労働問題398 ①安全配慮義務違反や不法行為(使用者)責任を理由とした損害賠償請求は、どのようなものですか。


この記事の要点

使用者(会社)は、労働者が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務・労契法5条)を負っており、違反した場合は損害賠償義務を負う(民法415条)

「従業員同士の問題だから会社は関係ない」は通用しません

従業員がパワハラ・セクハラにより他の従業員に損害を与えた場合、使用者は使用者責任(民法715条)を負い、被害者への損害賠償義務を連帯して負う

加害者個人だけでなく会社も被告となるのが実態です

パワハラ・セクハラは加害者と被害者の間の問題ではなく、使用者も紛争の当事者(被告)となるリスクを負う。「自分は知らなかった」だけでは免責されない

使用者として適切な体制整備が必要です

01使用者の安全配慮義務(労契法5条・民法415条)

 使用者(会社)は、労働者の身体の安全等を確保しつつ働けるよう配慮する労働契約上の義務。安全配慮義務。を負っています(労働契約法5条)。この義務は、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮を行うことを内容とします。

 パワハラ・セクハラの場面では、職場でのハラスメントが発生しないよう適切な体制を整備し、ハラスメントが発生した場合に迅速かつ適切に対応することが、安全配慮義務の内容として求められます。使用者がこの義務に違反し、その結果として労働者に損害(精神疾患の発症等)が生じた場合は、民法415条(債務不履行による損害賠償)に基づき、使用者は損害賠償義務を負うことになります。

 「職場のパワハラ・セクハラは従業員同士の問題であり、会社は関係ない」という発想は通用しません。安全配慮義務の観点から、使用者は職場環境を適切に管理する義務を組織として負っているのです。

02使用者責任(民法715条)

 従業員(被用者)が不法行為法上の注意義務に違反して、パワハラ・セクハラにより他の従業員に損害を与えた場合には、使用者は民法715条(使用者等の責任)に基づき、被害者に生じた損害を賠償する責任(使用者責任)を負うことになります。

 使用者責任が成立する要件は、①ある事業のために他人(被用者)を使用していること、②被用者がその事業の執行について第三者(被害者)に損害を加えたこと、です。パワハラ・セクハラが「事業の執行について」なされたと評価される場合に、使用者は加害者である従業員と連帯して(または代わって)被害者への損害賠償義務を負います。

 なお、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者責任が免除されます(民法715条1項ただし書)。ただし、実務上この免責が認められる例は多くありません。

03使用者のリスク。被告となる構造

 以上のとおり、パワハラ・セクハラは加害者と被害者の間だけの問題ではなく、使用者(会社)も紛争の当事者(被告)となるリスクを負っています。会社経営者はこの点に十分留意する必要があります。

使用者が被告となる2つの法的根拠

根拠①(安全配慮義務違反):使用者自身の安全配慮義務(労契法5条)違反を根拠とする損害賠償請求。根拠条文は民法415条(債務不履行)。被害者が安全配慮義務違反と損害の因果関係を主張・立証する。
根拠②(使用者責任):加害者である従業員の不法行為に対する使用者の連帯責任(民法715条)。被害者が加害者従業員の不法行為と「事業の執行について」という要件を主張・立証する。

 実務上は、①安全配慮義務違反と②使用者責任の両方が同時に主張されるケースも多くあります。どちらか一方でも認定されれば使用者は損害賠償義務を負います。

04使用者としての対策

 使用者が①安全配慮義務違反・②使用者責任を問われるリスクを低減するためには、次のような体制整備が有効です。

リスク低減のための使用者の対策

予防:ハラスメント方針の明確化・社内周知、ハラスメント研修の実施、相談窓口の設置(人事部門・外部相談窓口等)
早期対応:ハラスメント申告を受けた場合の迅速な事実確認・適切な対応(加害者への指導・懲戒処分・配置転換等)
記録管理:対応した内容・経緯を文書化して保管。「知らなかった」「対応した」という事実を証拠として示せるようにする
再発防止:個別事案の対応だけでなく、組織全体の環境改善措置を講じる

 民法715条の使用者責任の免責(相当な注意を尽くしたこと)を主張するためにも、これらの体制整備の記録は重要な意味を持ちます。

05関連法令

(労働者の安全への配慮)

労働契約法5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

(債務不履行による損害賠償)

民法415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

(使用者等の責任)

民法715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

06まとめ

 パワハラ・セクハラ紛争の類型①(安全配慮義務違反・使用者責任による損害賠償請求)において、使用者は2つの法的根拠から損害賠償請求の被告となるリスクを負います。①安全配慮義務違反(労契法5条・民法415条)と②使用者責任(民法715条)です。パワハラ・セクハラは加害者と被害者の間だけの問題ではなく、使用者(会社)も当然に紛争の当事者となります。リスク低減のためにはハラスメント防止体制の整備・早期対応・記録管理が不可欠です。具体的な対応については使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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Q&Aよくある質問

Q1. 民法715条のただし書により、使用者責任を免れることはできますか。

A. 理論的には、使用者が被用者の選任・監督について相当の注意を尽くした場合は免責されますが、実務上この免責が認められる例は多くありません。「知らなかった」「適切な監督体制を整えていた」と主張するためには、実際にハラスメント防止の研修実施・相談窓口の設置・申告時の迅速対応等を記録として示せる状態にしておく必要があります。

Q2. 安全配慮義務違反と使用者責任は、どちらが主張されやすいですか。

A. 実務上は、両方が同時に主張されることが多くなっています。安全配慮義務違反(債務不履行)は消滅時効が一般に長い等の手続上の違いがあるため、被害者側はどちらも主張して有利な方での認定を求めるケースが多いです。使用者としては、いずれの主張に対しても対応できる準備が必要です。

最終更新日:2026年5月31日

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