労働問題1022 問題社員への対応マニュアルとして、会社が準備すべきことを教えてください
この記事の要点
|
✓
|
「事実」の記録が問題社員対応の土台——評価・感想ではなく5W1Hで具体的に記録する 「勤務態度が悪い」は評価。「○月○日○時頃、○○の場面で社員Aが○○と発言した」が事実。事実の記録なしには懲戒処分も退職勧奨も成功しない |
|
✓
|
注意指導→書面での厳重注意→懲戒処分の順序を守る——いきなり解雇・退職勧奨は危険 懲戒処分の積み重ねなしにいきなり解雇・退職勧奨に動くと、失敗した時に手の打ちようがなくなる。段階的な対応が会社を守る |
|
✓
|
懲戒処分は書面で交付する——口頭でやった懲戒処分は「やっていない」と争われる 懲戒処分通知書は必ず書面で交付しPDFで保存。口頭だけでは「受けていない」「そんな話は聞いていない」と後で争われるリスクが高い |
|
✓
|
自力で対応しようとしない——問題社員対応に特化した弁護士と連携することが最善 ひな型・書式を買っても当社の事案に当てはめられない。問題社員対応を専門とする弁護士にこまめに相談しながら進めることで成功率が大幅に上がる |
目次
1. 問題社員対応マニュアルの大前提——「事実の記録」から始める
問題社員対応で最も大切な基本は、「事実」を5W1Hで具体的に記録することです。
「勤務態度が悪い」「仕事ができない」「嘘をつく」——これらはすべて「評価」です。評価だけでは、注意指導も懲戒処分も「感情で言っている」「嫌いだからそう言っている」と受け取られ、労働審判や訴訟で会社が不利になります。
「評価」と「事実」の違い
| ❌ 評価(NG) | 「勤務態度が悪い」「仕事が遅い」「やる気がない」 |
| ✅ 事実(OK) | 「○年○月○日○時頃、会議室で、上司Bが指示した業務について、社員Aが○○と発言し、指示に従わなかった」 |
問題社員対応で行き詰まっている会社の多くは、いつどこで何があったのかを具体的に説明できないことが多いです。相談を受けた際に「何があったんですか?」と聞いても、「態度が悪くて本当に困っているんです」という答えしか返ってこないケースが珍しくありません。事実を記録する習慣こそが、問題社員対応の最初の準備です。
2. STEP1:口頭での注意指導——まず改善を促す
問題行動が発生したら、まず口頭で注意指導を行います。この段階でのポイントは以下の通りです。
口頭指導のポイント
- 早い段階で行う——問題が軽い段階での指導が最も効果的。エスカレートしてから動くと手遅れになりやすい
- 立ち話ではなく会議室で行う——改まった雰囲気の中でしっかり伝えることで、重みが伝わる
- 具体的事実を伝える——「最近態度が悪い」ではなく「○日の○○の件について、○○は問題がある」と伝える
- 指導内容を記録しておく——日時・場所・出席者・内容を記録に残す(上司へのメール報告も有効)
3. STEP2:書面での注意指導——厳重注意書を交付する
口頭での注意指導をしても改善が見られない場合、次は「厳重注意書」などの書面で注意指導を行います。
書面による注意指導には2つの効果があります。一つは本人への改善意識の強化、もう一つは証拠としての機能です。後の労働審判や訴訟の場では「注意指導を受けたことはない」という主張が相手側から必ず出てきます。書面があれば「受け取っていない」と言わせない証拠になります。
厳重注意書のポイント
- 5W1Hを意識した具体的事実を記載する
- 就業規則の何条に違反するかを明示する
- 本人に交付した後、PDFで保存する
- 交付した日時・状況・やり取りをメールで上司・顧問弁護士に報告しておく
- 本人から事情説明書を提出させることも有効(提出した書面自体が証拠になる)
4. STEP3:懲戒処分——書面での通知が必須
注意指導を重ねても改善が見られない場合、懲戒処分に進みます。戒告・減給・出勤停止など、問題の程度に応じて段階的に行うことが原則です。
懲戒処分において最も重要なのは、懲戒処分通知書を必ず書面で作成・交付することです。口頭での懲戒処分は「やっていない」「聞いていない」と後で争われるリスクが高く、証拠として機能しません。
懲戒処分でよくある失敗
- 事実が抽象的・評価的で「なぜこの処分なのか」が分からない懲戒処分通知書を作成してしまう
- 「始末書」を取ることを懲戒処分と勘違いしている(始末書は懲戒処分の一種だが、就業規則の規定次第で別の問題が生じる)
- 問題が大きくなってからアリバイ作りとして懲戒処分を行う——早期の懲戒処分から逃げた結果として後から行うのは本末転倒
- いきなり重すぎる懲戒処分を行い、無効と判断されてしまう
懲戒処分に慣れていない会社でも、問題社員対応を毎日行っている弁護士に相談しながら進めれば、適切な処分の種類・重さ・書面の内容を決めることができます。自力でやろうとして失敗する前に、弁護士に相談してください。
5. STEP4:退職勧奨・解雇——最終手段として検討する
懲戒処分を重ねても問題行動が改善しない場合、最終的な手段として退職勧奨または解雇を検討します。
この段階に至るまでに注意指導・懲戒処分がしっかり積み重なっていれば、退職勧奨の説得力が増し、相手も合意退職に応じやすくなります。また、解雇が有効と判断される可能性も高まります。
懲戒処分なしにいきなり退職勧奨・解雇に動くのが最も危険なパターンです。断られた・無効とされた場合に全く手の打ちようがなくなり、問題社員が社内に居続けることになるからです。
6. 会社が日頃から準備しておくべきこと
| 問題社員対応のための平時の準備リスト | |
| 就業規則の整備 | 懲戒事由・懲戒の種類・手続きが明確に定められているか確認する。古い就業規則のまま放置しているケースが多い |
| 問題行動の記録習慣 | 問題行動があった都度、日時・場所・内容を記録しておく。上司がメールで記録を報告・保存する体制を作る |
| 人事評価の記録 | 能力不足の社員については、何ができて何ができないかを具体的に記録した人事評価を蓄積しておく |
| 弁護士との顧問契約 | 問題が起きてから探すのでは遅い。問題社員対応に特化した弁護士と事前に顧問関係を作っておくことで、早期・低コストの対応が可能になる |
7. まとめ
- 事実の記録から始める——評価ではなく5W1Hで具体的に記録する
- 口頭指導→書面指導→懲戒処分の順序を守る——いきなり解雇・退職勧奨は危険
- 懲戒処分は必ず書面で——口頭だけでは証拠にならない
- 就業規則・人事評価・記録の整備を平時から行う
- 自力で対応しようとせず、問題社員対応専門の弁護士と連携する
SUPERVISOR
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、団体交渉、労働組合対応、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。団体交渉対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. うちは小さい会社で懲戒処分なんてやったことがありません。今からでも始められますか?
A. もちろん始められます。懲戒処分を行ったことがない会社でも、就業規則に懲戒規定があれば実施できます。就業規則がない・不備がある場合は整備から始めましょう。やり方が分からない場合は弁護士に相談してください。懲戒処分に慣れていない会社が自力でやろうとすると失敗しやすいため、最初の1件から弁護士と一緒に進めることを強くお勧めします。
Q2. 注意指導の記録はどのように残せばよいですか?
A. 最も簡単な方法は、指導を行った後に内容・日時・場所・出席者を記載した報告メールを上司や顧問弁護士に送ることです。メールのタイムスタンプが証拠になります。書面での注意指導(厳重注意書等)を行った場合は、PDFに保存した上で交付状況を記録してください。特別に複雑なシステムは不要で、日々のメール報告習慣から始めることができます。
最終更新日:2026年5月7日