労働問題1026 退職届を出さない社員

この記事の要点

「話がついた気がした」は退職ではない——必ず書面(退職合意書・退職届)を取ること

口頭での合意は「したしていない」で争いになる。退職合意書または退職届の書面を取るまでが退職勧奨の完了

退職届を出さない場合は、改めて退職の意思確認を行う——「合意した」「していない」の水掛け論を防ぐ

口頭でやり取りしているだけでは、後で「そんな話はしていない」「解雇された」と主張されるリスクがある

無断録音に注意——退職に関するやり取りは録音されている前提で話す

「もう来なくていい」などの発言が解雇と評価されることがある。録音を前提に冷静・具体的な対話を心がける

なぜ退職届が出ないのか——問題の本質

「退職する方向で話はついたはずなのに、退職届を出してこない」という相談は非常に多いパターンです。この状況は、会社側から見ると「もう合意はできた」と思っていても、相手側からすると「まだ交渉中」「最終合意はしていない」と認識している可能性があることを示しています。

退職届が出ない理由は主に以下の通りです。

  • 口頭でのやり取りだけで「合意した」と思い込んでしまった(相手はまだ合意していない)
  • 退職条件(金銭・退職理由・時期等)にまだ不満がある
  • 「正式に合意したことにすると弱くなる」と考えて意図的に書面を出さない
  • 「退職届を出せ」と言われること自体が不満で抵抗している

退職届が出ない場合の対処法

退職届を出してもらえない場合の対処は以下の手順で進めます。

退職届が出ない場合の対処手順

  1. 改めて退職の意思を確認する面談を設定する——「以前の話の確認ですが、○月○日付で退職していただけますね?」と明確に確認する
  2. 退職合意書を書面で提示する——口頭ではなく書面を見せて署名を求める。退職日・退職理由・条件(解決金等)を明記した退職合意書を用意する
  3. 退職届のひな型を用意して署名を求める——「この用紙に署名してください」と具体的な書類を示す
  4. 「なぜ署名しないのか」を確認する——条件面の不満がある場合は交渉、単なる抵抗であれば毅然と求め続ける

退職届を取り交わすまでに起こりうるリスク

  • 「退職合意した」「していない」で法的に争いになり、「在籍中」という状態が継続する
  • 退職届を取らないまま、会社が「退職した」として処理すると、「解雇された」と主張されるリスクがある
  • 退職合意の証拠がないと、退職金・離職票の処理でもトラブルになりやすい

退職合意書と退職届——どちらを取るべきか

退職合意書と退職届はどちらも書面化という点では同じですが、それぞれ特徴があります。

書類の種類 特徴・メリット 注意点
退職合意書 会社と社員が合意した内容(退職日・条件・清算条項等)を双方が確認した証拠になる 内容の交渉が必要な場合は合意書の作成に時間がかかることがある
退職届 本人の意思による退職の証明。シンプルで速やかに取得しやすい 条件面(解決金等)の清算条項は別途退職合意書で確認する必要がある

特に解決金の支払いを伴う退職の場合は、退職合意書の中に「本件に関し、甲・乙間には一切の債権債務がないことを相互に確認する(清算条項)」を入れることで、後のトラブルを防ぐことができます。退職合意書の作成は弁護士にご相談ください。

弁護士法人四谷麹町法律事務所へご相談ください

事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談(初回20,000円/1時間)を実施しています。

最終更新日:2026年5月7日


能力不足の社員に退職勧奨する場合、どのような手順で進めればよいですか

この記事の要点

能力不足を理由にした退職勧奨は難しい——「具体的事実による説明」が成功の鍵

「仕事ができない」では相手は納得しない。何ができず何が問題だったかを具体的事実で説明できることが退職勧奨成功の条件

試用期間中・入社後早期の方が退職勧奨のハードルが低い

10年・20年雇い続けた後に「能力不足だ」と言っても相手の納得感を得るのは難しい。問題が分かった段階で早期に動くことが重要

退職条件(解決金・会社都合退職・年休買取等)を組み合わせると合意に至りやすい

「辞めてほしい理由の説明」+「退職条件の上乗せ」の組み合わせが退職勧奨成功の基本パターン

能力不足を理由にした退職勧奨の難しさ

能力不足を理由とした退職勧奨が難しい理由は、相手の「納得感」を得ることが難しいからです。

特に長年雇ってきた社員に対して「能力が不足している」と伝える場合、相手は「10年前から同じだったのに、今更何を言っているのか」「会社の事情でそう言っているだけではないか」と感じるのが普通です。こうした納得感の問題をクリアするためには、抽象的な評価ではなく、具体的な事実の積み重ねによる説明が必要です。

退職勧奨前の準備——事実の記録と改善機会の付与

退職勧奨前に準備すべきこと

  1. 能力不足を示す具体的事実の記録——いつ・どの業務で・何ができなかったか・何度ミスをしたかを具体的に記録する
  2. 人事評価の記録——褒めるだけでなく、問題点・改善すべき点を具体的にフィードバックした記録が必要。「ずっと褒められてきたのに突然辞めろと言われた」状況を作らない
  3. 改善指導の記録——能力不足を指摘し、改善を求めた記録(注意書・改善計画書・指導記録)
  4. 配置転換の検討——他に向いている業務がないかを検討したことの記録(退職勧奨の正当性を高める)

退職勧奨の進め方——2つのポイント

能力不足を理由とした退職勧奨で成功するための基本は以下の2点です。

ポイント① 辞めなければならない理由を具体的事実で説明する
「あなたの能力が足りない」という評価ではなく、「○月の△△のプロジェクトで○○が達成できず、会社として求めているレベルに達していない」「○月から○月まで、同様のミスが○件発生した」という形で、具体的な事実に基づいて説明します。相手が「感情で言っている」「嫌いだから言っている」と感じさせないことが重要です。

ポイント② 退職条件を提示する
具体的な退職条件(解決金・会社都合退職・残余年休の買取・退職日の猶予等)を提示することで、合意に至りやすくなります。退職条件が全くない状況では、相手が応じるモチベーションが生まれません。ただし、法外に高い条件を要求された場合は毅然と断ることも必要です。

退職条件の例

  • 解決金(在職年数・問題の程度等に応じて検討)
  • 会社都合退職扱い(雇用保険の受給に有利)
  • 残余年次有給休暇の全部または一部の買取
  • 退職日までの有給取得(引継ぎ不要で残り期間を有給消化)

退職勧奨が断られた場合の対応

能力不足を理由とした退職勧奨を断られた場合でも、以下の対応が残っています。

  • 配置転換(他の業務・部署への異動)を検討する
  • さらに能力不足を示す事実・改善指導の記録を積み重ねた上で、改めて退職勧奨を行う
  • 能力不足が著しく会社に損害を与えている場合、最終的に普通解雇を検討する(事前の指導歴が必要)

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事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談(初回20,000円/1時間)を実施しています。

最終更新日:2026年5月7日


休職期間満了後に復職したもののすぐに休む社員への対応はどうすればよいですか

この記事の要点

復職時の確認が甘い会社が「復職後すぐ休む」問題を繰り返す

主治医の診断書は「必要条件」であって「十分条件」ではない。診断書だけで復職可否を判断するのは危険

就業規則に「通算規定」を設けることが再休職の抑止力になる

復職後に同一・類似の傷病で休み始めた場合に休職日数を通算する規定を設けることで、休職・復職の繰り返しに歯止めをかけられる

復職させるかどうかの最終判断は会社(経営者)が行う——主治医・産業医の意見を参考にしながら

主治医や産業医の意見は参考情報。それを踏まえた最終判断は経営者が責任を持って行う

1. 「復職後すぐ休む」問題が起きる根本原因

復職した社員がすぐに休んでしまう最大の原因は、復職時の確認が不十分なまま復職を認めてしまうことです。

特にメンタル疾患の場合、外見からは回復しているかどうかが分かりにくく、主治医の診断書だけを頼りに判断してしまう会社が多いです。しかし、主治医は会社の業務内容を正確には把握していないことが多く、また本人が「休職期間満了までに復職しなければ退職になってしまう」という焦りから、診断書の記載に影響が出ることもあります。

2. 復職可否の判断——主治医の診断書は必要条件にすぎない

主治医の「復職可」という診断書は、復職を認めるための必要条件ですが、十分条件ではありません。診断書なしに復職させることは論外ですが、診断書だけで復職の可否を決めてしまうのも危険です。

主治医の診断書だけでは不十分な理由

  • 主治医は会社の業務内容・勤務状況を正確に把握していないことが多い
  • 本人の申告をベースに判断せざるを得ないため、楽観的な評価になりやすい
  • 「復職しないと休職期間が満了して退職になる」という本人の事情が診断に影響することがある
  • 就業制限(残業不可・出張不可・短時間勤務等)が付いている場合、実際の業務に耐えられるかどうかが不明なことがある

3. 復職時の確認方法——試し出社・主治医面談・産業医面談

復職の可否を適切に判断するために、以下の確認方法を活用してください。

復職時の確認方法
試し出社 復職の前段階として、所定の始業時刻に出社できるかを確認する。特に朝の出勤が難しい場合は、フルタイム勤務に耐えられない可能性が高い。簡単な業務をこなせるかどうかも確認する
主治医との面談 本人の同意を得た上で、主治医に会社の業務内容を説明し、本当に復職可能かどうかの見解を確認する。本人が面談に同意しない場合はそれ自体が判断材料になる
産業医面談 産業医がいる場合は、職場環境を把握している産業医の意見を参考にする。産業医が「復職不可」と判断した場合でも主治医が「復職可」と言っている場合は、さらに確認作業を続ける

4. 復職後に休み始めた場合の対処法

復職した社員がすぐに休み始めた場合、以下の手順で対応します。

  1. 欠勤の理由・状況を確認する——傷病による欠勤なのか、単なる無断欠勤なのかを区別する
  2. 医師の診断書の提出を求める——継続的に休む場合は診断書の提出を求める
  3. 再休職の要件を確認する——就業規則に再休職の要件(連続○日以上の欠勤等)が定められているかを確認する
  4. 通算規定が適用できるか確認する——同一・類似の傷病による再休職の場合、休職日数を通算して残り期間を計算する
  5. 休職期間満了時の対処を検討する——通算して休職期間が満了した場合の退職・解雇の手続きを弁護士と確認する

5. 通算規定の活用——就業規則の整備

復職後にすぐ休む問題を防ぐ最も有効な手段の一つが、就業規則への「通算規定」の整備です。

通算規定とは、同一または類似の傷病(再発・悪化等)で復職後に休み始めた場合、前回の休職期間と合算して休職期間を計算するという規定です。例えば「復職後6か月以内に同一・類似の傷病で休み始めた場合、前回の休職期間と通算する」という形で規定します。

この規定があることで、復職期間の限りを使い果たした状態でまた休職が始まれば、すぐに休職期間満了による退職・解雇の手続きに入ることができます。

就業規則に通算規定がない場合のリスク

  • 復職後に再び休んでも、休職期間がゼロからリセットされる可能性がある
  • 休職→復職→すぐ休む→休職…というサイクルが繰り返されてしまう
  • 会社も周りの社員も振り回され続けることになる

6. まとめ

  1. 復職時の確認を丁寧に行う——主治医の診断書だけで判断せず、試し出社・産業医面談・主治医面談を活用する
  2. 始業時刻への出勤ができるかが重要なチェックポイント——朝出てこれない状態での復職は慎重に判断する
  3. 復職後に休み始めたら速やかに状況確認と書類提出を求める
  4. 通算規定を就業規則に整備する——復職後の再休職に歯止めをかける仕組みを作る
  5. 最終的な復職可否の判断は会社が行う——主治医・産業医の意見を参考にしながら経営者が決断する
弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。問題社員対応・休職復職問題・労働審判など使用者側の労働問題を専門に取り扱う。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国の会社経営者の皆様へ

休職・復職問題・問題社員対応・労働審判でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談(初回20,000円/1時間)を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 休職期間満了ギリギリに「復職可」の診断書が届きました。すぐに復職させなければなりませんか?

A. すぐに復職させる必要は原則としてありません。診断書は復職を検討する出発点であって、即時復職の根拠にはなりません。就業規則に定めがある場合は休職期間の延長も検討できます。実際に面談して状態を確認したり、産業医の意見を聞いたりした上で慎重に判断してください。判断が難しい場合は弁護士にご相談ください。

Q2. 就業規則に「休職期間満了で退職」という規定がありますが、本人が退職を拒否しています。どうすればよいですか?

A. 休職期間満了による退職(自然退職)または解雇は、就業規則に根拠がある場合には原則として有効です。ただし、手続き面・規定の内容等によっては争われることもありますので、実際の手続きに入る前に必ず弁護士に相談してください。特に「退職の通知書」の書き方・送り方には注意が必要です。

Q3. 復職後に短時間勤務を求められましたが、応じなければなりませんか?

A. 短時間勤務の就業制限が業務上合理的な範囲(例:3か月程度)であれば、一定程度応じることが求められる場合もあります。ただし、長期間にわたる短時間勤務で通常業務ができない状態が続く場合は、労働契約上の業務提供ができないとして復職を認めないという判断も可能です。個別事情によって判断が異なりますので、弁護士にご相談ください。

最終更新日:2026年5月7日

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