労働問題815 在職中及び退職後の秘密保持義務についての留意点を教えてください。

この記事の結論
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在職中は、規定がなくても当然に秘密保持義務を負う

在職中の労働者は、労働契約の付随義務として、使用者の営業上の秘密を保持すべき義務を負っています。この義務は、就業規則や個別合意がなくても発生すると考えられています(メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件、東京地裁平成15年9月17日判決)。

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退職後は、原則として就業規則・個別合意の有効性が問われる

退職後の秘密保持義務は、就業規則や個別合意があり合理性が認められ公序良俗違反とならない場合に、これらに基づき負うと考えられます。規定・合意がない場合の扱いは、裁判例の見解が分かれています。

 競業避止義務や引き抜き行為と並んで、営業秘密の保護は、会社にとって特に重要な関心事です。在職中と退職後とでは、秘密保持義務の根拠や範囲が異なるため、それぞれ正確に理解しておく必要があります。

 会社側専門の弁護士の立場から、在職中・退職後の秘密保持義務の留意点を解説します。

01在職中の秘密保持義務

 在職中の労働者は、労働契約の付随義務として、使用者の営業上の秘密を保持すべき義務を負っています。この秘密保持義務については、多くの会社が就業規則で定めており、また、誓約書や秘密保持契約書等もなされていますが、就業規則や個別合意がなくても発生すると考えられています(メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件、東京地裁平成15年9月17日判決)。809の記事で解説した競業避止義務と同様、労働契約に付随する誠実義務の一環として、当然に生じる義務と位置づけられています。

 労働者が秘密保持義務に違反した場合には、就業規則に基づいて、懲戒処分や解雇等を検討していくことになります。

02退職後の秘密保持義務(規定・合意がある場合)

 退職後の労働者については、秘密保持義務を負う旨の就業規則や個別合意があり、これに合理性が認められ公序良俗違反とならない場合には、就業規則の規定や合意に基づき、退職後も秘密保持義務を負うものと考えられます。810の記事で解説した退職後の競業避止義務と同じく、規定・合意の存在が出発点になります。

03規定の合理性が求められる理由

 このような就業規則の規定や個別合意は、本来制約されないはずの退職後の労働者の行為を制約する側面をもっていますので、その範囲が不当なものとならないよう、裁判例では、合理性が求められています(ダイオーズサービシーズ事件、東京地裁平成14年8月30日判決)。具体的には、秘密保持の対象を明確に定めることが求められ、個別合意においては、秘密の性質、範囲、価値等に照らし、合理性が判断されます。

04規定・合意がない場合の扱い

 他方、秘密保持義務を負う旨の就業規則や個別合意がない場合の退職後の労働者も秘密保持義務を負うかについては、見解が分かれています。裁判例は、信義則上、一定の範囲では引き続き秘密保持義務を負うとしているもの(三和化工事件、大阪高裁平成6年12月26日判決等)と、労働契約の明確な根拠が必要であるとして否定しているもの(レガシィ事件、東京地裁平成27年3月27日判決)があります。

 この見解の対立は、退職後の労働者の職業選択の自由と、使用者の秘密保護の利益との調整をどう図るかという、根本的な価値判断の違いに由来しています。規定・合意がない場合の秘密保持義務は、法的に不安定な状態にあると理解しておく必要があります。

05会社側が押さえておくべき視点

 会社側としては、退職後の秘密保持義務を確実なものにするために、就業規則や個別の秘密保持契約書において、秘密保持の対象となる情報を具体的かつ明確に定めておくことが最も重要です。「業務上知り得た一切の情報」といった漠然とした規定では、合理性を欠くとして無効と判断されるリスクがあります。

 顧客情報、技術情報、経営情報など、保護すべき情報の類型を具体的に列挙し、その重要性・価値を踏まえた合理的な範囲の義務として設計することが望ましいといえます。規定・合意がない場合の秘密保持義務は法的に不安定であるため、重要な情報にアクセスする従業員については、入社時・退職時に誓約書を取得しておくことを強くお勧めします。

06よくある質問(FAQ)

Q. 就業規則に秘密保持義務の規定がなければ、在職中の従業員は秘密を漏らしても問題ありませんか。

問題があります。在職中の労働者は、就業規則や個別合意がなくても、労働契約の付随義務として当然に営業上の秘密を保持すべき義務を負います。

Q. 退職後も秘密保持義務を負わせるには、何が必要ですか。

就業規則や個別合意で秘密保持義務を定め、その内容に合理性が認められることが必要です。秘密保持の対象を明確に定めることが求められます。

Q. 就業規則等に規定がなければ、退職者に秘密保持義務は一切生じませんか。

見解が分かれています。信義則上一定の範囲で義務を負うとする裁判例と、明確な契約上の根拠が必要として否定する裁判例があり、法的に不安定な状態です。

経営上のポイント 在職中の労働者は、就業規則等の規定がなくても、労働契約の付随義務として当然に営業上の秘密を保持すべき義務を負います(メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件)。退職後の秘密保持義務は、就業規則や個別合意があり合理性が認められる場合に、これらに基づき負うと考えられ、秘密保持の対象を明確に定めることが求められます(ダイオーズサービシーズ事件)。規定・合意がない場合の退職後の秘密保持義務については、信義則上の義務を認める裁判例(三和化工事件)と、明確な契約上の根拠を要求する裁判例(レガシィ事件)があり、見解が分かれています。会社側としては、退職後の秘密保持義務を確実にするため、就業規則・個別合意で保護対象を具体的に明示し、重要情報にアクセスする従業員から誓約書を取得しておくことが重要です。秘密保持義務の規定整備は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。秘密保持義務の規定整備でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

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