・272番で解説したとおり、36協定の締結・届出が労基法32条・35条違反の刑事罰を免れるための要件だからです。
しかし、36協定の締結・届出をすれば、直ちに時間外・休日労働(残業)を命じることができるというわけではありません。時間外・休日労働(残業)を命じることができるというためには、36協定の締結・届出とは別に、労働契約上の根拠が必要となります。
①36協定の締結・届出(刑事法上の要件):労基法32条・35条違反の刑事罰を免れるための条件。これがなければ時間外・休日労働をさせること自体が犯罪となる。
②労働契約上の根拠(民事法上の要件):使用者が具体的に残業を命じる権限の根拠。就業規則・労働条件通知書等への記載がこれに当たる。
①だけでは②は満たされません。両方が揃って初めて、適法に時間外・休日労働を命じることができます。
02労働契約上の根拠が必要——就業規則・労働条件通知書への記載
就業規則や労働条件通知書に時間外・休日労働(残業)を命じることがある旨規定されているのが通常ですし、最近では時間外・休日労働を行って残業代(割増賃金)を稼ぎたいという希望を持った労働者が多いというのが実情ですので、残業命令権限の有無が問題となる事案はあまり多くはありません。
一般的に、就業規則には「業務上の必要がある場合には、法定の手続きを経て時間外・休日労働を命じることがある」などの規定が設けられており、この規定が労働契約の内容となることで、使用者が具体的な残業命令を発する根拠が生まれます。
03残業命令権限の有無が問題となる場面
実務上、残業命令権限の有無が問題となりやすいのは以下のような場面です。
就業規則が整備されていない小規模事業場
常時10人未満の労働者しか使用しない事業場では就業規則の作成義務がないため(労基法89条)、就業規則が存在しない場合があります。このような場合、残業を命じる根拠が就業規則にないため、雇用契約書・労働条件通知書等に個別に残業義務を規定しておくことが重要です。
残業を拒否する社員への対応
業務命令として発した残業命令を社員が拒否した場合、その残業命令が有効かどうかが問題となります。残業命令が有効であるためには、36協定の締結・届出に加えて、就業規則等に基づく残業命令の根拠があることが必要です。就業規則に残業を命じることがある旨の規定がない場合は、残業命令の有効性が争われる可能性があります。
残業の強制と労働問題
近年では、残業代を稼ぎたいという希望を持つ労働者が多いため、残業命令権限の有無が実際の紛争になることはあまり多くありません。しかし、過重労働問題やワークライフバランスを重視して残業を拒否しようとする社員が増えている職場では、残業命令権限の根拠を明確にしておくことが重要な場面もあります。
04まとめ
36協定の締結・届出がなければ時間外・休日労働を命じることができませんが、36協定の締結・届出だけで直ちに残業を命じることができるわけではなく、就業規則や労働条件通知書等の労働契約上の根拠も必要です。就業規則や労働条件通知書には、時間外・休日労働を命じることがある旨を適切に規定しておくことが重要です。
最近では残業代を稼ぎたい労働者が多いため残業命令権限が問題となる事案はあまり多くありませんが、就業規則の整備がない小規模事業場や残業を拒否する社員への対応が必要な場面では重要な問題となります。就業規則の整備・36協定の設計については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。36協定の整備・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 36協定を締結して届け出れば、社員に残業を命じることができますか。
A. 36協定の締結・届出だけでは直ちに残業を命じることができません。36協定は刑事罰を免れるための要件ですが、残業命令の根拠は別途、就業規則や労働条件通知書等の労働契約上の規定が必要です。両方が揃って初めて、適法に時間外・休日労働を命じることができます。
Q2. 就業規則がない場合でも残業を命じることができますか。
A. 就業規則がない場合は、雇用契約書・労働条件通知書等に個別に時間外・休日労働を命じることがある旨を規定することで、残業命令の根拠とすることができます。常時10人未満の労働者しか使用しない事業場には就業規則の作成義務がないため(労基法89条)、小規模事業場では個別の雇用契約書での対応が特に重要です。
Q3. 残業命令権限が問題となるのはどのような場合ですか。
A. 主に、就業規則に残業命令の規定がない場合、または社員が残業命令を拒否した場合に問題となります。残業命令の有効性が争われると、就業規則等に根拠規定があるかどうかが重要な争点となります。最近では残業代を稼ぎたい労働者も多く、この問題が実際に紛争になるケースはあまり多くありませんが、就業規則への明記は重要です。
Q4. 就業規則に時間外労働の規定がない場合のリスクは何ですか。
A. 就業規則に残業命令の根拠規定がない場合、社員が残業を拒否しても業務命令違反として懲戒処分等を行うことが難しくなる可能性があります。また、残業を事実上強制した場合に残業代請求との関係でトラブルが生じやすくなります。就業規則の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。
関連ページ
最終更新日:2026年5月10日