労働問題95 就業時間外に社外で飲酒運転・痴漢・傷害事件等の刑事事件を起こした社員を懲戒解雇する際の注意点を教えて下さい。
目次
私生活上の刑事事件でも会社の社会的評価に重大な悪影響を与える場合は懲戒処分が可能です。ただし懲戒解雇には厳格な要件があり、業種・職種・行為の性質・態様を総合的に判断する必要があります。
就業時間外の刑事事件を起こしただけで直ちに懲戒解雇できるわけではありません。本人の否認がある場合・悪影響が軽微な場合は、より軽い懲戒処分から始め、次の違反に備えた警告書・始末書を取得することが実務上有効です。
■ 私生活上の行為でも会社規制が及ぶ場合がある(日本鋼管事件最高裁判決)
会社の社会的評価に重大な悪影響を与える行為には、私生活上であっても会社の規制を及ぼすことができます。
■ 懲戒解雇は厳格判断——業種・職種・行為態様の総合考慮が必要
悪影響が「相当重大」であることを客観的に評価できる事実と証拠が必要。軽微な場合は軽い処分から段階的に対応します。
■ 退職金不支給・減額は「勤続の功を抹消するほどの背信性」が基準
懲戒解雇が有効でも退職金の全額不支給が認められるとは限りません(小田急電鉄事件:30%支払命令)。
1. 私生活上の行為に対する懲戒処分の可否
日本鋼管事件最高裁判決の考え方
そもそも、私生活上の行為を理由として懲戒処分に処することができるかが問題となりますが、「営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない」(日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決)と考えられています。
懲戒処分に必要な2要件
もっとも、就業時間外に社外で社員が刑事事件を起こしただけで直ちに懲戒処分に処することができるわけではなく、①社員の言動が懲戒事由に該当すること、②当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められること(労契法15条)、等が必要となります。
また、本人が犯行を否認しており、犯罪が行われたかどうかが明らかではない場合は、犯行があったことを前提に懲戒処分をすることはリスクが高くなります。懲戒処分は証拠から認定できる事実に基づいて行ってください。
2. 懲戒解雇の判断基準——日本鋼管事件の考慮要素
「会社の社会的評価に相当重大な悪影響」が必要
懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分は紛争になりやすく、その効力は厳格に判断される傾向にあります。会社の社会的評価を若干低下させたというだけでは不十分であり、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価することができるような事実を証拠により認定できる必要があります。
日本鋼管事件最高裁判決は、「当該行為の性質・情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、当該行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に該当するかどうかを検討しています。
業種・職種による認められやすさの違い
タクシーやバスの運転業務に従事している社員が飲酒運転した場合や、電鉄会社社員等、痴漢を防止すべき立場にある者が痴漢した場合は、一般的には懲戒解雇が有効とされやすい傾向にあります。これらは業務との直接的な関連性・会社の社会的評価への影響が大きいためです。
3. 実務上の段階的対応と警告書・始末書の活用
懲戒解雇リスクがある場合は軽い処分から始める
懲戒解雇が無効とされるリスクがある事案については、より軽い懲戒処分にとどめた方が無難なことも多いところです。結果として、社員が自主退職することもあります。
最初に刑事事件を起こした際に懲戒解雇を回避してより軽い懲戒処分をする場合は、書面で、次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇する旨の警告をするか、次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇されても異存ない旨記載された始末書を取っておくとよいでしょう。これがあれば万全というわけではありませんが、同種事犯を犯した場合の懲戒解雇が有効となりやすくなります。
✕ よくある経営者の誤解
「私生活上のことだから会社は処分できないはず」→ 誤りです。
会社の社会的評価に重大な悪影響を与える行為は、私生活上であっても懲戒処分の対象となり得ます(日本鋼管事件最高裁判決)。
「刑事事件を起こしたのだから、即懲戒解雇して当然だ」→ 慎重な判断が必要です。
懲戒解雇の有効性は業種・職種・行為の性質・態様・悪影響の程度等を総合的に判断します。軽微な場合や否認がある場合は、無効リスクを十分に検討してから判断することが必要です。
4. 懲戒解雇と退職金——不支給・減額の合理性
退職金不支給・減額の要件
懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として就業規則等に規定しておけば、当該個別事案において退職金不支給・減額の合理性がある場合には、退職金を不支給または減額したり、支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。
退職金の不支給・減額事由の合理性の有無は、労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)または減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうかにより判断されます。
小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日判決)
懲戒解雇が有効であっても、労働者のそれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為がない場合は、本来の退職金の支給額の一部の支払が命じられることがあります。小田急電鉄(退職金請求)事件東京高裁平成15年12月11日判決は、鉄道会社の従業員が私生活上で行った電車内の痴漢行為を理由とする懲戒解雇は有効と判断されましたが、それまでの勤続の功を抹消するほどの強度の背信性を持つ行為であるとまではいえないとして、本来の退職金の支給額の30%の支払を命じています。
5. まとめ
就業時間外の刑事事件を理由とした懲戒解雇は、①就業規則の懲戒事由への該当、②客観的合理的理由と社会通念上の相当性の確認が必要です。会社の社会的評価に重大な悪影響を与える場合に限り処分が可能であり(日本鋼管事件最高裁判決)、業種・職種・行為の性質・態様を総合的に判断します。懲戒解雇リスクが高い事案では、軽い処分から段階的に対応し、警告書・始末書を取得しておくことが有効です。退職金の不支給・減額は、勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為があるかどうかで判断され、懲戒解雇が有効でも全額不支給が認められるとは限りません。具体的な対応については早めに弁護士に相談することをお勧めします。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05