労働問題658 管理監督者の認定基準と労働時間規制の適用除外に関する問題点【会社側弁護士が解説】

この記事の要点
  • 「管理職=残業代不要」という誤解は危険で、労基法上の管理監督者かどうかは役職名ではなく実質で判断される
  • 管理監督者の認定基準は①経営者と一体の立場、②出退勤の自由、③一般従業員より優遇された待遇の3点
  • 多数の裁判例でファストフード店長・課長・スタッフ職の管理監督者性が否定され、大量の未払い残業代が認定されている

1適用除外の種類と誤解されやすいポイント

労働基準法第41条は、以下の3類型について労働時間・休憩・休日規制の適用を除外しています。

  • ① 農業、畜産業、養蚕業、水産業に従事する者
  • 管理監督者の地位にある者または機密の事務を取り扱う者
  • ③ 監視または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者

このうち、企業実務上最も問題になりやすいのが②管理監督者です。「管理職だから残業代は不要」という誤解に基づいた運用が、多額の未払い残業代請求につながるケースが後を絶ちません。

2管理監督者の意味の誤解と実務リスク

「課長以上には管理職手当を支払っているから残業代は払わなくていい」と考えている会社が少なくありません。しかし、労基法上の管理監督者は、企業内の役職・肩書ではなく、実質的な職務内容・権限・待遇で判断されます。

役付社員を一律に管理監督者として扱い、残業代を不支給にしていた場合、後になって多額の未払い残業代を請求されるリスクがあります。特に離職した社員からの請求(過去2〜3年分が対象)は会社経営に深刻な影響を与えます。

【実務上のリスク】
管理監督者と誤認して残業代を不払いにしていた場合、労基署の是正勧告・労働審判・訴訟で過去2年間(不法行為ならば3年間)の未払い残業代全額の支払い命令が出るリスクがあります。

3管理監督者の判断基準(3要素)

裁判例および通達(昭和22年9月13日基発17号・昭和63年3月14日基発150号)では、管理監督者の判断基準として以下の3点を挙げています。

判断要素 具体的な内容
ア.経営者と一体的な立場 経営方針・労働条件の決定に関与できる権限を有すること
イ.勤務時間の自由 出退勤について厳格な制限を受けていないこと(自由裁量)
ウ.処遇の優遇 一般労働者と比較して、管理職手当等の優遇措置が十分に講じられていること

これら3つの要素を総合的に判断する必要があり、1つの要素が満たされているだけでは管理監督者とは認められません。

4管理監督者に該当しないケース

以下のような場合は、役職名にかかわらず管理監督者には該当しないと判断される可能性が高くなります。

  • 営業政策上の理由でセールス担当社員に「課長」等の肩書を付けているに過ぎない場合
  • 「管理職手当」は支払われているが、出退勤時刻が完全に拘束されており、遅刻・早退に対して控除が行われている場合
  • 経営方針・労働条件の決定に実質的に関与できず、上位職の指示に従うのみの場合
  • 管理職手当が時間外労働に見合わない低額に過ぎる場合
【実務上の確認ポイント】
現在「管理職」として残業代を不支給にしている社員について、上記の基準を満たしているか今一度確認することをお勧めします。特に、出退勤管理がタイムカードや勤怠システムで行われている場合は、「勤務時間の自由」という要件を満たしていないと判断される可能性があります。

5スタッフ職の取扱い

本社の企画・調査・人事・財務部門において経営者と一体となって判断を行うような専門職(いわゆる「スタッフ職」)については、通達(昭和63年3月14日基発150号)において、一定の要件のもとで管理監督者に準じた取扱いが可能とされています。

〈通達の内容〉

「法制定当時には、あまり見られなかったいわゆるスタッフ職が、本社の企画、調査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、同法41条第2号該当者に含めて取り扱うことが妥当であると考えられること。」

ただし、この通達による取扱いも、前記3つの実質的判断基準を満たすことが前提となっています。

6参考となる裁判例

管理監督者性の判断について、以下の裁判例が参考になります。

  • レストラン「ビュッフェ」事件(大阪地裁昭和61年7月30日判決)
  • 医療法人徳洲会事件(大阪地裁昭和62年3月31日判決)
  • 日本マクドナルド事件(東京地裁平成20年1月28日判決)——店長の管理監督者性を否定し、大幅な未払い残業代の支払いを命じた事案として有名
  • 風月荘事件(大阪地裁平成13年3月26日判決)
  • アクト事件(東京地裁平成18年8月7日判決)
  • 東建ジオテック事件(東京地裁平成14年3月28日判決)
  • 橘屋割増賃金請求事件(大阪地裁昭和40年5月22日判決)
【日本マクドナルド事件の教訓】
この事件では、店長がアルバイトのシフト管理等の権限を持つものの、経営方針の決定には関与できず、出退勤も実質的に拘束されているとして管理監督者性が否定されました。名称や形式ではなく実態が問われることを示す代表的な裁判例です。

SUPERVISOR
弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。就業規則・変形労働時間制の導入・整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

FAQよくある質問

Q1. 部長・課長には一律に残業代を支払わなくてよいですか?

A. そうではありません。「部長」「課長」という役職名は管理監督者の認定根拠にはなりません。経営方針の決定への関与・出退勤の自由・処遇の優遇という実質的な要件を総合的に判断する必要があります。

Q2. タイムカードで出退勤管理をしている管理職は管理監督者に該当しませんか?

A. 出退勤管理が厳格に行われている場合、「勤務時間の自由(出退勤に厳格な制限を受けない)」という要件を満たさないと判断される可能性があります。管理職のタイムカード廃止だけで形式を整えることにも問題があるため、実態の整備が重要です。

Q3. 管理監督者に対しても深夜割増賃金は支払う必要がありますか?

A. 必要です。管理監督者であっても、深夜(午後10時〜午前5時)に労働させた場合は2割5分以上の割増賃金が必要です(労基法37条4項)。これは労基法41条の適用除外から除外されていない規定です。

Q4. 管理監督者に該当しないと分かった場合、どう対応すべきですか?

A. 速やかに未払い残業代を算定し、支払いの検討をすることが望ましいです。また、今後の労務管理体制を見直し、正確な労働時間の把握と割増賃金の計算・支払い体制を整備することが重要です。会社側弁護士に相談しながら対応することをお勧めします。

最終更新日:2025年5月

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