労働問題1009 メンタルが不安定な問題社員の対処法
解説動画
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レッテルを貼らない——医師が言ったのでなければ診断名を使わない 「あの人はアスペルガーだから」などと病名・障害名のレッテルを貼ると、細やかな対応ができなくなる。それ自体差別になりかねない。医師がそう言っているなら尊重すべきだが、医師の資格もない会社の人間や弁護士が独自にレッテルを貼ることは間違えやすく危険 |
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健康確保優先——賃金・雇用の前に安全配慮義務 メンタルの問題が起きると賃金や雇用終了の話に行きがちだが、まず人の生命・健康が大事。法律上、企業には安全配慮義務がある。体調悪化が見え見えの状態で「自己責任でやらせてほしい」と言われても働かせてはいけない |
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仕事ができているかどうかが判断の中心 病気かどうかはゴールではなく材料。職場は仕事をする場所なので、契約で予定されている程度の仕事ができているかどうかが決定的に大事。病気があっても仕事ができていれば口出しする問題ではない。健康でも仕事ができていなければ指導・教育の権利が雇い主にある |
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休職命令書を紙で交付し、開始日と満了日を明確にする 休職申請書だけに頼って命令書を出さない会社が多いが非常に危険。何月何日から休職が始まって何月何日が満了日なのか、本人も会社も把握していない状態は、期間満了での退職運用が正しくできなくなるリスクがある |
目次
01ポイント① レッテルを貼らない
メンタルに問題がある社員が職場にいると、ついつい「あの人はアスペルガーだから」「あの人はうつだから」といった病名や障害の名前でレッテルを貼って安心してしまいがちです。
しかしこれは非常に危険です。理由は二つあります。
一つ目は、レッテルを貼ること自体が差別になりかねないということです。医師が診断した結果として「この方はこういう特性がある」と言うのであれば、それは医学的な根拠のある判断です。しかし医師の資格もない会社の方や弁護士が独自に「あの人はこうだから」と判断してレッテルを貼ることは、大雑把で間違えやすく、差別になるリスクもあります。
二つ目は、レッテルを貼ってしまうと細やかな対応ができなくなるということです。「あの人はこういう病気だから」と一つの答えに結びつけてしまうと、その方の実際の言動や挙動を丁寧に観察して個別に対応するという姿勢が薄れてしまいます。
専門の医師がそう言っているのであれば、その診断を尊重しつつ対応することは適切です。しかし医師の判断なしに独自のレッテルを貼って対応を決めることは避けてください。常にその方の実際の言動・挙動を細かく見て、会社として個別に対応していくことが大事です。
02ポイント② 健康確保優先——安全配慮義務を守る
メンタルの問題が起きると、多くの経営者がまず賃金の問題や雇用終了の問題を考えてしまいがちです。しかし順序が逆です。まず最初に考えなければならないのは健康確保です。
人の生命や健康はとても大事なものです。法律的にも、企業には安全配慮義務が課せられています。従業員の方が仕事のせいで健康を害することがないよう配慮する義務です。
明らかに体調が悪くて働かせたら体調が悪化するのが見え見えの場合、本人が「自己責任でやらせてほしい」と言っても、そのまま働かせてはいけません。賃金を払う義務があるかどうかという議論と、従業員の健康が悪化しないように配慮する義務は別の話です。後者は、本人の意思にかかわらず会社が守らなければならない義務です。
健康確保が優先です。この順序を常に頭においてください。
03ポイント③ 仕事ができているかどうかを判断する
メンタルの問題に向き合うとき、多くの経営者が「どういう病気なのか」「病気かどうか」という点に目を向けがちです。しかし会社にとって最も重要な判断ポイントは、「契約で予定されている程度の仕事ができているかどうか」です。
病気かどうかはゴールではなく、仕事ができているかどうかを判断するための一つの材料に過ぎません。
職場は仕事をする場所です。仕事ができているかどうかという観点から状況を判断し、仕事ができていない場合にどう対応するかを考えることが、会社としての正しいアプローチです。
04ポイント④ 休職などの措置を検討する——手順と命令書の重要性
メンタルの不安定さが原因で、契約で予定されているまともな仕事ができない状態になってしまった場合は、休職などの措置を検討せざるを得ません。
通常の手順は次の通りです。まず年次有給休暇が残っている場合は使うよう提案し、本人が希望すれば取得させます。次に欠勤を認める期間として所定の日数(例:1か月・2か月)が続いた場合、休職制度がある会社では休職の開始を命じます。休職期間中に回復すれば復職。回復しなければ休職期間満了で退職または解雇という流れになります。
休職命令書は必ず紙で交付する
ここで特に強調したいのは、休職命令書を必ず書面(紙)で本人に交付することです。休職をスタートする際には、何月何日から休職がスタートして、何月何日が満了日なのかを明確にして書面で渡してください。
口頭での告知だけでは、後からいつ開始したかについての認識が食い違うことがあります。さらに休職申請書に書いてある日付が実際より過去にさかのぼった形になっていることもあります。命令は将来に向けてなされるものですから、休職命令書には現在以降の日付でスタート日を記載することが整合的です。
05休職申請だけに頼った曖昧な運用が危険な理由
実際には、本人が提出した休職申請書だけで休職をスタートさせて、命令書を出さない会社が非常に多くあります。そのような運用では「何月何日から休職がスタートしたのか」が後から確認できない状態になりやすいのです。
具体例で考えてみてください。就業規則に「傷病欠勤が1か月続いた場合、最長3か月の休職期間を認める」と定めている会社があったとします。この場合、欠勤1か月+休職3か月の合計4か月間、本人は在籍できます。
ところが欠勤が始まって1週間程度でいきなり休職スタートとなってしまうと、3か月と1週間程度しか在籍できないことになります。本来4か月在籍できるはずだったのに短縮されてしまいます。さらに命令書がなければ休職開始日が曖昧なまま進むことになり、期間満了での退職・解雇という運用が後々成立しにくくなります。
休職命令書を出さない場合の問題
休職開始日が曖昧になり、本人も会社も把握していない状態になる
期間満了での退職・解雇の運用が正しくできなくなるリスクがある
後のトラブルで「いつから休職だったのか」が争点になりやすい
休職期間満了をもって退職・解雇という運用をきちんと行うつもりがある会社であれば、スタート日と終了日が明確に分かる形にしておくことは絶対に必要です。曖昧な運用のままで「治らなければやめてもらう」ということは難しくなります。
06ポイント⑤ 医師・弁護士と協力してその都度相談しながら対応する
メンタルが不安定な社員への対応において、休職・復職の問題は最終的には「病気のせいで働けているかどうか」という医学的な判断が必要になります。この判断は、お医者さんなしでは正確にできません。
メンタル専門医の意見を聞く
メンタルの問題についてはできればメンタルが専門のお医者さんの意見を聞くことが理想です。産業医がメンタルに強い場合はそれで十分ですが、難しい場合はメンタルヘルスに強い専門医に紹介状を書いてもらって見てもらうことが必要になるかもしれません。
職場の環境を分かっていないお医者さんであれば、「こういった病状の場合、こういう仕事はできますか」という形でこちらから情報提供しながら意見を聞くことが重要です。職場の状況と病状の両方を把握した上での意見こそが、実際の対応の根拠になります。
弁護士にその都度相談しながら進める
法律上の対応——休職命令の有効性、期間満了での退職・解雇の手続き、必要書類の作成など——については弁護士の協力が必要です。一般論的なアドバイスを一度もらうだけでは不十分で、現状をその都度報告し、その状況に応じた対応をアドバイスしてもらう必要があります。
ZoomやTeamsを使えば、移動なしで30分程度の相談を頻繁に入れることができます。まとめて1〜2時間の打ち合わせをたまにするよりも、短時間の相談をその都度重ねる方が、実際の問題解決に役立ちます。
「休職期間満了で退職してもらうつもりはない、在籍させておけばいい」という会社であれば、それほど神経質にならなくても対応できることもあります。しかし「期間満了で本当にやめてもらう」という運用を行おうとしている会社であれば、弁護士と毎週のように相談しながら一つ一つ丁寧に進めることをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。メンタルヘルス・休職対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. メンタルが不安定な社員が「体調が悪くても働きたい」と言って出社します。休ませることはできますか。
A. できます。会社には安全配慮義務があり、体調悪化が明らかな状態で働かせることは義務違反になりかねません。また不完全な労務提供(契約で予定されている最低限の仕事もできない状態での就労)を受け入れる義務は会社にありません。本人が「自己責任でやらせてほしい」と言っても、客観的に仕事ができない状態であれば、欠勤・休職の措置を取ることができます。
Q2. 休職申請書を受け取ったのですが、休職命令書を出さないと何か問題がありますか。
A. 問題があります。命令書を出さないと休職開始日が曖昧になり、後のトラブルで争点になりやすくなります。特に「休職期間満了で退職」という運用を行う場合、開始日が不明確だと期間満了の主張が難しくなります。休職命令書には必ず「開始日」「満了日」「満了時に復職できない場合の扱い」を明記して、書面で本人に交付してください。
Q3. 「あの人はうつ病だから配慮してあげて」と言っている管理職がいます。この対応で正しいですか。
A. 医師がその診断を下しているのであれば、その情報は尊重した上で対応を考えることが適切です。しかし「うつ病だから」というレッテルを一つの答えに結びつけて対応を固定化してしまうことは避けてください。仕事ができているかどうかを常に個別に確認し、状況に応じた対応をとることが大事です。また「うつ病だから」と決めつけることが差別的な扱いにならないよう、実際の言動と仕事の状況を丁寧に見ていく姿勢を持ってください。
Q4. 休職期間満了で退職という運用を正しく行うために、何から始めればよいですか。
A. まず就業規則の休職規定を確認してください。欠勤要件・休職期間・満了時の扱い(退職か解雇か)が明記されているかを確認します。次に弁護士に相談して、自社の就業規則の内容に基づいた具体的な手順を確認してください。休職命令書の書き方・交付のタイミング・満了時の通知方法など、個別の事情に応じたアドバイスを受けながら進めることをお勧めします。
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最終更新日:2026年5月10日