労働問題399 ②解雇、休職期間満了退職無効を理由とした地位確認請求の内容はどのようなものですか。

この記事の要点

精神疾患発症の原因が職場のパワハラ・セクハラの場合、療養のための休業期間及びその後30日間は、原則として解雇・休職期間満了退職扱いにすることができない(労基法19条・同条類推)

この解雇制限を知らずに解雇・退職扱いにすると無効となるリスクがあります

嫌がらせ目的の転勤命令(辞めさせる目的)は転勤命令権限の濫用として無効。それを拒否した理由とする解雇も無効と主張されることがある

転勤命令の目的・理由が問われます

性的要求を断ったことを理由とする不利益な扱い(配置転換・解雇等)は「対価型セクハラ」の問題となる。地位確認請求と損害賠償請求が同時に提起されるリスク

393番(セクハラの対価型)と合わせて理解する必要があります

01パワハラ・セクハラを原因とする精神疾患と解雇制限(労基法19条)

 パワハラ・セクハラを原因として精神疾患(うつ病・適応障害等)を発症し休業している従業員を解雇しようとする場合、または休職期間満了として退職扱いにしようとする場合には、労基法19条の解雇制限に注意が必要です。

 精神疾患発症の原因が職場のパワハラ・セクハラである場合、これが「業務上」の疾患と認定される可能性があります。この場合、療養のための休業期間及びその後30日間は、原則として解雇することができません(労基法19条)。また、休職期間満了退職についても同条類推が問題となります。

 この解雇制限の存在を知らずに解雇・休職期間満了退職扱いにした場合、後に地位確認請求と未払い賃金の支払請求がなされる可能性があります。

02労基法19条の「業務上」要件と類推適用

 労基法19条は「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後30日間」の解雇を禁止しています。「業務上」かどうかは労災認定の有無と連動する場合がありますが、必ずしも労災認定があることが要件ではなく、裁判所が「業務上」と判断すれば解雇制限が適用されます。

パワハラ・セクハラ起因の精神疾患。「業務上」と認定されるリスク

職場のパワハラ・セクハラを原因とする精神疾患は、業務に関連した有害な環境に起因するものとして「業務上」と認定される可能性があります。この場合、解雇が禁止されるだけでなく、休職期間満了退職扱いについても同条類推により無効となる可能性があります。「業務上かどうか分からない」という状況での解雇・退職扱いは、後の紛争リスクを高めます。

03嫌がらせ目的の転勤命令と解雇。権限濫用の問題

 地位確認請求のもう一つの典型パターンが、嫌がらせを目的とした転勤命令と、それを拒否したことを理由とする解雇に関するものです。

 例えば、事業場の閉鎖等に伴い退職勧奨を行い、従業員が応じなかったため、別の事業場への転勤を命じ、従業員が転勤に応じなかったため解雇したという事案で、「嫌がらせして辞めさせる目的の転勤命令だから転勤命令権限の濫用で無効であり、転勤命令拒否を理由とする解雇も無効だ」という主張がなされることがあります。

 転勤命令の有効性(権利濫用の有無)を判断する際には、業務上の必要性・従業員の不利益の程度・他の事情(嫌がらせ目的の有無等)が総合的に考慮されます(396番参照)。業務上の合理的な必要性がない転勤命令は、権利濫用として無効と評価されるリスがあります。

04性的要求拒否を理由とする不利益取扱い

 性的な要求(セクシュアルハラスメント)に応じなかったことが理由で行われた配置転換・降格・解雇等は、「対価型セクハラ」(393番参照)の問題となります。この場合、地位確認請求と損害賠償請求が同時に提起されることが多くなります。

 「性的要求を断ったから解雇した」「性的要求を断ったから昇格を見送った」という事実関係は、対価型セクハラとして違法評価されます。使用者は加害者の使用者責任(民法715条・398番参照)を負い、不利益取扱いの無効(地位確認)と損害賠償の双方を同時に請求される可能性があります。

05関連法令(労基法19条)

(解雇制限)

労働基準法19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

06まとめ

 解雇・休職期間満了退職無効による地位確認請求(紛争類型②)では、精神疾患の発症原因がパワハラ・セクハラの場合に労基法19条の解雇制限が適用・類推される可能性があること、嫌がらせ目的の転勤命令が権利濫用として無効とされ転勤拒否を理由とする解雇も無効と主張されること、性的要求拒否を理由とする不利益取扱いが対価型セクハラとして問題とされることが主なパターンです。具体的な事案への対処については使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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Q&Aよくある質問

Q1. うつ病で休職した従業員を休職期間満了で退職扱いにしようとしています。パワハラが原因と主張されるリスクがある場合はどうすればよいですか。

A. まず、その従業員の精神疾患が「業務上」と認定される可能性があるかどうかを慎重に検討する必要があります。「業務上」と判断される可能性がある場合は、労基法19条(類推)により休職期間満了退職扱いが無効となるリスがあります。このような状況での退職扱いについては、事前に使用者側弁護士に相談することを強くお勧めします。

Q2. 転勤命令を行ったところ「嫌がらせ目的の転勤だ」と主張されました。どう対応すればよいですか。

A. 転勤命令の有効性は、業務上の必要性の有無が最重要の判断要素となります。業務上の合理的な必要性がある転勤であれば、「嫌がらせ目的」という主張に対して業務上の必要性を根拠として反論できます。転勤命令の業務上の根拠(人員配置の必要性等)を文書で示せる状態にしておくことが重要です。具体的な対応については使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年5月31日

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