労働問題816 秘密保持義務と不正競争防止法の関係を教えてください。
営業秘密として管理される知的財産の多くは、労働者や技術者の長年の努力と、使用者の多額の投資の集結です。このような知的財産は、事業者の収益を生み出す源としての価値を有しているとともに、一度侵害されると瞬時に拡散してしまいます。また、人的・組織的な管理によらざるを得ないことから、侵害行為の予防には限界があるという性質を内包しています。このような営業秘密は、企業内部における適切な管理と、法律による侵害行為に対する実効的な抑止を通じて保護が図られることが重要です。
不正競争防止法は、営業秘密の不正な取得・使用・開示を「不正競争」と規制しており、これにより、労働者は、在職中、退職後を問わず、営業秘密を保持すべき義務を負います。
労働者が不正競争を行った場合、使用者は、差止め、損害賠償、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に供した設備の除去、信用回復措置を請求することができます。また、営業秘密侵害罪に該当する場合は、刑事罰が科されることも考えられます。
なお、不正競争防止法は、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他事業活動に有用な技術上、又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しており、次の3つの要件を満たす情報を保護の対象としています。
① 秘密として管理されていること
② 有用な営業上又は技術上の情報であること
③ 公然と知られていないこと
労務管理との関係では、就業規則の規定や個別合意による秘密保持義務の設定を、①の秘密管理性を肯定する判断要素としている裁判例があります。例えば、東京地裁平成11年7月23日判決では、秘密保持を内容とする就業規則の規定及び誓約書を、事業者が対象情報を秘密として管理していた態勢の一つとして認定しています。また、大阪高裁平成20年7月18日判決は、従業員を引き抜いて独立する動きがある特殊な状況下で情報を知り得る立場にある従業員全員に秘密保持を内容とする誓約書を作成させたことにより、①の秘密管理性を認めています。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
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