労働問題707 労働審判の期日変更はできる?認められる「顕著な事由」と会社側の対応実務

 

この記事の結論

期日変更は「例外的な措置」と考えるべきです

 労働審判は、迅速な解決を図るために極めてタイトなスケジュールで進行します。裁判官、労働審判員2名、そして当事者双方の5名以上が立ち会う必要があるため、一度指定された期日の変更は「顕著な事由」がない限り原則として認められません。

  • 日程調整の難しさ: 2名の民間専門家(労働審判員)が参加するため、再調整が極めて困難です。
  • 「顕著な事由」が必要: 単なる多忙ではなく、物理的に出席不可能な、やむを得ない事情が求められます。
  • 空転回避の判断: 出席なしでは審理が成り立たないと裁判所が判断した場合に限り、変更が検討されます。

1. なぜ労働審判の期日変更は難しいのか

 労働審判における期日変更は、通常の訴訟と比べて極めてハードルが高く、原則として認められない例外的な措置と位置付けられています。その背景には、制度の迅速性と手続構造上の制約があります。

 まず、労働審判は短期間での解決を目的としており、あらかじめ厳格なスケジュールで進行することが制度として予定されている点が重要です。期日の変更を安易に認めてしまえば、この迅速性が損なわれることになります。

 さらに、労働審判の期日には、裁判官に加えて、労働関係の実務に精通した労働審判員2名(民間専門家)が参加する合議体が構成されます。当事者双方や代理人を含めると、複数名の予定を同時に調整する必要があり、一度決定された日程の再調整は実務上極めて困難です。

 このため、期日変更が認められるためには、単なる業務上の都合では足りず、出席が物理的に困難であるといえる「顕著な事由」が必要とされます。

 会社経営者としては、「都合が悪ければ変更できる」という前提ではなく、指定された期日に合わせて対応体制を整えることが原則であると理解することが重要です。

2. 期日変更が検討されるケースと例外的な対応

 もっとも、労働審判の期日変更が一切認められないわけではなく、例外的に変更や調整が検討される場面も存在します。ただし、その判断は厳格であり、通常の業務上の都合では足りず、手続の進行に重大な支障が生じる場合に限られます。

審理の空転を避けるための変更

 期日変更が例外的に検討される典型的な場面が、そのまま期日を実施しても審理が実質的に進行しない、いわゆる「空転」が明らかな場合です。

 例えば、当事者本人や重要な参考人がやむを得ない事情により出頭できず、その結果、事実関係の確認や主張の整理ができない状況では、期日を開催しても実質的な審理が成立しません。

 このような場合には、無理に期日を実施するよりも、適切な審理を確保する観点から、例外的に期日の変更が認められる可能性があります。

 もっとも、この判断はあくまで裁判所の裁量によるものであり、単に一方当事者の都合だけでは足りません。審理の実効性に重大な支障が生じるかどうかという観点から厳格に判断されます。

 会社経営者としては、「出席できないから変更される」という発想ではなく、出席できない場合に審理自体が成立しないレベルかどうかが判断基準となることを理解しておくことが重要です。

労働審判員の交替

 期日変更が困難な場合でも、例外的に別の方法で調整が図られることがあります。その一つが、労働審判員の交替による対応です。

 労働審判では、裁判官に加えて2名の労働審判員が関与しますが、これらの審判員は本業を持ちながら参加しているため、日程調整が難航することがあります。特に、第1回期日の指定前の段階で、全員の予定が長期間一致しない場合には、期日を大幅に遅らせることは制度趣旨に反します。

 そのため、一定の場合には、期日を維持したまま、審判員の構成を変更することで迅速な審理を確保するという対応が取られることがあります。

 会社経営者としては、期日が合わない場合に単純に延期されるとは限らず、別の形で手続が進行する可能性があることを理解しておく必要があります。したがって、日程調整の問題についても、早期に状況を把握し、適切な対応を検討することが重要です。

3. 期日変更にともなう「答弁書提出期限」の扱い

 労働審判の第1回期日が変更された場合、会社経営者として気になるのが、答弁書の提出期限がどのように扱われるかという点です。

 この点については、明確な一律ルールが存在するわけではなく、裁判所が個別具体的な事情を踏まえて判断する運用がとられています。すなわち、単に期日が後ろにずれたからといって、当然に提出期限も延長されるとは限りません。

 裁判所は、会社側が申立内容を十分に検討し、適切な答弁書を作成するための準備期間が確保されているかどうかを重視します。したがって、既に十分な準備期間が与えられていると判断される場合には、提出期限が維持される可能性もあります。

 会社経営者としては、期日変更により時間的余裕が生じると安易に考えるのではなく、答弁書の準備は当初のスケジュールを前提に進めるべきであると認識することが重要です。

 したがって、期日変更の有無にかかわらず、早期に答弁書作成へ着手し、余裕をもって提出できる体制を整えることが、実務上の適切な対応となります。

4. 会社経営者が取るべきリスク管理

 労働審判の期日変更が極めて限定的であることを踏まえると、会社経営者に求められるのは、変更を前提としないリスク管理と初動対応です。指定された期日を基準に、どのように対応体制を整えるかが、結果を大きく左右します。

優先順位の確保

 労働審判の期日は、会社経営に直接影響を及ぼす重要な手続である以上、他の業務に優先して対応すべき事項として位置付ける必要があります。

 実務上は、「重要な会議がある」「出張が重なっている」といった理由で日程変更を検討したくなる場面もありますが、これらは通常、期日変更が認められる理由には該当しません。その結果、対応が不十分なまま期日を迎えることになれば、会社にとって重大な不利益につながるおそれがあります。

 したがって、会社経営者としては、呼出状を受け取った時点で、当該期日を最優先事項としてスケジュールを再調整する判断が求められます。必要に応じて他の業務を後ろ倒しにするなど、全社的な調整を行うことも検討すべきです。

 このように、労働審判への対応は単なる法務対応ではなく、経営上の重要課題として優先順位を明確にすることが、適切なリスク管理の出発点となります。

直ちに適任の弁護士へ連絡

 労働審判の呼出状を受領した時点で、会社経営者として最優先で行うべき対応の一つが、労働問題に精通した弁護士への速やかな連絡です。

 労働審判は短期間で進行するため、対応の遅れはそのまま主張や証拠の準備不足につながります。特に第1回期日までの期間は限られており、初動段階から専門的な視点で事案を整理することが不可欠です。

 また、期日の出席可否や代理人対応の可否についても、法律的・実務的な判断が必要となるため、早期に弁護士へ情報を共有することで、最適な対応方針を迅速に決定することが可能となります。

 会社経営者としては、「必要になったら相談する」のではなく、呼出状を受け取った段階で直ちに相談することが前提であると認識することが重要です。これにより、限られた時間の中でも、質の高い防御対応を構築することができます。

 労働審判は初動が結果を左右する手続です。当事務所では、会社経営者の立場に立ち、迅速かつ戦略的な対応をサポートしています。お困りの際は、早期にご相談いただくことをお勧めします。

代理人対応の検討

 会社経営者本人が期日に出席できない場合であっても、適切な代理人を選任することで手続への対応を維持することが可能です。労働審判では、出頭の有無が審理の進行や評価に大きく影響するため、何ら対応しないという選択は極めてリスクが高いといえます。

 特に、労働問題に精通した弁護士を代理人として選任することで、会社側の主張や証拠を適切に提示し、期日における対応を専門的に遂行する体制を整えることができます。これにより、会社経営者が出席できない場合でも、実質的な防御を確保することが可能となります。

 また、代理人が関与することで、期日前の準備から当日の対応まで一貫した戦略を構築でき、主張の一貫性や説得力を高める効果も期待できます。

 会社経営者としては、出席の可否にかかわらず、代理人を中心とした対応体制を早期に構築することが、リスクを最小限に抑えるための重要な判断となります。

期日変更に関するよくある質問

Q1. 重要な出張と労働審判の期日が重なりました。変更はできますか?

A1. 労働審判の期日変更は、通常の訴訟に比べて非常に困難です。当事者双方だけでなく、2名の労働審判員を含めた調整が必要なため、「顕著な事由」がある場合に限定されます。単なる業務上の都合では認められないケースが多いため、早急に弁護士へ相談し、代理人出席などの検討が必要です。

Q2. 期日が変更になった場合、答弁書の提出期限も延びますか?

A2. 裁判所が個別に判断します。相手方(会社側)が充実した答弁書を作成するために必要な期間が確保されているか等を考慮した上で、適宜判断されることになります。

Q3. 労働審判員と予定が合わない場合はどうなるのでしょうか?

A3. 第1回期日の前において、労働審判員との日程調整がつかず、数か月先まで全員の予定が合わないような極端なケースでは、労働審判員を交替して対応することも検討されます。

 

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最終更新日 2026/03/19

 

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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 弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

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