この記事の結論
「普通郵便だから」と放置するのは、経営上最大の禁物です
労働審判の呼出しは、迅速な解決のために「簡易呼出し」という方法で行われます。たとえ書留でなくても、裁判所からの通知が手元に届いた時点で、会社は40日以内の決戦に向けた準備を開始しなければなりません。
- ● 相手方(会社)には普通郵便: 簡易呼出しが通常であり、呼出状がポストに投函されます。
- ● 「期日請書」の役割: 受領を認める書類ですが、未提出でも「制裁」が下せないだけで手続き自体は止まりません。
- ● 無視のリスク: 出頭しない場合、過料の制裁だけでなく「一方的な敗訴」に等しい審判を下されるリスクがあります。
1. 労働審判手続における「簡易呼出し」の仕組み
労働審判の呼出しは、通常の裁判とは異なり、迅速な手続進行を最優先とした「簡易呼出し」という方法で行われます。そのため、会社経営者のもとには、特別送達ではなく普通郵便で呼出状が届くのが一般的です。
申立人(労働者側)への呼出し
申立人である労働者に対しては、裁判所が一方的に期日を指定するのではなく、事前に電話等で日程調整を行ったうえで、第1回期日が決定されるのが通常です。
すなわち、労働者側については、出席可能な日程を確認したうえで期日が設定されるため、原則として出頭が前提となる形で手続が組み立てられています。
会社経営者としては、この点を踏まえ、期日が既に相手方の都合を考慮して設定されている以上、当日の審理は実質的な議論が行われることを前提に進行すると理解しておくことが重要です。
相手方(会社側)への呼出し
一方、相手方である会社に対しては、確定した期日を記載した呼出状が、郵便によって送付される「簡易呼出し」が実務上の原則となっています。
通常の民事訴訟では、特別送達という厳格な方法で書類が届くことが多いため、普通郵便で裁判所からの通知が届くことに戸惑う会社経営者も少なくありません。しかし、これは手続の軽視ではなく、労働審判の迅速性を確保するために採られている制度的な運用です。
重要なのは、送達方法が簡易であるからといって、法的な効力が弱いわけではないという点です。呼出状が手元に届いた時点で、会社としては正式に手続への対応が求められている状態にあります。
したがって、「普通郵便だから重要ではない」と判断することは極めて危険であり、会社経営者としては、受領した時点で直ちに対応を開始すべき重要な通知であると認識する必要があります。
2. 「期日請書」の提出と不出頭によるペナルティ
簡易呼出しによって期日が通知された場合、会社経営者として次に問題となるのが、「期日請書」の提出と期日への対応です。これらは形式的な手続に見えるものの、実務上は出頭義務やリスクと密接に関わる重要なポイントとなります。
期日請書を提出しない場合のリスク
簡易呼出しを受けた当事者は、裁判所に対して「期日請書」を提出することが求められますが、実務上、この書面を提出しなかったとしても、直ちに手続が停止するわけではありません。
また、期日請書が提出されていない場合には、正当な理由なく不出頭であっても、過料(5万円以下)の制裁を課すことができないとされています。この点だけを見ると、「提出しなくても大きな問題はない」と誤解されがちです。
しかし、会社経営者として注意すべきは、これはあくまで制裁の可否に関する問題にすぎないという点です。期日請書を提出しないこと自体が手続を止める効果を持つわけではなく、労働審判はそのまま進行します。
したがって、期日請書の未提出を理由に対応を遅らせることは適切ではなく、あくまで期日への対応と防御準備が本質的に重要であると理解する必要があります。
実質的な「敗訴リスク」を伴う
会社側が第1回期日に出頭しない場合、たとえ過料の制裁を受けないとしても、実務上はそれ以上に重大なリスクが生じます。すなわち、会社側の主張や証拠が一切提出されないまま審理が進行するという状況です。
労働審判では、限られた期日の中で心証が形成されるため、会社側が不在のまま期日が行われれば、労働者側の主張を前提とした判断が形成されやすくなります。一度形成された心証は、その後の手続で覆すことが極めて困難です。
その結果、実質的には会社側が反論の機会を失い、一方的に不利な審判が下される可能性が高まります。これは形式的な「欠席」にとどまらず、実態としては敗訴に近い結果を招く重大な経営リスクです。
したがって、会社経営者としては、期日請書の提出の有無にかかわらず、必ず期日に対応し、十分な主張立証を行うことが不可欠であると認識する必要があります。
3. その他の呼出方法(告知等)
労働審判における呼出しは、簡易呼出しが原則ですが、それ以外にも事案の状況に応じて複数の方法が用いられることがあります。いずれも手続の円滑な進行を目的としたものであり、形式にかかわらず法的な効力を持つ点に注意が必要です。
代表的な方法として、前回の期日において次回期日を直接伝える「告知による呼出し」があります。この場合、当事者はその場で次回期日を認識することになるため、改めて郵送による通知を待つことなく、手続への対応が求められます。
また、個別の事情に応じて、裁判所が適切と認める方法により呼出しが行われることもあります。これは、手続の迅速性や確実性を確保するための柔軟な運用であり、形式よりも実質的な通知の到達が重視されるという特徴があります。
会社経営者としては、呼出方法の違いにかかわらず、期日の指定がなされた時点で対応義務が生じるという点を理解し、「正式な通知かどうか」を形式的に判断するのではなく、速やかに対応に着手することが重要です。
4. 呼出状が届いた際に経営者が直ちに行うべきこと
裁判所からの呼出状が届いた場合、会社経営者に求められるのは、何よりも初動のスピードです。労働審判では第1回期日までの期間が限られているため、対応の遅れはそのまま不利な結果につながります。
まず行うべきは、申立内容と期日の正確な把握です。どのような請求がなされているのか、いつまでに対応しなければならないのかを即座に確認する必要があります。
次に、社内での事実関係の調査と証拠の保全に着手します。人事記録、勤怠データ、メール履歴など、後の主張立証に不可欠な資料を早期に確保することが重要です。
そして、これらと並行して、労働問題に精通した弁護士への相談を速やかに行うことが不可欠です。労働審判では短期間で主張を整理する必要があるため、専門的な支援を早期に受けることが結果を左右します。
会社経営者としては、呼出状を受け取った時点で「すでに手続が始まっている」と認識し、即座に実務対応へ移行することが、経営リスクを最小化するための鍵となります。
呼出方法に関するよくある質問
Q1. 労働審判の呼出状が普通郵便で届きましたが、これは正式なものですか?
A1. はい、正式な呼出しです。労働審判では迅速性を期すため、通常の民事訴訟のような特別送達(書留)ではなく、普通郵便による「簡易呼出し」が行われるのが一般的です。
Q2. 仕事が忙しく、第1回期日に出席できない場合はどうなりますか?
A2. 正当な理由なく不出頭の場合、5万円以下の過料に処される可能性があるほか、会社側の反論がないまま審理が進み、極めて不利な判断(審判)を下されるリスクがあります。必ず弁護士に相談し、適切な対応を取るべきです。
Q3. 期日請書(きじつうけしょ)とは何ですか?提出は必須ですか?
A3. 呼出しを受けたことを認める書類です。これを提出することで、正式に呼出しが完了したとみなされます。提出しない場合でも手続きは進みますが、裁判所に対する誠実な対応を示すためにも、弁護士と相談の上で提出するのが通例です。
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最終更新日 2026/03/19
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。