労働問題1025 上司の許可なく勝手に残業する社員にはどう対応すればよいですか

この記事の要点

許可なく残業しているのを「知りながら放置」すると残業代が認められてしまう

気づいているのに黙認すると「黙示の残業命令があった」と評価され、残業代の支払いを命じられる可能性が高い。気づいたらすぐに帰宅させることが必須

事前許可制は「制度を作るだけ」では意味がない——実際に帰宅させる運用が必要

「許可なく残業禁止」とルールだけ作っても、許可なく残っている社員を放置すれば実質的に制度が機能していないと評価される

許可なく残業した社員への注意指導・懲戒処分は正当に行える

就業規則や業務命令に違反した行為として、適切に注意指導・懲戒処分を行うことができる

1. 勝手に残業する社員の問題点——なぜ放置してはいけないのか

残業の事前許可制を設けているにもかかわらず、許可なく残業する社員は少なくありません。こうした社員を「まあいいか」と放置してしまう会社が多いですが、これは非常に危険です。

放置することで生じる問題は主に2つあります。一つは健康管理上の問題(労働密度が低いダラダラ残業が積み重なり、過労状態になる可能性)、もう一つは残業代請求のリスク(退職後に未払い残業代として多額の請求が来ること)です。

放置した場合のリスク

  • 退職後に「未払い残業代がある」として労働審判・訴訟を起こされるリスク(時効は3年)
  • 「会社が黙認していた」=「黙示の残業命令があった」と評価され、残業代の支払いを命じられる
  • 労働密度の低い「ダラダラ残業」でも一定程度認められてしまうことがある

2. 「黙示の残業命令」とは——知りながら放置すると残業代が認められる

労働時間とは「使用者(雇い主)の指揮命令下に置かれた時間」とされています。つまり、「会社が指示して残業させた時間」が残業代の対象になるのが原則です。

ところが、許可なく残業しているのを上司・社長が知りながら放置した場合、「黙示の残業命令があった」と評価されてしまうことがあります。「黙示の残業命令」とは、明示的に「残業しろ」とは言っていないが、実質的に残業を命じていたのと同じ状況であったという法的な評価です。

残業代が認められやすいケースと認められにくいケース

残業代が認められやすいケース 残業代が認められにくいケース
許可なく残業しているのを知りながら放置していた 会社(上司)が全く知りようがなかった(深夜に無断で侵入した等)
仕事らしきことをしているのを見ていた 気づいた時点ですぐに帰宅させた記録がある
タイムカードで長時間の在社記録があることを把握していた 許可なく残業した場合は残業代不支給と明確にルール化し、実際に運用していた

3. 事前許可制の正しい運用方法

残業の事前許可制を有効に機能させるためには、ルールを作るだけでなく、実際に運用することが不可欠です。

事前許可制を機能させるための具体的な対応

  1. 許可なく残業している社員を見つけたら、その場で事情を聞いて帰宅させる(「帰ってください」と明確に指示する)
  2. 残業が必要な場合は、許可申請を出させて許可するかどうかを判断する
  3. 帰宅させた際の記録(日時・状況・やり取り)をメールで保存しておく
  4. 繰り返す場合は注意指導・懲戒処分を行う

「帰らせた事実」と「その記録」が、後の残業代請求への防御になります。放置し続けると制度が形骸化し、退職後の残業代請求に対して反論できなくなります。

4. 勝手に残業した社員への注意指導・懲戒処分

許可なく残業することは、就業規則の業務命令違反・職場秩序違反として、懲戒処分の対象となります。

対応の手順は以下の通りです。

  1. その場で帰宅させる(許可のない残業は認めないことを明確にする)
  2. 繰り返す場合は口頭での注意指導(なぜ許可なく残業したのかを確認し、改善を求める)
  3. 改善しない場合は書面での厳重注意
  4. さらに繰り返す場合は懲戒処分(就業規則の業務命令違反条項等に基づいて実施)

5. 退職後に残業代請求が来た場合の対応

「在職中は何も言わなかった社員が、退職後に残業代を請求してきた」という相談は非常に多いです。

退職後の残業代請求には時効が3年ありますので(2020年4月以降)、過去3年分の未払い残業代を一括で請求されることがあります。この場合、以下の点が重要になります。

  • 実際に残業代が発生しているかどうかの確認(タイムカード・在社記録と業務記録の照合)
  • 事前許可制の運用実態(帰宅させた記録があるか)
  • 許可なく残業していたことの記録(指導した記録等)

残業代請求を受けた場合は、速やかに弁護士に相談してください。対応が遅れると不利になります。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、団体交渉、労働組合対応、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。団体交渉対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

6. まとめ

  1. 知りながら放置すると「黙示の残業命令あり」と評価される——気づいたらすぐに帰宅させること
  2. 事前許可制は運用してこそ意味がある——制度を作るだけでなく、実際に帰宅させる運用を徹底する
  3. 帰宅させた際の記録を必ず残す——後の残業代請求への防御になる
  4. 繰り返す場合は注意指導・懲戒処分を実施する——就業規則違反として正当に対処できる
  5. 退職後の残業代請求には早期に弁護士に相談する

よくある質問(FAQ)

Q1. 「仕事が忙しいから残業しなければならない」と社員が主張しています。どう対応すればよいですか?

A. 残業の必要性があるのであれば、許可申請を出させた上で許可するかどうかを上司が判断する仕組みを徹底してください。「忙しいから」という理由で無断残業を容認してしまうと、事前許可制が機能しなくなります。業務量が多いのであれば、業務の見直しや人員配置の問題として別途対処することが必要です。

Q2. 固定残業代(みなし残業代)を支払っていますが、それでも追加の残業代を請求されますか?

A. 固定残業代が有効に機能するためには、基本給と残業代が明確に区分されていること、固定残業代に含まれる残業時間数が明示されていること等の要件を満たす必要があります。固定残業代の上限時間を超えた残業については追加の残業代が発生します。固定残業代制度の適法性については、弁護士に確認されることをお勧めします。

最終更新日:2026年5月7日

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