労働問題127 退職勧奨で「解雇にしてほしい」と言われたら?失業手当の受給条件と会社のリスク

この記事の要点

退職勧奨による離職は雇用保険法上「特定受給資格者」に該当し、失業手当について解雇と全く同等の優遇が受けられます。失業手当目的で「解雇」名目にする必要はなく、むしろ会社に重大な法的リスクを招きます。

助成金については解雇も退職勧奨も「会社都合の離職」として等しく制限がかかる点を正確に理解しておくことが重要です。

退職勧奨=特定受給資格者(雇保法施行規則36条9号)——解雇と同等の優遇

給付制限なし・受給日数延長が適用されます。失業手当のために「解雇」にする必要はありません。


「解雇」名目を使うことの重大リスク:不当解雇の証拠化・虚偽記載罰則

安易に「解雇」扱いにすると後日不当解雇を争われ多額の解決金を余儀なくされます。離職票への虚偽記載は罰則の対象です。


助成金への影響は解雇も退職勧奨も同じ——名目を変えても制限は変わらない

「退職勧奨なら助成金は大丈夫」は誤解です。特定受給資格者の認定を受ける離職はいずれも会社都合として制限を受けます。

1. なぜ労働者は「解雇にしてほしい」と求めるのか

 退職勧奨の場において「失業手当の受給条件を良くするために解雇扱いにしてほしい」と頼まれることは少なくありません。背景には、①自己都合退職の場合は通常2〜3ヶ月の給付制限(無給期間)が発生することへの不安、②自己都合では失業手当の受給日数が少なくなるという懸念があります。しかし、「退職勧奨」においては、解雇扱いにせずともこれらの懸念は解消されます。

2. 退職勧奨は「特定受給資格者」に該当する

 雇用保険法施行規則第36条9号により「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと」で離職した者は、特定受給資格者(雇用保険法23条2項2号)として扱われます。特定受給資格者に認定されると、①7日間の待機期間が経過すれば給付制限なく受給が開始され、②年齢や勤続年数に応じ自己都合退職よりも大幅に長い受給日数が確保されます。したがって、労働者のためにあえて「解雇」という法的に不安定な名目を選択する必要性は全くありません。

3. 経営者が「解雇名目」を拒否すべき法的リスク

①解雇権濫用法理による「不当解雇」の証拠になる

 一度「解雇」として書類を作成してしまうと、後日「実は解雇に納得していなかった」と主張されて不当解雇の訴えを起こした場合、会社側は極めて苦しい立場に置かれます。「解雇通知書」が存在する以上、裁判所は「客観的合理的理由」や「社会通念上の相当性」を厳しく審査し、会社側が多額の解決金を支払う事態を招きかねません。

②行政に対する虚偽記載(不正受給への加担)

 実態が合意による退職であるにもかかわらず、離職票に「解雇」と記載することは虚偽記載にあたります。これが発覚した場合、事業主は雇用保険法に基づき罰則(懲役または罰金)の対象となるほか、労働者が受け取った給付金の返還について連帯して責任を負わされるリスクがあります。

4. 助成金受給への影響——解雇と退職勧奨の共通点

 「解雇でなければ助成金は大丈夫」という認識は誤りです。雇用調整助成金やキャリアアップ助成金など多くの労働局系助成金において、受給要件に「一定期間内に会社都合の離職者がいないこと」が含まれており、この「会社都合の離職」には解雇だけでなく「退職勧奨(特定受給資格者の認定を受ける離職)」も含まれます。解雇名目にしようが退職勧奨のままであろうが、助成金受給において制限を受ける事実に変わりはありません。経営判断としては、助成金への影響を覚悟した上で、より法的リスクの少ない「退職勧奨(合意退職)」として処理するのが正解です。

5. 実務上のアドバイス——社員への正確な説明

 社員に対し、「退職勧奨による離職は特定受給資格者に該当し、解雇と全く同じ条件で失業手当が受けられる」という事実を丁寧に説明することが重要です。この説明を行うことで、社員の不安を解消しながら、会社にとって法的リスクの少ない合意退職として手続きを完了させることが可能になります。

 退職勧奨の進め方・社員への説明方法・離職票の記載について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

6. まとめ

 退職勧奨による離職は雇用保険法施行規則36条9号・雇用保険法23条2項2号により「特定受給資格者」に該当し、失業手当について解雇と全く同等の優遇(給付制限なし・受給日数延長)が受けられます。失業手当目的での「解雇」名目は不当解雇の証拠化・虚偽記載罰則という重大な法的リスクを招くため絶対に避けるべきです。助成金への影響は解雇も退職勧奨も同じです。社員に対して退職勧奨でも失業手当が十分に受けられることを正確に説明し、合意退職として手続きを完了させることが会社経営者として最善の対応です。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/10

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