労働問題626 所定労働時間が7時間30分の会社の残業代計算|法内・法定時間外の区別を弁護士が解説
労働基準法上の「25%割増」義務は、1日8時間を超えた時点から発生します。所定労働時間が7.5時間の会社において、8時間に達するまでの最初の30分間(法内残業)の扱いは、コストとリスクの両面で極めて重要です。
- ● 法内残業(7.5h〜8h): 法律上の割増義務はありません。就業規則に特段の定めがない限り、通常の時給単価(1.00倍)の支払いで足ります。
- ● 法定外残業(8h超〜): 25%以上の割増賃金(1.25倍以上)の支払いが法律で義務付けられています。
- ● 時間単価の算出: 月給制の場合、実際の労働時間ではなく「就業規則上の所定労働時間」に基づき、正しく時間単価を算出する必要があります。
⚠️ 注意:
就業規則の記載が「残業にはすべて割増を支払う」という曖昧な表現になっている場合、法内残業にも1.25倍の支払義務が生じるリスクがあります。今一度、規則の文言確認をお勧めします。
目次
1. 所定労働時間が7時間30分の会社で生じる疑問
所定労働時間を7時間30分としている会社では、残業代の計算について会社経営者が迷いやすいポイントがあります。それは、「7時間30分を超えて働いた時間は、すべて割増賃金の対象になるのか」という点です。
多くの会社経営者は、「1日8時間を超えたら残業」といった大枠の理解はされていますが、所定労働時間が法定労働時間より短い場合の扱いについては、正確に整理できていないケースが少なくありません。その結果、本来は割増不要の時間に割増賃金を支払っていたり、逆に支払うべき残業代が不足してしまったりすることがあります。
特に月給制の社員を雇用している場合、「所定労働時間を超えた=残業代が必要」と機械的に処理してしまうと、法内時間外労働と法定時間外労働の区別が曖昧になり、未払い残業代請求のリスクを高めることになります。
2. 労働時間の分類と残業代の基本的な考え方
所定労働時間が7時間30分の会社で残業代を正しく計算するためには、まず労働時間の分類を正確に理解する必要があります。
労働時間には、大きく分けて「所定労働時間」と「法定労働時間」という二つの基準があります。所定労働時間とは、就業規則や雇用契約で会社が定めた1日の労働時間のことです。一方、法定労働時間とは、労働基準法32条が定める原則としての上限であり、1日8時間、1週40時間とされています。
この二つの基準が異なる場合に問題となるのが、「法内時間外労働」と「法定時間外労働」です。所定労働時間を超えているものの、法定労働時間である8時間以内に収まっている労働は、法内時間外労働と呼ばれます。一方で、1日8時間を超えた部分については、法定時間外労働となります。
3. 法内時間外労働と法定時間外労働の違い
所定労働時間が7時間30分の会社で残業代を考える際、最も重要なのが法内時間外労働と法定時間外労働の区別です。
まず、法内時間外労働とは、就業規則で定めた所定労働時間を超えているものの、法定労働時間である1日8時間以内に収まっている労働を指します。例えば、所定労働時間が7時間30分の会社であれば、7時間30分を超えて8時間に達するまでの30分間が、法内時間外労働に該当します。
一方、法定時間外労働とは、1日8時間を超えて行われる労働のことです。この部分については、労働基準法37条1項により、一定割合以上の割増賃金を支払うことが法律上義務付けられています。
4. モデルケースの前提条件
残業代の計算方法を正しく理解するためには、具体的な前提条件を整理したうえで考えることが重要です。次のようなモデルケースを前提に説明します。
- 1日の所定労働時間:7時間30分
- 所定休日:土日祝日および年末年始・夏季休暇
- 就業規則:法内時間外労働については通常の賃金を支払う旨の規定あり
- 給与:基本給のみの月給制正社員
5. 通常の賃金の時間単価の計算方法
残業代を計算する際の出発点となるのが、通常の賃金の時間単価です。月給制社員の場合、通常の賃金の時間単価は、「月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間数」によって算出するのが原則です。
具体的には、まず(365日 - 所定休日数)で年間の所定労働日数を出し、そこに1日の所定労働時間(7.5時間)を掛けて年間の総労働時間数を出します。それを12か月で割った数値が「1か月平均所定労働時間数」となります。
6. 割増賃金(残業代)単価の考え方
労働基準法37条1項により、法定時間外労働については、通常の賃金の時間単価に25%以上の割増率を乗じた賃金を支払わなければなりません。
- 法定時間外:単価 × 1.25
- 休日労働:単価 × 1.35
- 深夜労働(22時〜5時):単価 × 0.25(加算)
繰り返しになりますが、法内時間外労働には割増率を掛ける必要はありません。8時間までの労働については、通常の賃金の時間単価で計算します。
7. 法内時間外・時間外・休日・深夜労働の計算例
例えば、法内時間外労働が6時間、法定時間外労働が20時間、深夜労働が5時間発生した場合は、それぞれの単価に時間を乗じて合算します。深夜労働が法定時間外労働と重なる場合は、割増率が重複(1.25+0.25=1.50)して適用される点に注意が必要です。
8. 当月の残業代の算出方法
各労働区分ごとの金額をすべて合計したものが、当月に支払うべき残業代総額となります。特に深夜労働の集計ミスは発生しやすいため、事務処理上のダブルチェックが欠かせません。
9. 残業代計算で会社経営者が注意すべきポイント
「所定労働時間を超えたらすべて割増」という誤った運用は、不要な人件費増を招きます。また、就業規則の記載と実態が乖離していると、労働紛争の際のリスクとなります。経営者としては、自社の計算ロジックが法的根拠(労働基準法および就業規則)に基づいているかを定期的に確認することが重要です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
更新日:2026/3/10
