労働問題1032 退職勧奨を断られた場合
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断られる主な原因は「事前準備の不足」 注意指導・懲戒処分の積み重ねがなく、いきなり退職勧奨から入ると断られやすい。断っても解雇リスクがない状況では、相手が応じる動機が薄い |
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断られた後の選択肢は3つ ①人事異動・業務変更の検討、②注意指導・懲戒処分を継続しながら改めて退職勧奨を検討、③解雇の検討。状況に応じて選択し、弁護士と相談しながら進める |
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断られた後の無理な勧奨は退職強要になるリスクがある 断りの意思が明確になった後も執拗に続けることは、不法行為と評価されるリスクがある。一旦終了し、次の対応を検討する |
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「断ったら解雇になる状況」を作ることが次の退職勧奨を有利にする 断られた後も注意指導・懲戒処分を着実に積み重ねることで、次回の退職勧奨の条件が有利になる |
01退職勧奨が断られやすい原因
退職勧奨を断られたとき、多くの経営者は「どう説得すればよかったのか」という点に目が向きがちです。しかし、断られる主な原因は、退職勧奨の場面そのものよりも、それ以前の段階にあることがほとんどです。
断っても解雇されないと分かっている
退職勧奨を断られやすい最大の原因の一つは、相手が「断っても解雇にはならない」と判断している状況です。注意指導・懲戒処分の積み重ねがない状態でいきなり退職勧奨を行うと、断られた場合に有効な解雇を行う根拠が乏しくなります。相手の立場からすると、断っても失うものが少ないため、退職勧奨に応じる動機が弱くなります。
辞めなければならない理由の説明が不十分
辞めてもらいたい理由を、具体的な事実に基づいて丁寧に説明できていない場合も、断られやすくなります。「評価が低い」「周りが困っている」といった抽象的な表現だけでは、相手に現実的な危機感を持ってもらうことは難しいです。いつ・どこで・何があったという具体的な事実の積み重ねが、説明の説得力を生みます。
退職条件が相手にとって魅力的でない
解決金の水準や退職日の設定など、退職条件が相手にとって受け入れがたいものになっている場合も、断られる原因になります。ただし、これは「条件を高くすれば解決する」ということではなく、断ったときのリスク(有効な解雇)との比較の中で条件が設計されていることが重要です。断っても安全と感じる状況では、条件を多少よくしても断られます。
02断られた後の3つの選択肢
退職勧奨を断られた場合、次の対応として主に3つの選択肢があります。状況に応じてどれを選ぶかを判断し、弁護士とも相談しながら慎重に進めることが重要です。
選択肢 A
人事異動・配置転換・担当業務の変更を検討する
業務上の必要性がある場合には、人事異動・配置転換を行うことが選択肢になります。ただし、退職勧奨を断ったことへの報復と受け取られると、配転命令の有効性が争われるリスクがあります。詳しくは「退職勧奨を断られた後に人事異動を行う場合の注意点」をご参照ください。
選択肢 B
注意指導・懲戒処分を継続しながら、改めて退職勧奨を検討する
断られた後も引き続き問題行動への注意指導・懲戒処分を着実に積み重ね、「断ったら有効な解雇になりうる状況」を整えていきます。この積み重ねが次回の退職勧奨を有利にする最大の準備です。
選択肢 C
解雇を検討する
注意指導・懲戒処分を積み重ねた結果、有効な解雇が認められる見込みが整っている場合は、解雇を実施することも選択肢になります。解雇は後に無効を争われるリスクが伴いますので、実施前に必ず弁護士にご相談ください。
03断られた後にやってはいけないこと
断りの意思が明確なのに執拗に続けること
相手が退職勧奨に応じない意思を明確に示した後も、同じ内容を繰り返し迫ることは退職強要と評価されるリスクがあります。断られたら一旦終了し、次の対応を弁護士と相談しながら検討することが基本です。
準備なしに解雇を実施すること
退職勧奨を断られた直後に、注意指導・懲戒処分の積み重ねもないまま解雇を実施することは、解雇無効と判断されるリスクが高いです。断られたからといって、準備不足のまま解雇に踏み切ることは避けてください。
退職勧奨→断られた→即解雇というパターンのリスク
退職勧奨を断られた直後に解雇を実施した場合、「退職勧奨に応じなかったことを理由とした解雇」と評価されることがあります。退職勧奨の拒否自体は解雇理由にならないため、解雇が無効と判断されるリスクがあります。断られた後の解雇は、あくまで別途の解雇事由(注意指導・懲戒処分の積み重ね等)を根拠として行うことが必要です。
04次の退職勧奨に向けた準備
退職勧奨を断られた後も、日頃の対応を着実に続けることが、次の局面を有利にします。
問題のある言動が続いているのであれば、その都度書面で注意指導し、改善がなければ懲戒処分を実施します。この積み重ねが「断ったら有効な解雇になりうる状況」を作ります。その状況が整ったところで改めて退職勧奨を行うと、相手も断ることのリスクを現実的に考えるようになり、合意が成立しやすくなります。
退職勧奨を断られた後の対応は、判断を誤ると新たなトラブルを生むリスクがあります。選択肢の検討・言葉の選び方・タイミングの設定など、一つひとつの判断をZoomやTeamsでの短時間のオンライン打ち合わせを重ねながら弁護士と並走して進めることが、最も安全で効果的なアプローチです。
まとめ
- 断られる主な原因は事前準備の不足。注意指導・懲戒処分の積み重ねがないと、断っても安全と判断される
- 断られた後の選択肢は3つ。人事異動の検討、再度の退職勧奨、解雇の検討。いずれも弁護士に相談しながら進める
- 断りの意思が明確な後に執拗に続けることや、準備不足の解雇は避ける
- 断られた後も注意指導・懲戒処分を継続する。次の退職勧奨を有利にするための最大の準備
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職勧奨でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 退職勧奨を断られた場合、すぐに解雇できますか。
A. 退職勧奨を断ったこと自体は解雇理由になりません。解雇が有効になるためには、客観的合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。断られた後に即座に解雇を実施することは、解雇無効のリスクが高く、お勧めできません。注意指導・懲戒処分の積み重ねを経た上で、解雇の可否を弁護士に判断してもらうことが必要です。
Q2. 退職勧奨を何回断られたら諦めるべきですか。
A. 回数で決まるものではありません。相手が断りの意思を明確にした後は一旦終了し、状況が変わった(問題行動が重なった、注意指導・懲戒処分を積み重ねた等)段階で改めて退職勧奨を行うことは可能です。ただし、断りの意思が明確なまま繰り返すことは退職強要と評価されるリスクがあります。タイミングの判断は弁護士にご相談ください。
Q3. 退職勧奨を断られた後、解決金を上乗せすれば応じてもらえますか。
A. 条件を上乗せすることで合意が成立することもありますが、そもそも「断っても解雇されない」という状況では、条件を高くしてもなかなかまとまらないことが多いです。断られた後は、条件の上乗せよりも、注意指導・懲戒処分を積み重ねて「断ったら解雇になりうる状況」を作ることの方が、根本的な解決につながります。
最終更新日:2026年5月8日