労働問題800 解雇の規制にはどのようなものがありますか。

この記事の結論
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業務上災害の療養中・産前産後休業中は解雇できない

業務上災害による療養のための休業期間、産前産後休業期間およびその後30日間は、その労働者を解雇することはできません。打切補償を支払えば解雇制限は解除され、労災保険給付を受ける労働者もその対象になります(専修大学事件、最高裁平成27年6月8日判決)。

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組合活動・公益通報・妊娠出産等を理由とする解雇も禁止される

組合活動、公益通報、労基署への申告、育児介護休業の申出・取得、婚姻、妊娠・出産等を理由とする解雇は、それぞれ個別の法律で禁止されています。

 解雇を検討する際、就業規則上の要件だけでなく、労基法や他の個別法が定める解雇制限にも目を向ける必要があります。制限に抵触する解雇は、他の要件を満たしていても無効となります。

 会社側専門の弁護士の立場から、解雇の規制の全体像を解説します。

01労働契約上の規制

 解雇権は、労働契約に当然に付随する権利と理解されており、普通解雇をするにあたり、就業規則の定めなどは必要ありません。しかし、常時10人以上の労働者を雇用する場合は、就業規則を定め、労働基準監督署に届け出なければならず、解雇事由は就業規則の絶対的必要事項であり、労働契約時に書面により明示しなければなりません(労基法15条1項、労規則5条1項4号)。

 他方、懲戒解雇は企業秩序の違反に対する制裁罰として行われるものであるため、労働契約において当然に予定されているものではなく、懲戒解雇を行う場合には、就業規則にその旨定め、労働者へ周知する必要があります(788の記事参照)。

02業務上災害療養中・産前産後休業中の解雇禁止

 労働者の業務上災害の負傷・疾病による療養のための休業期間、女性労働者の労基法65条に基づく産前産後の休業期間およびその後30日間は、その労働者を解雇することはできません。ただし、業務上の負傷や疾病が症状固定した以降は、他の解雇要件を満たす場合に限り解雇することができるとした裁判例があります(光洋運輸事件、名古屋地裁平成元年7月28日判決)。

 なお、解雇制限期間中の解雇については、懲戒解雇であってもすることができませんが(小倉炭鉱事件、福岡地裁昭和31年9月13日判決)、解雇制限期間中の解雇予告は行うことができるとされています(東洋特殊土木事件、水戸地裁龍ヶ崎支部昭和55年1月18日判決)。

03打切補償による解雇制限の解除(専修大学事件)

 業務上災害による療養中の解雇制限は、使用者が労基法81条の打切補償を支払った場合に解除されます。この打切補償による解雇制限の対象となる「第75条の規定によって補償を受けている労働者」について、最高裁は、その補償が労災保険法に基づく療養補償給付および休業補償給付によりなされている労働者はこれに該当しないとして使用者による解雇を無効とした原審判決を破棄し、このような労働者も打切補償の対象になるとした上で、当該解雇の合理性・相当性の有無について審理することを求めました(専修大学事件、最高裁平成27年6月8日判決)。

 労働者が労災保険から療養補償給付等を受けている場合でも、労基法に定める使用者の災害補償義務は、労災保険を通して実質的に行われており、使用者が自ら支払っている場合と区別する理由がないこと、および労働者は打切補償が行われた後も疾病等が治るまでの間は必要な療養補償給付等を受け取ることができ、労働者の利益保護を欠くことになるとも言い難いことが理由とされています。この判例により、労災保険給付を受けている労働者についても、打切補償を支払うことで解雇制限を解除できることが明確になりました。

04その他の主な解雇制限

 これらのほか、次のような解雇制限が個別の法律で定められています。

  • 労働組合の組合員であること、労働組合への加入・結成、正当な組合活動を行ったことなどを理由とする解雇の禁止
  • 公益通報したことを理由とする解雇の禁止
  • 労基署等に対して、労基法違反の事実について申告や通報などを行ったことを理由とする解雇の禁止
  • 労働者が育児・介護休業の申出または取得したことを理由とする解雇の禁止
  • 女性労働者が婚姻したことを理由とする解雇の禁止
  • 女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠・出産・産前産後休業の請求・取得、育児時間の申出・取得、妊娠・出産に起因する労働能率低下、その他妊娠・出産に関する理由での解雇の禁止
  • 妊娠中および出産後1年を経過しない間に行う解雇の禁止

05会社側が押さえておくべき視点

 解雇を検討する際には、対象となる労働者が、これらの解雇制限のいずれかに該当していないかを、まず確認する必要があります。特に、妊娠中・出産後1年以内の女性労働者への解雇は、原則として禁止されており、例外的に認められる場合でも、事業主側が「妊娠・出産等を理由とする解雇でないこと」を立証する必要があるとされているため、極めて慎重な対応が求められます。

 業務上災害による療養中の労働者を解雇したい場合には、療養開始後3年を経過しても治らない場合に、打切補償(平均賃金の1200日分)を支払うことで解雇制限を解除できる可能性があります。専修大学事件により、労災保険給付を受けている労働者についても、この方法が使えることが明確になっています。もっとも、打切補償により解雇制限が解除されても、解雇自体の客観的合理性・社会通念上の相当性は別途問われるため、労働契約法16条の観点からの検討も必要です。

06よくある質問(FAQ)

Q. 労災保険から療養補償給付を受けている従業員は、打切補償の対象になりますか。

なります。かつては使用者が直接補償を行っている場合に限られるとする裁判例もありましたが、最高裁は、労災保険給付を受けている労働者も打切補償の対象になると判断しました(専修大学事件)。

Q. 業務上災害の療養中は、懲戒解雇もできませんか。

できません。解雇制限期間中の解雇は、懲戒解雇であってもすることができないとされています。ただし、解雇制限期間中に解雇予告を行うこと自体は可能とされています。

Q. 妊娠中の女性労働者を解雇することはできますか。

妊娠・出産に関する理由での解雇は禁止されています。妊娠中および出産後1年を経過しない間の解雇も原則禁止されており、極めて慎重な検討が必要です。

経営上のポイント 普通解雇は労働契約上の権利として就業規則の定めなく行えますが、常時10人以上の事業場では解雇事由を就業規則の絶対的必要事項として定め書面明示する必要があります。業務上災害による療養中・産前産後休業中とその後30日間は解雇できませんが、打切補償(平均賃金1200日分)を支払えば解除され、労災保険給付を受ける労働者もその対象になることが明確化されています(専修大学事件、最高裁平成27年6月8日)。このほか、組合活動、公益通報、労基署への申告、育児介護休業の申出・取得、婚姻、妊娠・出産等を理由とする解雇も個別法で禁止されています。特に妊娠中・出産後1年以内の女性労働者の解雇は極めて慎重な対応が必要です。解雇の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。解雇の実施でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

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