労働問題22 懲戒解雇事由に該当することを理由として普通解雇することはできますか?
目次
懲戒解雇事由への該当は普通解雇の根拠となり得ます。ただし有効性の審査は別途受け、懲戒手続と退職金の扱いにも注意が必要です。
懲戒解雇事由に該当する事実は、普通解雇の客観的合理的理由の根拠として機能します。多くのケースで懲戒解雇事由を理由とした普通解雇が可能ですが、解雇権濫用法理による審査・懲戒手続の要否・退職金の取り扱いという3点について、事前に慎重に検討することが必要です。
■ 懲戒解雇事由への該当は普通解雇の客観的合理的理由の根拠となる
懲戒解雇事由に該当する事実は、それより軽い処分である普通解雇の根拠にもなり得るというのが一般的な解釈です。
■ 普通解雇の有効性は解雇権濫用法理による別途の審査を受ける
懲戒解雇事由への該当で普通解雇が自動的に有効になるわけではありません。事実の重大性・悪質性・改善可能性などを踏まえた社会通念上の相当性が必要です。
■ 懲戒手続の要否と退職金の取り扱いに注意する
懲戒手続を経ずに普通解雇した場合の評価リスクと、普通解雇選択による退職金不支給規定の不適用という2点を、解雇前に必ず確認する必要があります。
1. 懲戒解雇事由に該当する事実は普通解雇事由にもなり得る
懲戒解雇事由と普通解雇事由の関係
懲戒解雇事由と普通解雇事由は、就業規則上は別々に規定されることが一般的です。しかし、懲戒解雇事由に該当する事実(例えば、重大な業務命令違反・不正行為・長期無断欠勤など)は、同時に普通解雇の客観的合理的理由にも該当すると考えるのが一般的な解釈です。
懲戒解雇は普通解雇よりも重い処分です。重い処分の根拠となる事由であれば、それより軽い処分である普通解雇の根拠にもなり得るという論理から、懲戒解雇事由への該当は普通解雇事由の存在を支える根拠として機能します。
前記事(労働問題21)との関係
この論点は、前記事(労働問題21「懲戒解雇事由があっても普通解雇を選択できるか」)と密接に関連しています。前記事は「どちらの解雇形式を選ぶか」という選択の問題であったのに対し、本記事は「懲戒解雇事由という事実を普通解雇の根拠として使えるか」という根拠の問題です。普通解雇を選択でき、かつその根拠として懲戒解雇事由に該当する事実を用いることができる、という2つの論点が組み合わさって、初めて実務上の対応が完結します。
2. 懲戒解雇事由を理由とした普通解雇でも有効要件の審査は受ける
解雇権濫用法理による審査:2つの要件
懲戒解雇事由に該当することを理由として普通解雇する場合でも、普通解雇の有効性は解雇権濫用法理(労働契約法16条)に基づく審査を受けます。懲戒解雇事由への該当が確認できても、次の2つの要件を満たさない限り、普通解雇は無効となる可能性があります。
①客観的に合理的な理由があること:懲戒解雇事由に該当するという事実は、この要件を満たす根拠となり得ます。しかし、その事実の内容・程度・状況によっては、普通解雇の合理的理由として不十分と判断されるケースもあります。
②社会通念上相当であること:解雇という手段が当該事案において相当と評価されることが必要です。例えば、懲戒解雇事由に形式的には該当するものの、その程度が軽微で改善可能性が高い場合などは、普通解雇の社会通念上の相当性が認められないことがあります。
懲戒解雇事由の重大性・悪質性が有効性を左右する
実務上、懲戒解雇事由に該当する事実の内容・重大性・悪質性が、普通解雇の有効性判断においても重要な要素となります。横領・暴行・重大な情報漏えいなど、それ自体として労働関係の継続を期待しがたいほど重大な事実であれば、普通解雇の社会通念上の相当性も認められやすくなります。一方、比較的軽微な非違行為に過ぎない場合は、普通解雇として社会通念上相当と認められないこともあります。
✕ よくある経営者の誤解
「懲戒解雇事由に該当するから、普通解雇も当然有効になる」→ 誤りです。
懲戒解雇事由への該当は客観的合理的理由の根拠にはなりますが、解雇権濫用法理(労働契約法16条)による審査は別途受けます。事実が軽微で改善可能性がある場合、普通解雇の社会通念上の相当性が認められないこともあります。
「懲戒解雇事由を理由に普通解雇したので、退職金を払わなくてよい」→ 誤りです。
就業規則・退職金規程の懲戒解雇時の不支給・減額規定は、「懲戒解雇」を選択した場合にのみ適用されます。普通解雇を選択した場合、原則として退職金を支払う必要があります。
懲戒解雇事由に該当する事案で普通解雇を検討している場合、有効性の判断・手続の選択・退職金の取り扱いについて、早めのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
3. 実務上の注意点:この類型特有のリスク
懲戒手続を経ていないことへの評価リスク
懲戒解雇事由に該当する事実があるにもかかわらず、あえて懲戒手続(弁明の機会の付与・懲戒委員会など)を経ずに普通解雇を選択した場合、「本来は懲戒解雇をすべき事案であったのに、手続を省略して普通解雇を選んだ」という評価を受けるリスクがあります。
弁護士として会社側の解雇事案に関わる中で、懲戒手続を経ずに普通解雇したことが手続の相当性の観点から問題視されたケースを経験しています。懲戒解雇事由に該当する事実を理由として普通解雇する場合、懲戒手続に準じた手順(本人への事実確認・弁明の機会の付与など)を踏むことが、後のトラブルを防ぐ上で有効です。
退職金の取り扱い:普通解雇選択で不支給規定は使えない
懲戒解雇事由に該当する事実があるにもかかわらず普通解雇を選択した場合、就業規則・退職金規程上の懲戒解雇時の退職金不支給・減額規定を適用することはできません。普通解雇を選択する以上、原則として退職金は支払う必要があります。この点を事前に十分考慮した上で、解雇形式を選択することが重要です。
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
懲戒解雇事由を理由とした普通解雇をめぐるご相談でよく見られるのは、次のようなパターンです。
・「横領の事実があるので懲戒解雇事由に該当すると思い普通解雇したが、退職金の不支給ができず、後から多額の退職金請求を受けた」
・「懲戒解雇事由があるから普通解雇も当然有効と思い、弁明の機会も与えずに解雇したところ、手続上の問題を指摘されて解雇無効の主張を受けた」
いずれも、解雇形式の選択前に弁護士への相談があれば防げたケースです。
4. まとめ
懲戒解雇事由に該当することを理由として普通解雇を行うことは、多くの場合可能です。懲戒解雇事由への該当は、普通解雇の客観的合理的理由の根拠として機能します。しかし、普通解雇の有効性は解雇権濫用法理に基づく別途の審査を受けるため、事実の重大性・改善可能性・社会通念上の相当性が認められることが必要です。また、懲戒手続に準じた対応の実施と、退職金が原則支払いになることの確認も、解雇前に必ず行っておくべき重要な事項です。解雇を検討している場合は、早めに会社側の労働問題に精通した弁護士にご相談ください。
最終更新日 2026/04/05