労働問題125 退職勧奨に解雇予告手当は不要——合意退職と解雇の違いと「解決金」の正しい処理【会社側弁護士が解説】

 退職勧奨を経て社員が退職に合意した場合、「解雇予告手当を支払う必要があるのか」と経営者が疑問に思うことは少なくない。また、「退職してもらうのだから解雇予告手当を払えばよいだろう」と安易に考えることも危険である。退職勧奨における金銭給付の法的性質を正確に理解し、適切な名目・書面で処理することが、後日の紛争防止に直結する。

 本稿では、解雇予告手当の法的根拠・退職勧奨に解雇予告手当が不要な理由・「解雇予告手当」名目で支払うことのリスク・退職合意書への正しい記載方法について、使用者側弁護士の立場から解説する。

01解雇予告手当の法的根拠と対象

 労働基準法第20条は、使用者が労働者を「解雇」する場合、少なくとも30日前に解雇予告を行うか、予告なしに解雇する場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めている。この規定が適用されるのは、会社が一方的に労働契約を終了させる「解雇」の場面に限定される。

 退職勧奨は、会社が社員に対して「退職を申し込むよう促す行為(申込みの誘引)」であり、社員が合意して初めて労働契約が終了する「合意退職」である。解雇のように会社が一方的に契約を終了させる形成権の行使ではないため、労働基準法20条の解雇予告手当の規定は適用されない。退職勧奨による合意退職に解雇予告手当の支払い義務はない。

02「解雇予告手当」名目での支払いが招く重大リスク

 「退職してもらうのだから解雇予告手当として払えばよいだろう」という考えに基づき、退職勧奨後の合意退職にもかかわらず「解雇予告手当」と記載した支払いを行うことは、二重の意味で危険である。

 第一のリスクは、不当解雇の証拠を自ら作り出すことである。後日、社員が「実は退職を強要された・解雇された」として不当解雇を主張する訴訟・労働審判を提起した場合、「解雇予告手当」という名目の領収書・給与明細・支払い記録は、会社が一方的に解雇したことを示す強力な物証となる。合意退職であると反論しても、この証拠が会社側の主張を困難にする。第二のリスクは、税務上の問題である。合意退職に対する解決金は一定の税務処理が必要であるが、実態と異なる名目での処理は税務調査における指摘事項となり得る。会社側弁護士として、「解雇予告手当」名目での支払いは絶対に避けることを強調する。

03退職勧奨に伴う金銭給付の正しい名目

 退職勧奨に伴い会社が金銭を支払う場合、その性質に応じた正しい名目を使用することが重要である。主な名目として、解決金(和解金)は将来的な紛争を防止し合意を促すための対価として位置づけられる。特別退職金は規定の退職金に上乗せして支払われる功労報償・生活支援的な金銭として位置づけられる。再就職支援金は早期転職をサポートするための金銭として位置づけられる。これらの名目を適切に使い分け、退職合意書に明記することが実務上の正しい対応である。

 なお、解決金等の金額設定については、社員の勤続年数・月次賃金・退職理由・交渉の経緯を総合的に考慮する必要がある。適切な金額設定と書面設計については、四谷麹町法律事務所のような使用者側専門の弁護士に相談することを推奨する。

04退職合意書への正しい記載——清算条項の重要性

 退職勧奨に伴い金銭を支払う場合は、必ず退職合意書を作成し、その中で支払う金銭の名目・金額・支払い時期を明記することが不可欠である。退職合意書には、退職日・退職の理由(合意退職であること)・解決金等の条件・清算条項を記載することが標準的である。

 特に重要なのが清算条項である。清算条項とは「本合意書に定めるほか、甲(会社)と乙(社員)の間には何らの債権債務関係が存在しないことを相互に確認する」という文言であり、退職合意後に残業代請求・未払い賃金請求・損害賠償請求等を行わないことを相互に確認するものである。清算条項がない退職合意書は、後日別途の金銭請求を受けるリスクを残す。合意書の設計段階から会社側弁護士が関与することで、紛争リスクを大幅に低減できる。

05「解雇にしてほしい」と要求された場合の対応

 退職勧奨の際に社員から「解雇扱いにしてほしい(失業給付を早く受けたい)」と要求されることがある。会社が解雇として処理することは、実態と異なる退職原因の記載であり、後日の不当解雇主張の根拠を自ら与える行為となるため、原則として応じるべきではない。

 雇用保険の離職理由については、「会社都合退職」「特定受給資格者」に該当するかどうかは退職の実態によって判断される。退職勧奨による合意退職は、一定の要件を満たす場合に会社都合に近い扱いを受けることがあるため、離職票の記載については、実態に即した処理を行うことが重要である。具体的な離職理由の記載については、使用者側弁護士または社会保険労務士への相談を推奨する。

藤田進太郎弁護士

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士

藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。経営法曹会議会員。労働審判員連絡協議会特別会員。日本弁護士連合会労働法制委員会委員。使用者側専門の会社側弁護士として、解雇・退職勧奨・労働審判・残業代請求など労働問題全般に対応。東京および全国対応。

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FAQよくある質問

Q1. 退職勧奨で社員に辞めてもらう場合、解雇予告手当は必要ですか?

 不要です。退職勧奨は合意退職であり、会社が一方的に契約を終了させる「解雇」ではないため、労働基準法20条の解雇予告手当の支払い義務はありません。支払う金銭は「解決金」「特別退職金」として退職合意書に明記することが適切です。

Q2. 「解雇予告手当」として支払ってしまった場合、どうなりますか?

 後日、社員が不当解雇を主張した場合に、「解雇予告手当」という名目の支払い記録が会社が一方的に解雇したことを示す証拠として利用されるリスクがあります。すでに支払ってしまった場合は、弁護士への相談を推奨します。

Q3. 退職合意書に清算条項は必ず入れるべきですか?

 強く推奨します。清算条項がないと、合意退職後に残業代・未払い賃金・損害賠償等の別途請求を受けるリスクが残ります。退職合意書には必ず清算条項を記載し、双方が署名・捺印した書面を保管してください。

Q4. 社員に「解雇扱いにしてほしい」と言われた場合はどうすればよいですか?

 実態と異なる解雇処理を行うことは、後日の不当解雇主張に根拠を与えることになるため、原則として応じるべきではありません。離職票の離職理由については、実態に即した記載を行うことが重要です。具体的な対応は使用者側弁護士に相談してください。

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最終更新日:2026年5月10日

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