労働問題543 業務上の負傷かどうかの判断基準を教えてください。
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業務上の負傷には「業務遂行性」と「業務起因性」の両方が必要 業務上の負傷というためには、業務遂行性があることを前提に、業務起因性が認められることが必要です。この2つの要件の両方を満たして初めて、業務上の負傷と認められます。 |
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業務遂行性は「事業主の支配下にある中で発生したか」で判断する 業務遂行性は、具体的な業務の遂行中であることまでは不要で、災害時に労働者が労働関係上において現に事業主の支配下にある中で発生すれば認められます。 |
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業務起因性は「業務に伴う危険が現実化したか」で判断する 業務起因性は、業務と負傷との間に条件関係だけでなく相当因果関係が必要です。実務上は、事業主の支配管理下にあることに伴う危険が現実化したと経験則上認められるかで判断します。 |
01業務上の負傷の判断枠組み(2つの要件)
社員が負傷した場合、それが「業務上の負傷」に当たるかどうかは、労災保険の適用や解雇制限(労基法19条)の有無に直結する、極めて重要な問題です(私傷病との違いは542番参照)。では、どのような場合に「業務上の負傷」と認められるのでしょうか。
業務上の負傷というためには、業務遂行性があることを前提に、業務起因性が認められることが必要です。つまり、(1)業務遂行性と(2)業務起因性という2つの要件を満たすことが求められます。
業務上の負傷の2要件
① 業務遂行性(前提となる要件)
労働者が事業主の支配下にある中で災害が発生したこと。
② 業務起因性(中心的な要件)
業務と負傷との間に相当因果関係があること。事業主の支配管理下にあることに伴う危険が現実化したと認められること。
まず業務遂行性という「入口」の要件を満たしたうえで、業務起因性という「中身」の要件を判断するという二段階の構造になっています。以下、それぞれの要件を詳しく見ていきます。
02業務遂行性とは
業務遂行性は、具体的な業務の遂行中であることまでは不要で、災害時に労働者が労働関係上において現に事業主の支配下にある中で発生すれば認められます。
ここで重要なのは、「業務遂行性」といっても、実際に作業をしているまさにその最中である必要はないという点です。「事業主の支配下にある」状態で災害が発生していれば足ります。例えば、作業中だけでなく、事業場内で休憩している時間や、事業主の管理下にある施設内で発生した災害なども、業務遂行性が認められる余地があります。
つまり、業務遂行性は、「労働者が事業主の支配下という枠の中にいたか」という、比較的広い枠組みでとらえられる要件です。この段階では、その負傷が業務と関係があるか(業務起因性)までは問題にせず、まず「事業主の支配下という場面で起きたか」を判断します。
03業務起因性とは
業務起因性は、業務上の負傷といえるかどうかを判断する中心的な要件です。業務起因性が認められるためには、業務と負傷との間に条件関係があるだけでなく、相当因果関係があることが必要です。
「条件関係」とは、「その業務がなければその負傷もなかった」という関係(あれなければこれなし、の関係)です。しかし、業務起因性が認められるには、条件関係があるだけでは足りず、さらに「相当因果関係」があることが必要とされています。単に業務と何らかのつながりがあるというだけでなく、その負傷が業務に起因して生じたものと社会通念上相当といえる関係が求められるのです。
業務起因性の実務上の判断基準
実務上は、業務または業務行為を含めて労働者が労働契約に基づき事業主の支配管理下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められるか否かにより判断します。
つまり、「労働者が事業主の支配管理下にあることに伴って生じうる危険」が、現実の負傷という形で現れたといえるかどうかを、経験則に照らして判断するということです。
例えば、業務に使用する機械によるけが、業務に伴う移動中の事故など、業務に内在する危険が現実化したと評価できる場合には、業務起因性が認められやすくなります。一方、業務遂行中・事業場内での出来事であっても、業務とは無関係の私的な行為に起因する負傷や、業務に内在する危険とはいえない原因による負傷は、業務起因性が否定されることがあります。
このように、業務遂行性(事業主の支配下にあったか)という前提を満たしたうえで、業務起因性(業務に伴う危険が現実化したか)が認められて初めて、「業務上の負傷」と評価されることになります。
04会社経営者が押さえるべき実務上の注意点
業務上の負傷かどうかの判断は、会社にとって重要な意味を持ちます。業務上の負傷と認められれば、その休業中および復帰後30日間は解雇が制限され(労基法19条・530番参照)、労災保険の対象にもなります。一方、業務外の負傷(私傷病)であれば、私傷病休職として扱い、休職期間満了による自動退職等の対象となりうる、という違いがあります(542番参照)。
もっとも、業務上か業務外かの判断は、上記のとおり業務遂行性・業務起因性という法的な評価を伴うものであり、容易でないケースも少なくありません。特に、脳・心臓疾患や精神障害(過労・ハラスメント等が背景にあるもの)については、業務起因性の判断が複雑で、専門的な検討が必要です。これらについては、行政(労働基準監督署)が定める認定基準も参考にされます。
会社としては、社員の負傷について安易に「これは業務外(私傷病)だ」と決めつけて私傷病扱い・退職扱いをすると、後に「業務上の負傷であり、解雇制限に反する」「労災である」と争われるリスクがあります。判断に迷う場合は、労働基準監督署への相談や、使用者側弁護士への相談を通じて、慎重に判断することが重要です。また、労災の認定は最終的には労働基準監督署が行うものであり、会社が業務外と判断しても、労働者が労災申請を行えば監督署が独自に判断する点にも留意が必要です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 昼休みに社員食堂で転倒してけがをしました。これは業務上の負傷ですか。
A. 事業場内での休憩中の負傷は、事業主の支配下にあるといえるため業務遂行性は認められやすいですが、業務起因性が別途問題になります。休憩中の私的な行動による負傷は、業務に内在する危険が現実化したとはいえず、業務起因性が否定されることがあります。一方、施設・設備の欠陥(床の不備等)が原因であれば、業務起因性が認められる余地があります。最終的な労災認定は労働基準監督署が判断しますので、判断に迷う場合は監督署や弁護士に相談することをお勧めします。
Q2. 通勤中の事故は業務上の負傷になりますか。
A. 通勤中の事故は、「業務上の負傷」とは区別され、労災保険上は「通勤災害」として扱われます。通勤災害も労災保険の給付対象となりますが、業務災害とは要件や一部の取扱いが異なります。また、労基法19条の解雇制限は「業務上」の負傷・疾病が対象であり、通勤災害には直接は及ばないと解されています。通勤災害に当たるかどうかは、合理的な経路・方法による通勤か等が問題になりますので、個別の判断は専門家に確認することをお勧めします。
Q3. 会社が「業務外だ」と判断すれば、労災にはならないのですか。
A. いいえ。労災(業務上の負傷・疾病)に当たるかどうかの認定は、最終的には労働基準監督署が行います。会社が「業務外だ」と考えても、労働者が労災申請を行えば、監督署が業務遂行性・業務起因性を独自に判断します。会社の判断と監督署の判断が食い違うこともあります。また、会社が労災であることを認めず労災手続に協力しないと、後にトラブルや会社への責任追及につながることもありますので、業務上の負傷が疑われる場合は慎重に対応し、必要に応じて弁護士に相談することをお勧めします。
最終更新日:2026年2月25日