労働問題801 整理解雇をするに当たっては、どのようなことを検討しなければなりませんか?
整理解雇は、使用者の経営上の理由による解雇であることから、解雇権濫用法理が適用されます。
裁判所は、①整理解雇の必要性があるか、②解雇を回避する努力をしたか、③解雇者の人選基準や人選に合理性があるか、④解雇手続きに妥当性があるかという4つの要素を総合的に判断することにより、解雇権濫用の有無を判断しています。
①整理解雇の必要性
整理解雇は、経営上の十分な必要性に基づいて実施されなければならないとされています。整理解雇の必要性については、その原因と程度が問題となりますが、必要性が存在しなければ整理解雇はまず無効となります。
最近の裁判例では、整理解雇の必要性について厳格に判断するものも少なくなく、特に、企業が人員削減とは矛盾する行動を取っている場合、企業の裁量判断の合理性は否定されています。例えば、過去の黒字、決算書類の不開示、親会社への債権放棄とその後の多額の融資などを理由に整理解雇の合理性が否定されたテクノプロ・エンジニアリング事件(横浜地裁平成23年1月25日判決)や、多数の新規採用をしていた泉州学園事件(大阪高裁平成23年7月15日判決)があります。
②解雇回避努力
使用者は整理解雇をするに先立ち、極力整理解雇を回避するための努力をしなければなりません。裁判例の中には、人員整理は真にやむを得ない場合の最終的措置であるべきとして、整理解雇の最終手段性を強調するもの(天間製紙事件静岡地裁富士支部昭和50年8月19日判決)、解雇を回避し得る相当の手段を講じたことで足りるとする比較的柔軟なもの(小倉地区労働医療協会事件福岡高裁昭和54年6月18日判決)があります。
一般的には、企業規模や業種、人員構成等により回避努力の内容は異なると思いますが、使用者は、整理解雇前に遊休資産の売却、経費の削減などの経営努力を行うとともに、雇用確保の手段として下請に発注していたものを自社で生産したり、残業を規制したり、賃金カット、新規採用の中止、退職勧奨、希望退職者の募集等の実施、あるいはこれらの解雇回避手段の採否につき真摯に検討することが求められています。
希望退職者募集の実施は、整理解雇の要素として必ずしも要求されるわけではありませんが、これを実施していない場合、回避努力が不十分と判断される傾向があります(山田紡績事件、ロイズジャパン事件東京地裁平成25年9月11日判決)。
希望退職者募集を実施する場合には、万が一の整理解雇に備え、解雇回避努力として認められるための十分な制度を実施しておくことが重要となり、金銭的に退職を希望させるだけの魅力的なものでなければならないとされています(揖斐川工業運輸事件横浜地裁川崎支部平成12年9月21日判決)。また、希望退職者募集の考慮期間として十分な期間を設ける必要があるとした裁判例(ジャレコ事件東京地裁平成7年10月20日判決)や、募集人員を示さずに行われた早期退職制度は、解雇回避努力としては疑わしいとした裁判例(ヴァリグ日本支社事件東京地裁平成13年12月19日判決)があります。
希望退職募集制度の内容は、原則として使用者の広範な裁量により自由に決定することができるとはいえ、上記の裁判例を踏まえた慎重な検討が必要だと考えます。
③人選の合理性
解雇対象者の選定は、客観的に合理的な基準により公正に行わなければなりません。もっとも、使用者の恣意が介入する余地のない客観的かつ合理的な基準であったとしても、基準運用において合理性が認められない場合や、当該基準による解雇対象者と解雇非対象者との処遇格差に合理性が認められない場合は、人選の合理性についての要件は充たしていないとした裁判例があります(ヴァリグ日本支社事件東京地裁平成13年12月19日判決)。
人選基準としてその合理性が認められたものとして、勤務地、能力、休職・病欠日数、勤務状況等の総合評価などがあります。他方、一般的には人選基準となり得るとしながらも、具体的な事例において合理性が認められなかったものとして、年齢、入社歴、適格性などがあります。また、正規従業員との比較において非正規従業員を解雇対象として選定することについては、非正規従業員の調整要員的性格を重視して合理性が認められる傾向にあります。
また、具体的な人選も合理的なものでなければならず、労働組合員を排除することや、性別・国籍・信条・社会的身分などで差別することは許されません。なお、人選の合理性が解雇回避努力と関連して判断されることがあり、例えば、配置転換の可能性の検討等、十分な解雇回避努力が尽くされずに解雇対象者として選定された場合は、当該対象者について選定に妥当性を欠くとして、整理解雇が無効と判断された裁判例があります(東洋印刷事件東京地裁平成14年9月30日判決)。
④手続の相当性
使用者は、整理解雇に際して、労働者や労働組合に対し誠実に協議・説明する義務を負っています。会社の決算書類等の経理書類を開示して十分に説明し、人員整理の時期や規模、方法等について、労働者・労働組合の納得が得られるよう努力しなければなりません。
労働組合との間で整理解雇に関する協議約款や同意約款等が存在する場合には、当該約款を履行せずに行われた整理解雇は無効になります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
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