労働問題364 「休みなしで働きたい」と言う運転手への正しい対応|運送業の会社経営者が守るべき法的義務とリスク管理
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「本人が望んでいるから問題ない」は通用しない——労働時間規制は強行法規であり当事者の合意で変更できない 本人の同意があっても、恒常的な長時間労働は法令違反になります |
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会社経営者には労契法5条の健康配慮義務がある——本人の希望があっても過労・事故リスクを放置することはできない 運送業では交通事故が重大な結果を招くため、過労放置の責任は特に重くなります |
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週6日以上勤務させると6日目から週40時間超の時間外労働になり、週7日目(法定休日)に労働させると休日割増賃金の支払義務が生じる 「本人が働きたい」に応じるほど、残業代コストが増大します |
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「辞める」と言われても長時間労働を容認するのは経営判断として誤り——法令遵守と安全確保を優先する明確な基準を持つことが重要 違法状態を容認してまで引き留めることは、1名の退職よりはるかに大きなリスクを抱えます |
目次
01運送業で起こりがちな「もっと働かせてほしい」問題の背景
運送業では仕事熱心な方が多く、「もっと働いて稼ぎたい」「休日にも働かせてくれなければ転職する」といった要望を受けることがあります。人手不足の業界においては、働く意欲のある人材は貴重であり、会社経営者としては応えたいと感じる場面もあるでしょう。
しかし、この問題は単なる人材確保や売上拡大の話ではありません。長時間労働の容認は、法的責任と経営リスクに直結する問題です。会社経営者としてまず理解すべきなのは、「本人が希望しているから」という事情は、法令上の問題を免除する根拠にはならないという点です。
働く意欲は尊重すべきですが、無制限に受け入れることはできません。この問題は意欲の問題ではなく、法令遵守と健康確保の問題です。
02本人が望んでも長時間労働を認められない理由——強行法規と健康配慮義務
「自分が望んでいるのだから問題ないはずだ」とドライバーが主張することがあります。しかし、本人の同意があっても、恒常的な長時間労働を認めることはできません。その理由は大きく2つあります。
第一に、労働時間規制は強行法規であり、当事者の合意で自由に変更できるものではありません。時間外労働や休日労働には法的な上限があり、これを超えて働かせることは労基法違反となります。これは343番で解説した「残業代を支払わない旨の合意も無効」と同じ構造です。本人の同意があっても法令違反の状態を正当化することはできません。
第二に、会社経営者には健康配慮義務があります。労働契約法第5条は、労働者の生命・身体の安全を確保するよう配慮する義務を定めています。本人が望んでいるという事情は、この義務を免れさせるものではありません。特に運送業では、疲労蓄積による交通事故が重大な結果を招く可能性があり、「本人の希望だった」という説明は過労事故の場合でも通用しません。
「本人が望んでいるから大丈夫」が成立しない2つの理由
理由①(法的側面):労働時間規制は強行法規。本人の同意があっても法令違反状態は是正されない。恒常的に長時間労働をさせていれば「会社が違法な長時間労働をさせていた」と評価されるリスがある。
理由②(健康・安全側面):労契法5条の健康配慮義務違反。本人が望んでいても、過労状態で事故が発生した場合、損害賠償責任が問われる可能性がある。
03週40時間規制・法定休日の仕組みと残業代コストの増大
「もっと働きたい」という要望を受け入れることは、残業代コストの増大にも直結します。労基法は、原則として1日8時間・週40時間を法定労働時間と定めています(労基法32条)。
例えば週6日勤務させた場合、各日が8時間以内であっても、合計で40時間を超えれば6日目の労働が時間外労働となり、時間外割増賃金(25%以上)の支払が必要になります。これは「各日8時間以内だから問題ない」という発想では見逃してしまいます。さらに7日連続勤務させた場合、7日目は法定休日として扱われ、休日割増賃金(35%以上)の支払が必要になります。
つまり「本人が働きたい」に応じれば応じるほど、会社が支払うべき割増賃金コストが増大します。しかも、残業代コストが増えるだけでなく、法定休日付与義務違反として行政上の問題にも発展する可能性があります。
04長時間労働が将来の残業代請求リスクを生む理由
「もっと働きたい」という要望を受け入れ、恒常的に長時間労働をさせていると、将来的に残業代(割増賃金)請求という形で問題が顕在化する可能性があります。その場では本人も納得して働いていたとしても、退職後やトラブル発生後に「違法な長時間労働をさせられていた」と主張されることは珍しくありません。
特に、週40時間を超える労働・法定休日労働・深夜労働が常態化していれば、未払割増賃金の金額は高額になりやすい傾向があります。さらに、労働時間の管理が不十分であれば、実際以上に長時間労働が認定されるリスクもあります。裁判では、使用者に労働時間把握義務があることを前提に、記録が不十分な場合は労働者側の主張が重視されることがあります(363番参照)。
割増賃金の支払義務は労基法に基づく強行規定であり、本人が「もっと働きたい」と言っていたという事情は、支払義務を免れさせる理由にはなりません。長時間労働を容認することは、将来の高額請求の種をまく行為に等しい面があります。
05「辞める」と言われた場合の正しい経営判断
「もっと働かせてくれなければ辞める」と言われた場合、会社経営者としては悩ましい判断を迫られます。人手不足の中で、意欲のある運転手を失うことは痛手に感じられるでしょう。
しかし、ここで長時間労働を容認することは、短期的な人材確保のために長期的な法的リスクを抱え込む選択になりかねません。同行して働きたいという希望を押し通そうとするドライバーについては、断固として拒絶する必要があります。ドライバーの希望が通らなかった結果、転職してしまうドライバーが出てくるかもしれません。でもそれは、やむを得ない判断だと割り切るべきです。
・法令遵守を徹底することで守るのは、一人のドライバーの希望よりも会社全体の安全と持続性である
・違法状態を容認してまで引き留めることは経営として合理的とはいえない
・感情ではなく、リスク管理の観点から判断する
06ドライバーの意欲を活かしつつリスクを抑える方法
「もっと働きたい」という意欲そのものは否定する必要はありません。問題は、その意欲をどのように法令の範囲内で活かすかです。「時間を増やすこと」だけが収入増の方法ではないという発想の転換が重要です。
ドライバーの意欲を法令の範囲内で活かすための3つのアプローチ
①法令の枠内で安定的に稼げる仕組みを整える:繁忙期と閑散期の業務配分を見直す・効率的な配車計画を構築するなど、時間ではなく生産性で収入を確保する工夫をする
②適法な36協定の範囲内で時間外労働を管理する:時間外労働が必要な場合でも、月間・年間の時間外労働時間を可視化し、法令の枠内で対応する
③健康状態を継続的に確認する:長時間労働が続く場合には、疲労の蓄積や睡眠不足の兆候がないかを確認し、必要に応じて業務量を調整する(労契法5条の健康配慮義務)
あるていどは休日出勤の意欲がある方に少しはやってもらっても構いません。しかし、恒常的に長時間労働を希望し、その状態が常態化する場合には、断固として歯止めをかける必要があります。法令の範囲内で最大限働ける環境を整えることと、健康を損なう可能性がある働き方には歯止めをかけること——この二つを両立させることが、長期的に持続可能な経営につながります。
07まとめ
「休日なしで働かせてほしい」というドライバーの希望に応じることは、①労働時間規制(強行法規)違反、②労契法5条の健康配慮義務違反、③週40時間超・法定休日労働による割増賃金コストの増大、④将来の残業代請求リスクの積み上げ——という4つの問題を同時に抱えることになります。本人が望んでいるという事情は、これらのリスクを免除する根拠にはなりません。「辞める」と言われても法令の枠を超える働き方は認めない、という明確な基準を持つことが会社経営者としての正しい姿勢です。法令遵守と安全確保を優先することが、長期的には最も経営リスクの少ない選択です。具体的な対応については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。ドライバーから残業代請求を受けた・受けそうな運送会社の方、労働時間管理・賃金設計の見直しをお考えの方はご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。
Q&Aよくある質問
Q1. ドライバーが「休日手当なしで働く」という同意書にサインしていれば問題ありませんか。
A. 問題があります。法定休日労働に対する35%以上の割増賃金支払義務は労基法の強行規定であり、労働者が同意していても免除されません(343番・344番参照)。同意書はむしろ「会社が義務があると知りながら免れようとした」という証拠になりかねません。法定の休日割増賃金は確実に支払う必要があります。
Q2. 週6日勤務なら各日8時間以内であれば残業代は発生しないのでは?
A. 発生します。労基法は1日8時間・週40時間のいずれかを超えた場合に時間外割増賃金の支払義務が生じると規定しています。週6日×8時間=48時間であれば、週40時間を8時間超過しており、その部分は時間外労働として25%以上の割増賃金が必要です。日単位だけでなく週単位での管理も不可欠です。
Q3. 「1か月に30日働いた」というドライバーに適切に対応できますか。
A. 直ちに是正が必要です。30日連続勤務では法定休日付与義務(1週1休)に違反し、深刻な健康問題・過労事故のリスクがあるほか、膨大な残業代・休日割増賃金が発生しています。過去分の未払残業代が高額になっている可能性もあります。速やかに使用者側弁護士に相談し、是正方針を立てることをお勧めします。
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最終更新日:2026年5月31日