労働問題28 普通解雇の有効性が争われやすい場面とは?試用期間・能力不足・傷病解雇を会社側弁護士が解説

この記事の要点

普通解雇の有効性が争われる場面は類型化されています。最も多いのは試用期間中の本採用拒否であり、能力不足・勤務態度不良・傷病解雇も紛争になりやすい類型です。

 裁判例を見ると、普通解雇の有効性が争われるケースは、①試用期間中の本採用拒否、②能力不足・適格性欠如を理由とした解雇、③勤務態度不良・業務命令違反を理由とした解雇、④傷病による就労不能を理由とした解雇、という類型に大きく集約されます。類型ごとのリスクと必要な対策を理解しておくことが重要です。

最多:試用期間中の本採用拒否(解雇)をめぐる紛争

 裁判例上最も多く争われているのは試用期間中の本採用拒否です。通常の解雇より低いハードルとされますが、客観的合理的理由と社会通念上の相当性は必要です。


能力不足・勤務態度不良・傷病も争われやすい類型

 いずれも立証の難しさと、注意指導・改善機会の付与という事前対応の充実度が有効性を左右します。


いずれの類型でも事前の記録と弁護士への相談が不可欠

 解雇の類型にかかわらず、日常的な記録の積み重ねと、解雇前の弁護士への相談が、有効な解雇を実現する上で最も重要な実務上の対策です。

1. 最多類型:試用期間中の本採用拒否をめぐる紛争

なぜ試用期間中の本採用拒否が最も多く争われるか

 普通解雇の有効性が争われた裁判例を見ると、試用期間中の本採用拒否(解雇)が有効かどうかという問題として争われるケースが非常に多く存在します。その理由は、試用期間という制度の性格と、経営者の誤解にあります。

 試用期間は、採用した社員の適格性を一定期間観察・評価するための期間です。最高裁判所は三菱樹脂事件(昭和48年12月12日大法廷判決)において、試用期間中の本採用拒否は通常の解雇よりも広い範囲で認められるとしつつも、「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」でなければならないと判示しています。

 つまり、試用期間中であっても自由に解雇できるわけではありません。「試用期間中だから大丈夫」という誤解のもとで適切な手順を踏まずに本採用拒否をした結果、紛争に発展するケースが実務上非常に多く見られます。

試用期間中の本採用拒否で求められる対応

 試用期間中の本採用拒否を有効に行うためには、試用期間中に問題となった事実を具体的に把握・記録しておくことが不可欠です。「なんとなく合わない」「印象が悪い」といった主観的な評価だけでは、客観的合理的理由の証明ができません。また、問題が判明した時点で早期に対応することが重要です。試用期間満了直前や満了後に問題を持ち出すと、「なぜもっと早く言わなかったのか」という反発が生じやすくなります。

2. その他の紛争になりやすい類型

②能力不足・適格性欠如を理由とした解雇

 採用時に期待した能力を発揮できない・職務遂行能力が著しく低いといった能力不足を理由とした解雇は、紛争になりやすい類型の一つです。能力不足解雇が難しい主な理由は次の3点です。

 第一に、能力不足の客観的証明が難しいことです。「仕事ができない」という評価は主観的になりがちであり、具体的な数値・記録・他の社員との比較など、客観的証拠による裏付けが必要です。第二に、注意指導・教育機会の提供・配置転換の検討など、改善のための措置を尽くしたことを示す必要があります。第三に、「解雇しなければならないほど」の重大性・深刻性が求められます。単に業績が平均以下というだけでは不十分で、業務の遂行に重大な支障が生じていることが必要です。

③勤務態度不良・業務命令違反を理由とした解雇

 遅刻・無断欠勤の常習、業務命令への繰り返しの違反などを理由とした解雇も紛争になりやすい類型です。この類型では、注意指導の記録が特に重要です。「何度も口頭で注意した」という事実だけでは、書面による記録がなければ「指導した」という主張が認められにくくなります。注意指導書・警告書・面談記録などの書面証拠を積み重ねた上で、それでも改善されなかったという経緯を示せることが、解雇の有効性を支える根拠となります。

④傷病による就労不能を理由とした解雇

 傷病(身体疾患・精神疾患)により就労が不可能または著しく困難な状態が続く場合の解雇も、紛争になりやすい類型です。この類型では、安全配慮義務への配慮・就業規則の休職制度の適用・医師の診断書・産業医の意見など、医学的な確認プロセスを経ていることが特に重要です。休職制度がある場合は休職期間を経た上での解雇でなければ、解雇の有効性が認められにくくなります。また、傷病が業務起因性を持つ場合(業務上の傷病)は、療養中の解雇が法律上禁止される場合があります(労働基準法19条)ので、特に注意が必要です。

✕ よくある経営者の誤解

「試用期間中だから自由に解雇できる」→ 誤りです。
 試用期間中の本採用拒否も「解雇」であり、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(最高裁・三菱樹脂事件参照)。通常の解雇より広い範囲で認められるとされていますが、自由に解雇できるわけではありません。

「病気で長期休んでいるから当然解雇できる」→ 注意が必要です。
 就業規則に休職制度がある場合は休職期間満了を経ることが必要です。また、業務上の傷病による休業中は、労働基準法19条により解雇が禁止されます。傷病を理由とした解雇は医学的確認プロセスと就業規則の確認が不可欠です。

 どの類型の解雇を検討する場合でも、解雇前の弁護士への相談が解雇無効リスクを最小化する最善の対策です。試用期間中の本採用拒否についても、お気軽にご相談ください。→ 経営労働相談はこちら

3. 実務上の対策:類型を問わず共通して必要なこと

どの類型でも共通する3つの実務上の対策

 普通解雇の類型にかかわらず、有効な解雇を実現するために共通して必要な実務上の対策は次の3点です。

 ①日常的な記録の積み重ね:問題行動・注意指導・本人の応答・その後の経過を、その都度書面化・記録化しておくことが、解雇の客観的合理的理由を証明するための最も重要な基盤となります。

 ②改善の機会を与えてから解雇する:いきなり解雇するのではなく、注意指導・改善期限の設定・教育機会の提供などのプロセスを経ることが、社会通念上の相当性を支える上で不可欠です。

 ③解雇前に弁護士に確認する:具体的な事案の状況が解雇の有効性要件を満たしているかどうかは、個別の事情によって大きく異なります。解雇を実行する前に、会社側の労働問題に精通した弁護士に確認することが、解雇無効リスクを最小化する最善の対策です。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

 紛争になりやすい解雇事案でよく見られるのは、次のようなパターンです。

・「試用期間中だから大丈夫と思い、書面での記録なしに本採用拒否をした。労働審判で解雇無効と判断された」

・「メンタル疾患で休んでいる社員を休職制度を適用せずに解雇した。業務上の傷病に該当するかどうかの確認もしておらず、解雇禁止規定(労基法19条)違反を主張された」

 いずれも、解雇前の弁護士への相談で防ぐことができたケースです。

4. まとめ

 普通解雇の有効性が争われる場面は、①試用期間中の本採用拒否、②能力不足・適格性欠如、③勤務態度不良・業務命令違反、④傷病による就労不能、という類型に集約されます。裁判例上最も多く争われているのは試用期間中の本採用拒否です。いずれの類型においても、日常的な記録の積み重ね・改善機会の付与・解雇前の弁護士への確認という3点が、有効な解雇を実現するための共通した実務上の対策です。解雇を検討している場合は、早めに会社側の労働問題に精通した弁護士にご相談ください。

 

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最終更新日 2026/04/05

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