労働問題24 解雇権を濫用するとどうなる?地位確認・バックペイのリスクを会社側弁護士が解説






この記事の要点

解雇権を濫用すると解雇は無効となり、地位確認・バックペイという重大な経営リスクが生じます。紛争が長引くほど金銭的負担は膨らみます。

 解雇権を濫用した場合、解雇は無効となります(労働契約法16条)。解雇が無効と判断されると、解雇された社員の在職が法的に確認されるとともに、実際には働いていない解雇期間中の賃金支払い(バックペイ)が命じられます。紛争が長期化するほど未払賃金の総額が膨らむという点が、会社経営者にとって最も深刻なリスクです。

解雇権濫用の効果:解雇は無効(労働契約法16条)

 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は、その権利を濫用したものとして無効となります。


解雇無効の場合に会社が直面する2つのリスク

 ①解雇したはずの社員の在職が法的に確認される(地位確認)、②実際には働いていない期間の賃金支払いが命じられる(バックペイ)という、深刻な経営上のリスクが生じます。


紛争が長期化するほどバックペイの総額が膨らむ

 解雇無効の争いは労働審判・訴訟に発展することがあり、解決まで数年かかるケースもあります。その間の賃金全額が未払賃金として積み上がります。

1. 解雇権濫用の法的効果:解雇は無効となる

労働契約法16条の規定

 解雇権を濫用した場合の法的効果は、解雇の無効です。労働契約法16条は次のように規定しています。

労働契約法16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 この規定により、①客観的に合理的な理由を欠く解雇、または②社会通念上相当でない解雇は、解雇権の濫用として無効とされます。無効とは、法的にはその解雇が最初から存在しなかったのと同様の効果が生じるということです。

解雇無効が会社にもたらす2つの深刻なリスク

 解雇が無効と判断されると、会社は次の2つの重大なリスクに直面します。

 ①地位確認請求:解雇されたはずの社員が、労働審判や訴訟において「解雇は無効であり、自分はまだ在職中だ」として地位確認を求めることができます。地位確認が認められれば、法的には雇用関係が継続していることが確認されます。

 ②バックペイ(解雇期間中の賃金支払い):解雇が無効と判断された場合、実際には働いていない解雇期間中(解雇日の翌日から判決・和解成立日まで)の賃金全額の支払いが命じられます。これが会社にとって最も深刻な経済的打撃となります。

2. バックペイの深刻さ:長期化するほど膨らむ未払賃金

バックペイはなぜ会社にとって深刻か

 解雇が無効と判断された場合のバックペイは、解雇日の翌日から判決・和解成立日まで、毎月の賃金全額が継続して発生します。例えば、月給30万円の社員を解雇して、2年間争った末に解雇無効と判断された場合、バックペイとして720万円(30万円×24か月)の支払いが命じられることになります。

 労働審判は申立てから解決まで概ね3か月程度ですが、審判に異議を申し立てて訴訟に移行した場合や、訴訟から始まった場合は1年以上かかるケースも珍しくありません。紛争が長期化するほど未払賃金の総額が膨らみ続けるという点が、会社経営者にとって最も警戒すべき点です。

中間収入の控除:バックペイが減額されるケース

 なお、解雇期間中に当該労働者が他の仕事に就いて収入を得ていた場合(中間収入)、その収入額の一部をバックペイから控除できる場合があります。ただし、控除できる範囲は民法536条2項の規定に基づき限定されており、中間収入があれば全額控除できるわけではありません。この点の判断は複雑であるため、弁護士に相談することをお勧めします。

✕ よくある経営者の誤解

「解雇が無効になっても、その社員は実際に働いていないのだから賃金は払わなくていい」→ 誤りです。
 解雇が無効と判断された場合、会社が就労を拒否していた(受領遅滞)と評価され、労働者が実際に働いていない期間の賃金全額の支払いが原則として命じられます。「働いていないから払わなくていい」という理屈は通りません。

「解雇が無効になったとしても、元の職場に戻ってくることはないだろう」→ 甘い認識です。
 解雇無効が確定した場合、社員が職場復帰を求めてくるケースは実際にあります。復帰を拒否し続けることは新たなリスクを生みます。解雇無効の状況への対応は、弁護士と連携して慎重に進める必要があります。

 解雇を検討している場合は、事前に解雇の有効性について弁護士に確認することが、バックペイリスクを回避する上で最も重要な対策です。解雇後に問題が生じた場合も、早急にご相談ください。→ 経営労働相談はこちら

3. 解雇無効後の実務対応:会社としての選択肢

解雇無効後に会社が直面する状況

 解雇が無効と確定した場合、会社は法的には雇用関係が継続していることを前提に対応する必要があります。社員から職場復帰を求められるケースや、バックペイの支払い・金銭解決を求めて交渉が続くケースなど、様々な状況が生じます。

解雇無効を避けるための予防策が最重要

 解雇無効後の対応は、いずれの方向をとっても会社に相当の負担が生じます。最も重要なのは、解雇を行う前の段階で解雇の有効性を慎重に検討し、解雇権濫用のリスクを排除しておくことです。具体的には、①解雇前に十分な注意指導を行い記録を残すこと、②就業規則の解雇事由に該当することを確認すること、③解雇権濫用法理の2要件(客観的合理的理由・社会通念上の相当性)を満たすかどうかを事前に弁護士に確認することが有効です。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

 解雇無効をめぐるご相談でよく見られるのは、次のようなパターンです。

・「解雇してから1年半後に労働審判で解雇無効と判断され、540万円のバックペイを支払うことになった。事前に弁護士に相談していれば防げた」

・「解雇無効が確定したが職場復帰を受け入れることができず、金銭和解の交渉になった。最終的に相当額の解決金を支払うことになった」

 いずれも、解雇前の段階での弁護士への相談が、最終的な損害を大幅に減らすことができたケースです。

4. まとめ

 解雇権を濫用すると、解雇は無効となります(労働契約法16条)。解雇が無効と判断された場合、解雇したはずの社員の在職が法的に確認されるとともに、実際には働いていない解雇期間中の賃金全額(バックペイ)の支払いが命じられます。紛争が長期化するほどバックペイの総額は膨らみ続けるため、会社経営者にとって解雇権濫用は避けるべき最重要リスクのひとつです。解雇を検討している場合は、必ず事前に会社側の労働問題に精通した弁護士にご相談ください。

 


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最終更新日 2026/04/05


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