労働問題127 退職勧奨で「解雇にしてほしい」と言われたら?失業手当の受給条件と会社のリスク
本記事の結論
● 退職勧奨による離職は、雇用保険法上の「特定受給資格者」に該当し、失業手当で解雇と同等の優遇を受けられます。
● 実態が合意退職であるにもかかわらず、安易に名目を「解雇」にする必要はなく、むしろ会社にとっては法的リスクを招きます。
● 助成金への悪影響については、解雇でも退職勧奨でも「会社都合」として等しく制限がかかる点に注意が必要です。
● 経営者は労働者の不安に対し、「退職勧奨でも失業手当は即日受給(待機期間後)が可能である」ことを明確に伝えるべきです。
目次
1. なぜ労働者は「解雇にしてほしい」と求めるのか
退職勧奨の場において、労働者から「失業手当の受給条件を良くするために解雇扱いにしてほしい」と頼まれることは少なくありません。この要望の背景には、主に以下の2つの強い不安があります。
- 給付制限期間への不安:自己都合退職の場合、通常2〜3ヶ月の給付制限(無給期間)が発生することを恐れている。
- 給付日数への不安:会社側の事情で辞める場合に比べ、自己都合では失業手当をもらえる総日数が少なくなると考えている。
これらは「一身上の都合」による辞職であれば正しい認識ですが、「退職勧奨」においては、解雇扱いにせずともこれらの懸念は解消されます。
2. 退職勧奨は「特定受給資格者」に該当する
雇用保険制度において、失業手当の受給条件を決定付けるのは「離職理由」です。退職勧奨に応じた離職は、以下の法規定に基づき「特定受給資格者」として扱われます。
「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)により離職した者は、特定受給資格者(雇用保険法23条2項2号)となる。
特定受給資格者に認定されると、解雇された場合と全く同様に、以下の優遇措置が受けられます。
- 即受給可能:7日間の待機期間が経過すれば、給付制限なく受給が開始されます。
- 受給日数の延長:年齢や勤続年数に応じ、自己都合退職よりも大幅に長い受給日数が確保されます。
したがって、労働者のためにあえて「解雇」という法的に不安定な名目を選択する必要性は全くありません。
3. 経営者が「解雇名目」を拒否すべき法的リスク
労働者の願いを聞き入れるつもりで「解雇」扱いにすることは、経営者にとって極めて危険な行為です。以下のリスクを直視する必要があります。
① 解雇権濫用法理による「不当解雇」の証拠になる
一度「解雇」として書類を作成してしまうと、後日、労働者が「実は解雇に納得していなかった」と主張して不当解雇の訴えを起こした場合、会社側は極めて苦しい立場に置かれます。合意があったとしても、「解雇通知書」が存在する以上、裁判所は「客観的合理的理由」や「社会通念上の相当性」を厳しく審査し、会社側が多額の解決金を支払う事態を招きかねません。
② 行政に対する虚偽記載(不正受給の加担)
実態が合意による退職であるにもかかわらず、離職票に「解雇」と記載することは、公文書への虚偽記載にあたります。これが発覚した場合、事業主は雇用保険法に基づき、罰則(懲役または罰金)の対象となるほか、労働者が受け取った給付金の返還について連帯して責任を負わされるリスクがあります。
4. 助成金受給への影響:解雇と退職勧奨の共通点
「解雇でなければ助成金は大丈夫」という認識も誤りです。 雇用調整助成金やキャリアアップ助成金など、多くの労働局系助成金において、受給の要件に「一定期間内に会社都合の離職者がいないこと」が含まれています。
この「会社都合の離職」には、解雇だけでなく「退職勧奨(特定受給資格者の認定を受ける離職)」も含まれます。 つまり、解雇名目にしようが退職勧奨のままであろうが、会社が助成金受給において制限を受ける事実に変わりはありません。経営判断としては、助成金への影響を覚悟した上で、より法的リスクの少ない「退職勧奨(合意退職)」として処理するのが正解です。
5. 実務上のアドバイス:社員への丁寧な説明方法
社員の誤解を解き、円滑に合意を得るためには、面談の際に以下のように伝えることが有効です。
6. まとめ
退職勧奨は、あくまで労働者の自由な意思に基づく「合意」でなければなりません。失業手当の受給を巡る誤解から生じる「解雇にしてほしい」という要求には、丁寧な制度説明をもって対応することが、経営者としての正しい守り方です。
離職票の記載から助成金の影響確認まで、一貫して透明性の高い手続きを進めることが、将来的な法的紛争を防ぐ唯一の道と言えます。⚖️
失業手当と会社都合に関するよくある質問
Q1. 離職票には具体的にどのように記載すればよいですか?
A. 離職理由欄の「3 事業主からの働きかけによるもの」の中の「(2) 希望退職の募集又は退職勧奨」を選択してください。これにより、ハローワークで特定受給資格者として適切に判断されます。
Q2. 社員が「一身上の都合」と書いた退職届を出してきた場合は?
A. 退職勧奨がきっかけである以上、そのまま受理するとハローワークで「自己都合」とみなされトラブルの元になります。退職届には「退職勧奨に応じ、合意退職いたします」という趣旨を明記してもらうのが、双方にとって最も誠実な対応です。
Q3. 「解雇」と嘘をついて離職票を出した場合の罰則はありますか?
A. 雇用保険法に基づき、事業主が虚偽の届け出をした場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(雇用保険法83条)。また、不正受給に関与したとみなされれば、会社も連帯して返還責任を負うことになります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026/3/9
